思わぬ経緯で東京成徳大学女子部を指導することになったものの、「他者貢献」というキーワードを軸に優しさと強さを兼ね備えたチーム作りを目指すようになった小林康裕コーチ。いよいよ目前に迫ったウインターカップに向けたチームの状況や意気込みを聞いた。
「強い個性がハマるとものすごいパワーを発揮する」
──ここからはチームのお話をうかがわせていただきます。まずはこれまでの今年度のチームの歩みを振り返っていただけますか。
下級生から試合に出ている選手が多くはありましたが、マネージャーも含めてまぁとにかく一人ひとりの個性が強い(笑)。なので、その強い個性がどうまとまっていくかというところが彼女たちの最終ゴールで、ウインターカップの大きなカギになるんじゃないかと考えています。一方で無理に一体感を求めにいくと個のパワーが弱まってしまうので、そのパワーを生かしながら目的地に向かっていく。そうしたらより大きなエネルギーが生まれるのではないかなと。なのでこちらからのアプローチも「規律を守ることを軸にしつつ、目的地に向けて最適な方法を探そう」というものにしています。
──練習を拝見させていただきましたが、ご指導の声かけが独特な印象を受けました。「◯◯しなさい」ではなく「自分たちはどうしたいの?それを実現するためにはどうしたらいいの?」というような。今のお話をうかがって納得しました。
言語化は大切にさせていますね。どこにパスが欲しいのか、どの角度でスクリーンをかけてほしいのか、ディフェンスはどう守っているのか、練習中から全部言葉にして伝えなさいって。簡単なことではありませんし、今もまだまだ高いレベルでできているとは言えませんが、バスケットはもちろんそれ以外の場所でも自分を表現できる人になってほしいという思いを込めて、いろいろなことを問いかけて選手に考えさせるようにしています。

──先ほど、中里杏奈選手と三好夢芽チーディマネージャーにお話を聞かせていただきました。三好マネージャーは大変にキャラクターが立っていましたが、中里選手は控えめで「個が強い」という印象は受けませんでした。
おっしゃるとおりの控えめな性格なんですが、それも強い個性ですし、最上級生になって多少は自分を表現できるようになりました。逆に主張が強すぎる選手も多々いますが(笑)。
──いろんな方向性で個性が強いんですね。
はい。なのでこじんまりとまとまらせるのはもったいないですし、歯車が噛み合うとものすごいパワーを発揮します。キャプテンの清田優心も優しいタイプなので、「副キャプテンの中里と舵を取ってまとまりなさいよ」ぐらいの感じでいいのかなっていう。
──リーダーたちに求心力を求めているわけではないのですね。興味深いです。
「君たちは全員がリーダーだよ」という考え方ですね。今日も練習終了時に「キャプテン」でなく「3年」という大きな言い方で「このままで本当に本番大丈夫なの?」という話をしました。チームの最終章であるウインターカップに向けて覚悟を持って取り組むため、お互いが人任せになるのではなく、チームのために「私ができること」を考えてほしかったんです。学生スポーツは毎年人が入れ替わりカラーが変わるので、常々「この選手たちが全力を出せるためにはどうアプローチしたらいいだろう?」と私自身がアップデートすることの繰り返しです。
──ウインターカップの初戦はインターハイ8強の倉敷翠松(岡山)です。どのような戦いを見せたいですか?
選手たちのシーズン当初の目標は「全国ベスト4」ですが、僕は東京成徳を率いる以上日本一を目指すことが使命だと思っていますし、「今年は無理だ」と思ったことは一度もありません。ただ、勝負はあくまで1回戦。翠松さんはすごく良いチームで、地元インターハイという機運に乗ってベスト8まで勝ち上がったというようなチームではありませんから。1回戦から自分たちの力をしっかり出すことができたら、彼女たちの目的地はもちろん、それ以上も目指せると確信しています。
