カイリー・アービングのケガでポイントガードが必要
セルティックスのシーズンが終了して1カ月が経過した。この間、来シーズンのチーム編成に目立った動きは見られないが、チームを取り巻く雰囲気は重い。アキレス腱を断裂したジェイソン・テイタムが来シーズンを全休する可能性が高いことで、編成上の苦しい決断を迫られているからだ。
2023-24シーズンに優勝したチームは、ほとんど変化を加えることなく今シーズンに臨んでいた。ジェイレン・ブラウンとテイタムという生え抜きのスーパースター2人を中心に戦力は充実し、連覇を目指せる陣容の代償として非常に高額なサラリーを抱えていた。主力の多くは来シーズンも契約が残っているが、現状を維持すればサラリーと税金を合わせて5億ドル(約750億円)という巨額の費用を支払うことになる。
もしテイタムのケガがなくNBA連覇を果たしていたら、オーナーは莫大な負債を背負う覚悟でスリーピートの夢に賭けたかもしれないが、その可能性は潰えた。テイタムのケガはセルティックスのプロジェクトを大幅に後退させる。現実的に優勝を狙えない時点で、セカンドエプロンより下へのサラリー削減は必須で、そのためには2000万ドル(約20億円)を削る必要がある。
ドリュー・ホリデーはトレード候補の一番手だ。バックスとセルティックスで優勝経験があり、35歳になった今も堅実なディフェンスとリーダーシップはいまだ衰えを見せない。しかし、35歳の彼は残り3年で1億500万ドル(約160億円)という重い契約を残している。ポイントガードとリーダーシップを必要とし、彼の契約を受け入れることのできるチームは相当に限られてくる。
ここで今、ホリデーを巡ってセルティックスと利害が一致すると見られているのがマーベリックスだ。今年2月にルカ・ドンチッチを放出したマブスは、『ディフェンスで勝つ』を合言葉にチームを再編している。アンソニー・デイビス、カイリー・アービング、クレイ・トンプソンと実績のある選手を擁するが、カイリーが3月に左膝前十字靭帯断裂の重傷を負い、復帰は来シーズン終盤の見込みで、それまで先発ポイントガードが必要になる。ホリデーはその穴を埋められるし、同じポイントガードでもプレースタイルが異なるため、カイリー復帰後に一緒にプレーすることも可能だ。
マブスもサラリーキャップに余裕があるわけではないが、セルティックスほど逼迫しているわけではない。ドンチッチ放出で世界中から嘲笑を浴びたが、ドラフト1位指名権を引き当てる幸運に恵まれてクーパー・フラッグを獲得できる。35歳のクレイ、33歳のカイリー、32歳のデイビスが主力である以上、『すぐに勝てるチーム』の編成が必要で、ホリデーを獲得すれば新シーズンのサプライズチームへと変貌するかもしれない。
とはいえ、ニーズはあっても交渉は簡単ではない。サラリー削減というセルティックスの目的が明らかである以上、足元を見られるのは避けられない。セルティックスは自前の1巡目指名権をまだ数多く保有している。そのいくつかを譲渡してでも、今オフはサラリーを削減することになるだろう。
サラリー削減という『戦術的後退』を余儀なくされている今、リピータータックスのリセットまで到達すれば理想的だが、テイタムが復帰した時にすぐに優勝争いを演じられる戦力を残しておく必要もある。1年前に優勝したカルチャーを失わないという意味で、ブラウンやデリック・ホワイトまで手放すわけにはいかない。
黄金期を築く可能性のあったセルティックスは、サラリーをどう管理するかだけが課題だったはずが、ケガというアクシデントにより理不尽かつ厳しい決断を余儀なくされている。しかし、ここで中長期プロジェクトを正しい方向へ軌道修正できるかどうかが、セルティックスの今後5年、10年を左右する。