『GLOBALLERS』は、日本から世界へ羽ばたく若き才能を発掘し「世界と勝負できる日本人バスケットボール選手」を発掘、育成するプロジェクト。国内でトライアウトを行ってチームを編成し、アメリカでのキャンプと大会出場を行う計画は、新型コロナウイルスの影響で変更を余儀なくされたが、それでも海外を意識するやり方で国内で精力的な活動を行っている。コーチを務めるMARUとBANGLEEはいずれもプレーヤーとしてアメリカに渡った経験を持つ。その2人に、若いバスケ選手が海外に挑戦する意義を聞いた。
『GLOBALLERS』は日本から世界へ羽ばたく若き才能を発掘、育成するプロジェクト
──海外挑戦をサポートする立場として、まずはお2人がアメリカのバスケに触れたきっかけを教えてください。
BANGLEE 僕は以前、日本で言われるストリートボールやプレイグランドバスケットボールのメッカであるニューヨークに長くいて、そこで数ある大会に出場していました。出たいと思う大会にはすべて出たことでやりきったと感じ、帰国して『SpaceBall Mag』という会社を立ち上げました。それからはプレーヤーよりもオーガナイザーとして、ワークアウトコーチやスキルトレーナーといった活動をしています。ただ、コンセプトとして掲げているのは普及よりも『挑戦』で、どこに挑戦するかと言えばやっぱり海外、アメリカです。アメリカのバスケのすごさ、奥深さを体感しているので、戦う舞台をあっちに置きたいと思いました。
MARU 僕自身は中学生の時にマイケル・ジョーダンのバスケットボールキャンプに3回参加したのをきっかけに、留学したいと思うようになり、高校を卒業して英語を1年間勉強して、向こうの短大に行きました。ただ、短大では1年プレーしただけで帰国したので、自分の中で納得いくまでやれたわけではなかったです。それで日本で教える側に立つようになって、海外でプレーする魅力を伝えることが僕のチャレンジになりました。
BANGLEE ウチでやっているイベントでも勝った選手をニューヨークに連れて行くとか、『FUTURE BOUND CLASSIC』という大会のファイナル4ではユーロ選抜vsアジア選抜のエキシビジョンを行う取り組みをやってきました。基本的には僕が1人で何かを広げるよりも、海外に連れて行った選手たちが向こうで得たものを日本に戻って還元する形を目指しています。
──アメリカはバスケットボールの本場で、そのレベルは世界一です。日本人がそこでプレーすることの意義をどう考えますか?
MARU バスケのレベルが高いだけでなく、あちらには日本にはない魅力があります。今回のGLOBALLERSは中学生が対象で、日本の中学生のプレー環境はすごく良いと僕は思っているのですが、バスケだけじゃなく言葉が通用しない現実を知ることも自分の人間力を磨くことになるし、バスケ以外の世界を知ることで価値観が広がって、選択肢が増えていきます。僕自身も中学で世界に触れたことがきっかけで世界に挑戦する、留学することを決めました。だから大事なのはきっかけを与えてあげることだと思います。
──海外に行ったことで、人生にどんな影響がありましたか?
BANGLEE バスケットボールに懸けるためにアメリカに行ったことで、バスケットボールと生きていく覚悟が固まりました。ニューヨークで見た中で一番大きかったのは、バスケで飯を食っている人が多かった、つまり雇用が多かったことです。日本はバスケに限らずスポーツ全般でボランティアが支えている部分が大きく、スポーツでお金をもらう文化が定着していません。雇用の差が競技レベルの差になるのは当たり前だと感じました。
MARU 向こうでは学校でバスケをすることがビジネスと一緒に成り立っていて、お金をもらっている以上はそれが高かろうが安かろうがプロとしての責任が生まれます。中学校でも試合になればチアやMCがいて、その年代から演出も含めてバスケの魅力が成り立っている。その中でプレーすることに僕は魅力を感じたし、指導者としてお金を稼いで、それで生計を立てていくヒントももらえました。日本のバスケが発展する上でも、同じようなヒントがいっぱいあると思います。
BANGLEE「中学生の多感な時期に海外に行って影響を受けるのは良いこと」
──よりレベルの高いバスケを肌で感じるには海外へ出るのが一番だと思います。ただお金の面や学業との両立など難しい点もたくさんありますよね。昔と今で、海外を目指す選手たちの意識に変化はあると思いますか?
BANGLEE 渡邊雄太選手と八村塁選手の影響はすごく大きいです。同じ日本人のNBA選手が2人いるのはアジアではあり得ないことだと思うし、昔は「NBA選手になりたい」という言葉は夢物語みたいなところがあったと思うんですけど、今の子たちは普通に口に出します。あの2人のおかげで、若い選手たちの意識は大きく変わったと思います。あとは『SLAM DUNK』の影響は昔から大きいですね。流川にしても沢北にしても、高校で日本一になってアメリカに行く。そのイメージは日本のバスケシーンに植え付けられています。ただ、これは良い意味でも悪い意味でも影響があって、僕はもっと早く行けばいいと思っています。
MARU 中学の時に海外に出ようと決めたきっかけは、1歳上の仲西淳さんにあこがれて、追い掛けていったからです。彼のハンドリングは海外で通用していたし、僕が指導している小中学生を海外に連れていってもハンドリングはすごく良くて評価されます。そう考えると早い時期に行くのも一つの正解だと思うし、逆に日本のバスケの良さもあるので、それを学んでから行くのもアリだと思います。
BANGLEE 僕は高校生や大学生のイベントやワークアウトもしていますが、年齢を重ねれば重ねるほど癖がついて柔軟性が失われると感じます。大人でも頭の柔らかい選手もいますが、アベレージで言えばどんどん凝り固まっていってしまう。だから中学生の多感な時期に海外に行って影響を受けるのは良いことだと思うし、それがGLOBALLERSにも繋がっています。
MARU 環境もあるし、その人に合う合わないもあるので、何が正解かは正直分かりません。ただ、GLOBALLERSはゼロから可能性を広げるプロジェクトで、本気で行きたいと思う選手にチャンスがあることが大事なのは間違いないです。「こうすべき」とアドバイスするよりは、チャンスを用意してみんながチャレンジできる環境ができたことに意味があると考えています。
──GLOBALLERSに参加すれば成功が約束されるわけではないですが、チャレンジする機会は与えられるということですね。
BANGLEE そうです。一番の目標はGLOBALLERSからNBAやGリーグでプレーする選手を出すことです。ただ、あくまでバスケで成長を目指すのですが、その中で向こうの文化を学んで多くを吸収して、例えば英語が話せるようになればバスケで成功できなくても社会にとって良い人材になれるかもしれません。そうやって可能性が広がっていきます。そういう意味ではGLOBALLERSでも、2期生が終わったから「ハイ、さよなら」ではなくて、15人全員がこれからどうなっていくか楽しみだし期待しているし、違う舞台でまた一緒にやりたいです。実際、1期生の選手たちともGLOBALLERSの縁から今でもかかわっています。
MARU「ミスするたびに落ち込むよりは前を向いて何度もチャレンジしてほしい」
──海外でバスケをやれば文武両道がマストになります。海外を目指す選手は勉強も手が抜けないですね?
BANGLEE 大学だと選手たちは朝練をして、大学の授業が始まる前に日常会話のクラスに行って、練習が終わって帰って来たら宿題をやってさらに英語の勉強をやります。遠征から夜中に帰ってきてもそこから勉強して、7時起きで朝練です。同じアメリカに行くにしても、英語圏で生まれ育っていればまだ簡単でしょうけど、日本人が語学力がない状態で行くと授業についていくのがまず大変です。英語の負荷が大きすぎて他の教科まで手が回らない。当然、日本にいるうちにできる準備はしておいた方がいいですよね。僕が子供たちによく言うのは、「海外でバスケしたい」、「NBA選手になりたい」と言うのであれば、24時間の使い方でYouTubeやTikTokを見たりゲームをするのは違うんじゃないかな、ということです。みんながみんな海外志向じゃないと思うんですけど、バスケ以外の時間をどう活用するかの意識はすごく大事だと思います。
──GLOBALLERSの活動の中で、バスケの面で選手の意識が変わったというエピソードはありますか?
MARU GLOBALLERSは「自分のチームではエースです」という選手が全国から集まって一つのチームになるので、上手くてもそこで柔軟に対応する力が弱い選手が結構います。僕らもそこを指導したり要求したりします。勉強の話も同じなんですけど、スキルトレーニングにしても私生活にしても、海外挑戦に対する準備の部分でも、選手の何かしらの変化は毎回感じ取れるし、1年で表情もすごく変わります。アメリカに行くかどうかは別として、日本の強豪校でバスケを続けるにしても、勝っていく上で必要な部分の成長が見られるのは、毎年すごく楽しいです。
──GLOBALLERSに興味を持っているU15年代の選手たちにメッセージをお願いします。
BANGLEE 厳しいことを言うようですが、コーチに「行ってこい」と言われたから来た、連れて来られたというマインドではダメです。試合では「これはトライアウトなんだ」という意識を持ってプレーしてほしい。つまり、僕らは勝ち負けはどうでもよくて、一つだけでも良いムーブを見せてくれれば「そういうプレーができるんだ」という受け止め方をします。プレータイムは関係ないし、ボールを持つ機会がなくても動きを見れば判断できます。
MARU 僕自身、トライアウトに受かって喜んだことも、落ちてガッカリしたこともあります。でも、まずは行動を起こさないと何も生まれないし、トライアウトに参加しただけでもプラスは絶対にあるはずです。海外でバスケをやりたい、GLOBALLERSのやっていることに興味がある人は、まず受けてもらいたいです。過去の2年間を振り返っても、良いプレーや面白いプレー一つでチャンスをつかむ選手はいます。シュートは外れることの方が多いし、ミスが多いスポーツなので、ミスするたびに落ち込むよりは前を向いて何度もチャレンジしたり、ポジティブな気持ちを表現してほしいです。
BANGLEE そうですね。普通の試合に勝ち負けがあるように、トライアウトには落ちる落ちないがあります。その時にどうやったら落ちないのか、ルーズボール一つに飛び込むだけでも目を引くことはできます。試合に出なければチャンスはないですけど、出た時間にどういう取り組みをするかが大事だし、「自分はこういうことができる」というプレーを見せてもらえたら僕らはうれしいです。
MARU みんな「頑張りました」とは言うけど、「じゃあ何を頑張ったの?」と聞くと答えられないことが多い。それじゃもったいないと思います。「これができる」という自分の武器を見せられるよう必死にやる、そんな選手を見たいです。そのつもりで準備してくれば、トライアウトでは良いプレーができると思うので、そういう選手が増えることを楽しみにして、また今年も全国を回ろうと思います。
2022年のGLOBALLERSプロジェクトでは、これまでのU15に加えてU13/U14(新中学1年生/2年生)の挑戦枠が新たに追加された。U15と同じように、海外挑戦や奨学金獲得に繋がる。
また、『育成』というGLOBALLERSが掲げるテーマの一つとして、オンライン英会話やネイティブバスケコーチによる英会話合宿も実施する予定。現地でのチャレンジにはバスケの能力だけでなく語学力がマストなのは、2人のコーチも実体験を以って感じているところ。これらのプログラムはGLOBALLERSの全員が受講可能となる。
さらなるトピックとしては、GLOBALLERSを主催する『株式会社サン・クロレラ』がマドリード(スペイン)に拠点をもつバスケットボールクラブ『ZENTRO BASKETBALL MADRID』(セントロ・バスケット・マドリード)」とのパートナーシップを締結した。同社がサポートする岡田大河選手も所属するチームとのパートナーシップにより、GLOBALLERSの活動の場がヨーロッパに広がる可能性も見えてきた。この後も長く続いていくGLOBALLERSの活動が日本のバスケを変えていく、その先にどんな未来が待っているのか楽しみだ。