文=深川峻太郎 写真=Getty Images、B.LEAGUE
著者プロフィール 深川峻太郎(ふかがわ・しゅんたろう)
ライター。1964年生まれ。2002年に『キャプテン翼勝利学』でデビューし、月刊『サッカーズ』で連載コラム「お茶の間にルーズボール」を執筆。中学生の読者から「中身カラッポだけどサイコー」との感想が届いた。09年には本名(岡田仁志)で『闇の中の翼たち ブラインドサッカー日本代表の苦闘』を上梓。バスケ観戦は初心者だが、スポーツ中継を見始めると熱中してツイートしまくるタイプ。近頃はテニス観戦にもハマっている。月刊誌『SAPIO』でコラム「日本人のホコロビ」を連載中。

「JR渋谷駅」からの「SR渋谷」が醸し出す『お馴染み』感

東京都内在住のにわかBリーグファンにとって、「地元クラブ」はどこなのか。これはなかなかムズカシイ問題である。先月、ブレックスアリーナで地元ブースターの楽しそうな様子を見て「やっぱりいいよね、こういうの」と思ったわけだが、では自分のホームアリーナはどこなのかと考えると、よくわからない。東京の場合、B1からB3まで2つずつ(計6クラブ)あるので、迷ってしまう。

そもそも、そのすべてに「地元感」が持てるかといえば、決してそんなことはない。杉並区民の私から見ると、本拠地が府中市や板橋区や大田区や八王子市などのクラブは、神奈川県や埼玉県のクラブと大差ない距離感。むしろアウェー感のほうが強い。

しかし唯一、杉並区とは関係ないものの親近感を持てるクラブがある。「東京」ではなく、もっと狭いエリアに限定した地域名を名乗るクラブ。そう、サンロッカーズ渋谷だ。

東京の人間は、行政単位としての市区町村よりも、中央線、西武新宿線、東横線、京王線、小田急線などなど、自分の暮らす「沿線」に愛着を抱く傾向がある。渋谷と吉祥寺を結ぶ井の頭線沿線で人生の半分以上を過ごしてきた私にとって、乗り換えのために頻繁に利用する「渋谷駅」は馴染み深い場所だ。

まあ、街に出ちゃうと、JKのみなさんが練り歩くセンター街あたりはアウェー感バリバリっすけどね。とはいえ、それは地域的なギャップではなく年代的なギャップである。それに、私にとっての渋谷は主に「駅」だ。そして「SR渋谷」の略称は「JR渋谷」を連想させるので、ちょっと駅っぽい。「ホーム」感は十分である。

そんなわけで、とりあえずサンロッカーズをわが地元クラブと決め、11月20日の三遠ネオフェニックス戦を見に行ったのだった。ホームアリーナのある青山学院大学周辺は、おっさんでも安心できる落ち着いた風情。青学のキャンパスは、色づいた銀杏がたいへん美しい。二十数年前、結婚式の二次会をこの近くの中華レストランでやったことを思い出したりもした。うんうん、やっぱりここはホームだよ。

黄色のユニフォーム、胸に「HITACHI」のロゴ……レイソル?

ところが、アリーナに入るやいなや強い違和感に襲われた。SR渋谷のユニフォームは黄色で、胸に「HITACHI」のロゴ。Jリーグを見たことのある人なら、誰でも同じことを感じるだろう。そこから否応なく発散されるのは、明らかに「柏レイソル感」であった。

NBL時代の「日立サンロッカーズ東京」は、東京と柏のダブルフランチャイズだったというから、やむを得ない面もある。しかし「渋谷でバスケ」を売りにする今、千葉県テイストはいささかマズいのではないか。スポーツ界での存在感を高めることで、いつかはイメージを逆転し、柏レイソルを見た人がその「渋谷っぽさ」に途惑うようになってほしいものである。

さて、最初に覚えたサンロッカーズの背番号は「36」だった。選手ではない。マスコットのサンディ君だ。サンロッカーズだから、3と6。安易だけど、嫌いじゃないよ、そのベタなセンス。それ以外の番号は思いつかないし。

風貌がそこはかとなくジャングル大帝に似てるのでライオンかと思ったら、どうやらサンディ君はホッキョクグマであるらしい。なぜ渋谷でホッキョクグマなのかは謎だが、サンディ君には何か心惹かれるものがあった。立ち居振る舞いに、番長的なカリスマ性がある。粗暴さを内包した頼もしさ、とでも言おうか。サンディ君と一緒なら、夜の渋谷センター街もオドオドせずに歩けそうだ。

しかもチアと一緒にダンスを踊れば、キレッキレのシャープな動き。すっかりサンディ君のファンになってしまったので、試合中に記者席の前に立ちふさがって視界を完全ブロックされても(苦笑はしたけど)腹は立たなかった。そりゃあ仕方ないよ、番長なんだから。帰りには、売店で人形も買いました。

試合のほうは、第1クオーターで20-14と渋谷がリードを奪ったものの、第2クオーター途中に逆転されてからは基本的に三遠ペース。とくに36-38で迎えた第3クオーターの入り方がよろしくなかった。太田敦也に連続ゴールを決められ、アイラ・ブラウンが3ポイントシュートを落とし、逆に田渡修人に3ポイントシュートをねじ込まれて、あっという間に36-45である。

しかしその1分後、渋谷ブースターを勇気づけるビッグプレーが飛び出した。伊藤駿からのパスをアイラ・ブラウンがジャンプしてキャッチし、そのままシュート。おお! こ・れ・は! あ・の・有・名・な! いわゆるひとつのアリウープではないか!

私はコーフンした。「アリウープ」なる言葉を知ったのは、ほんの半年ほど前、いまさら『スラムダンク』を全巻オトナ買いして一気読みしたときだ。その後、ネット上の動画などで見たことはあるので、マンガの世界だけのミラクルプレーではないことは知っていたけれど、生アリウープはこれが初体験。アリウープいいよアリウープ。テンション上がりまくりだよ。

試合後の喫煙所、月バス読者に教わるバスケットボールの含蓄

これで勢いづいた渋谷は、第4クオーターに入るとジリジリと点差を縮めた。残り5分30秒には、ゴール下から満原優樹が無理やり入れて57-58。さらにディフェンスリバウンドを奪取して速攻に転じた渋谷は、広瀬健太がゴール前に高々とパスを放り投げ、アイラ・ブラウンが宙に飛んだ。アリウープ再び!

しかし、これはタイミングがまったく合わずに失敗。あれが華麗に決まっていれば、試合の主導権は完全に渋谷が奪い返していたに違いない。その後、残り4分20秒で広瀬が3ポイントを決めて60-58と逆転はしたものの、そこから試合終了まで、渋谷は1点も取れなかった。60-60から太田にバスケット・カウントを与え、終了間際のファウルゲームでもフリースローを2本とも決められて、SR渋谷60-65三遠である。

試合後、喫煙所で一服していたら、渋谷ブースターの男性に「ゲツバスの取材っすか?」と声をかけられた。何のことか一瞬わからなかったが、首から下げた私のプレスカードを見て、「月刊バスケットボール」誌のライターだと思ったようだ。ネット媒体だと答えると、「あー、いまはネットありますもんね。昔はゲツバスしかなかったから、何度も何度もくり返し読んでたっす」と言う。33歳、マイケル・ジョーダンの全盛期にNBAをテレビで見まくっていた世代らしい。

私が正直に「にわかファン」であることを告げると、ミスター・ゲツバスはいろいろと教えてくれた。面白かったのは、最後のアリウープのことだ。私が「あれが決まっていればねぇ」と言うと、彼は「あんな場面でやるプレーじゃないっす」とバッサリである。そっかー。なるほど、さすが筋金入りのバスケファンは辛口だ。たしかに、1点ビハインドの第4クオーター残り5分で選択するには、リスクが大きすぎる。勉強になりました~。

でも、あの場面で「サイコーにクールな逆転シーン」を見せようとしたサンロッカーズのことが、私は嫌いになれない。きっとサンディ番長も、失敗を怖がらないああいう大胆なプレーがお好きなんじゃないかな。

それにしても、だ。Bリーグ開幕以来、私が現場に行って注目したチームは負けてばかりである。開幕戦は、ヘアスタイルで期待した波多野の琉球ゴールデンキングスが負け。先月は宇都宮まで田臥勇太を見に行ったら、栃木ブレックスが負けた。

実は先週、B3の東京サンレーヴスvs東京八王子トレインズも見に行ったのだが、応援したサンレーヴスが負けてしまった。サンレーヴスは私が7歳から25歳まで暮らした小金井市で試合をすることもあるようだし、先日の試合会場(柴崎市民体育館)は通っていた高校の近くだったりするので、けっこう地元感があるのだ。

肩入れしたチームの4連敗は、わりとツラい。私は生まれてから2歳まで旭川で暮らした道産子でもあるので、一度はレバンガ北海道の試合を見たいと思っているのだが、どうしたもんじゃろのう。ちょっと迷っている。なんだか、個人的な居住歴を伝える自己紹介みたいな記事になってしまった。

にわかファン時評「彼方からのエアボール」
第1回:最初で最後のNBL観戦
第2回:バスケは背比べではなかった
第3回:小錦八十吉と渡邊雄太
第4回:盛りだくさんの『歴史的開幕戦』に立ち会う
第5回:吉田亜沙美がもたらした「大逆転勝利」
第6回:フラグなき逆転劇と宇都宮餃子