バスケット・カウント

稲葉繁樹(いなば・しげき)
1981年生まれ、福岡県出身。『バスケット・カウント』プロデューサーにして運営会社である株式会社ティーアンドエス代表取締役社長。デジタルコンテンツ、映像、広告、音楽、イベントなど、ジャンルを問わず多角的に活動する。草バスケプレーヤーであり、20年来のブルズファンでもある。お寿司大好き。

鈴木健一郎(すずき・けんいちろう)
1973年生まれ、愛知県出身。2016年4月創設の『バスケット・カウント』編集長。サッカー専門メディアで10年以上活動した後にティーアンドエスに入社し、稲葉とタッグを組んでバスケメディアを立ち上げて運営している。もともとは野球部で、同い年で名前も似ているイチローがマイレジェンド。レブロンの猛プッシュによりタコスがマイブーム。

バスケットボール界に「ハッピースパイラル」を

鈴木(編集長)
この『バスケット・カウント』を始めたのが2016年4月で、その半年前から本格的な準備を始めて。当時はFIBAから日本バスケットボール協会への制裁がようやく解けたところ、Bリーグはまだ構想だけが表に出てきている状況で、期待よりも不安が大きい時期だった。それが今はブームみたいなものが来ていて、テレビの情報番組やワイドショーでもバスケが扱われるようにはなった。約4年前を思い出すと「よくここまで来たな」という感があるところまで来たわけで、良いタイミングだから『バスケット・カウント』の過去から未来まで語ろうと思います。

稲葉(社長)
たくさんの人が見てくれるメディアになったから、読者の人たちへのお礼をまずは言わないといけないね。そういう場は、こっちで作らないと。読者の皆さん、いつもありがとうございます!

鈴木 
今でもいろんな人に聞かれるのが、メディアの会社ではないこの会社がどうして『バスケット・カウント』を始めることにしたのか、という話。ウチのスタッフも「社長がバスケ好きだからだろ」って思ってるかもしれない(笑)。もともとコンテンツを作ることはあってもそれが主たる業務ではない会社が、なぜ自社でメディアをやるのか。それがスポーツであり、バスケである理由は何だったのか、という話からスタートしようか。

稲葉 
そうだね。株式会社ティーアンドエスは『ハッピースパイラル』という、造語だけどキャッチコピーとして通用する言葉を以前から掲げていて、つまり社会の好循環を目指します、という会社です。俺は例えば福岡地域戦略推進協議会にフェローとしてかかわっているみたいに、あっちこっちに首を突っ込んでいるんだけど、「世の中のお困りごとを解決します」というスタンス。社会の課題に対してアプローチするにあたって、その手法として広告とシステムを得意としている。だから「なぜバスケットボールのメディアなのか」と問われれば、まず当時、日本のバスケがFIBAから制裁を受けていて、その課題を解決すべく川淵三郎さんを中心にタスクフォースが動いていた。でも、あれを見た時に正直思ったのが「一般の人と遠いな」だったの。関係者が集まってブラックボックスの中で何かゴニョゴニョやってる、という見え方だった。

鈴木 
序盤から危なすぎるんだけど大丈夫?(笑)

稲葉 
大丈夫(笑)。それは一般のバスケットボールファンに伝えるメディアがないからだって話だから。まだウチもフロムワンさん(バスケットボールキング)もやっていなかったし、月バスは雑誌メディアでしかも月刊誌だしね。WEBの総合メディアの中にもバスケ記事はあって、『Number』も『スポルティーバ』もNBAの記事はあったけど、バスケットボールメディアではないから日本バスケ界の問題に向き合う感じではなかったよね。その状況が、小学生からバスケをやっていた俺からすると「つまらないな」と思って。バスケットボール界全体を改革して良くする流れがあった時に、その情報がたくさんの人に届く環境を作ることに意義を感じたってことかな。

鈴木 
すでに観戦スポーツとして出来上がっているプロ野球やサッカーも、それはそれで根深い問題をそれぞれ抱えているけど、そちらに入って行こうとは思わなかった?

稲葉 
野球とサッカーはそれぞれ違う問題があるけど、バスケで気になったのはちゃんとビジネスとしてそこに投資する人たちが極端に少なかったこと。勇気を持ってどこかがやらないとダメだな、というのがあった。もう一つだけ考えていたのが水泳。あれだけメダルを取っているのに、そこにかかわる人たちの情報はあまり出てこないと感じてた。レスリングとか柔道もそうだけど、ちゃんと協会があって大学も連携していて、社会人でも協力してくれる人たちがいて。その後にハラスメントの問題が出てくるんだけど、大変ながら頑張っているという見方をしてた。バスケはFIBAからの制裁がキツすぎて、頑張るにしてもどっち方向だっけ、という難しさがあったから。別にバスケ界の誰かに頼まれたわけじゃなく、バスケットボールが俺に語り掛けてきた。

鈴木 
メンナク(メンズナックル)か!(笑)

稲葉 
ちょうどそのタイミングで、草バスケのチームにちゃんと入ってバスケをやり直してて、そのチームが年齢も性別も国籍もバラバラで、すごく楽しかったんだよ。東京の草バスケは中国人のプレーヤーが多くてさ。そこで友達もいっぱいできたんだけど、気が付いたらみんなバスケが大好きなのに、「バスケを見に行こう」って話には一回もならない。そういうものだと思ってた。俺の周りにいた草バスケのプレーヤーはプロバスケについては「なんか上が揉めてる」ぐらいの認識。その届いていないのを解決するのはやっぱりメディアだな、と思った。

鈴木 
プレーする層と観戦する層のキャズム(溝)の深さは本当に難しいだけど、当時のバスケは野球やサッカーとは別の次元でキツかった感はあるね。例えば野球だったら、プレーヤーならスタジアムで観戦しなくても「今年もソフトバンクは強い」とか「大谷翔平はスゴい」という情報は知ってる。サッカーでも「リオネル・メッシのいるバルセロナは超すげえ」みたいな知識はある。それがバスケは数年前にさかのぼると「田臥勇太ってまだやってんの?」だったりする。

稲葉 
バスケのプレーヤーは本当にプロのことを全然知らなかった。ちなみに俺の中での背景はもう一つあって、ウチはフジテレビグループと昔から付き合いがあって、bjリーグをBSフジでずっと中継していたのを知っていたんだよ。制作を担当していた共同テレビジョンとも仲が良いし。だから「マジ赤字で手弁当だけど、ウチがやめたらどこもやらない」みたいな思いでフジテレビが支えてきたのをいろんな関係者から聞いてたんだよね。そこにFIBAの制裁も絡んで、WEBの専門メディアでちゃんと力を入れてやっていくところが必要だと思った。

バスケット・カウント

競技者が多いことに甘えてはいけない

鈴木 
立ち上げ準備の一つで、当時は五反田にあった日本バスケットボール協会と、お茶の水の日本サッカー協会に間借りしてたBリーグに2人して挨拶に行ったよね。「バスケット・カウントです」って言っても誰も知らないし、会社としてメディアの実績もないから、「どちらさま?」みたいな感じで。ぶっちゃけ最初は「やべーヤツが来た」と思われてた(笑)。

稲葉 
でも、そこは何をやりたいかを説明したら「歓迎だけど、お手並み拝見します」な感じではあったよね。あの頃に出会って今も付き合いがある人たちは、最初からウェルカムで受け入れてくれた。

鈴木 
プロ野球は新規参入を本能的に排除しようとするし、サッカー界も最近は変わってきたとはいえ頑固。その点、バスケ界は「君たちは怪しいから仲間に入れないよ」って姿勢はなかった。編集部としてありがたかったのは既存のメディアやライターの人たちがすごく協力的で、すごくオープンに迎え入れてくれたこと。俺って最初はバスケのこと何も知らなかったからね。だからいつも記者の人に「一緒に見ていいですか」って隣に座らせてもらって、その人に解説してもらって、「なるほど、渡嘉敷来夢選手ってスゴいんですねえ」って。恐ろしい編集長だよ(笑)。

稲葉 
「バスケ界が困ってるのをお手伝いしに来ました」という俺たちを、「みんなで頑張りましょう」って受け入れてくれたんだよね。協会やリーグもそうだけど「よく分からないから相手にしない」という態度は取らなかった。ありがたい話だよ。

鈴木 
メディアが急激に増えたここ数週間、まともに取材できなくてイラッとすることもあるけど、そんな時は過去を思い出さなきゃいかんと思ったね。この間、名古屋まで代表合宿の取材に行ったら、竹内譲次選手にコメントを取ってた記者が、終わってから小声で「今の誰ですか?」って言うのよ。「ちょ、知らんのかい!」と思うんだけど、よくよく考えてみれば俺もリオ五輪の最終予選前の合宿で竹内兄弟の見分けに自信がなくて、恥ずかしかったけど協会のライターに電話で確認したわ(笑)。だから、あの頃に受けた恩はこのタイミングで返さなきゃいけないと思って、丁寧に説明して。ところがその人が、何百人もいるメディアの中で唯一、馬場雄大選手の熱愛を追っかけてた夕刊紙記者だったという……。

稲葉 
そう考えると日本のバスケ界も関係者みんなの頑張りでかなり立派になったけど、まだまだの部分も多くて。

鈴木 
ちなみに、これまでの一番の問題というか、もったいなかったことは何だと思う?

稲葉 
Bリーグ開幕戦のフジテレビ系列の地上波中継。視聴率は5.3%で、俺が聞く限りフジテレビの中では伝説の大スベりと見なされてる。もちろん、地上波での中継は挑戦で、そこで勝負に出るのは良いことなんだけど、そこに至るまでの話。バスケ界の中にいる人ばかりで盛り上がって、一般の人たちに「いよいよこういうバスケットボールが始まりますよ」という訴えかけが足りなかった。川淵さんというパワフルな人の意向があって「やるぞ!」となれば当然フジテレビも協力するんだけど、まだ選手を見ても「誰?」という時代だから。

鈴木 
でもあれで良い悪いを判断するのはすごく難しくない? 開幕戦に限らず思うんだけど、よくやってるのは間違いないけど満足したら終わりだから、Bリーグや協会がやっている取り組みの良し悪しってすごく判断しづらい。あの開幕戦は代々木第一体育館が満員になって、来た人の大多数は「Bリーグってすげえな」ってポジティブな印象を持って帰ったと思う。選手の知名度が足りない分はLEDコートが話題になって、それなりに良いインパクトはあったはずで。視聴率にしても、アプローチを変えたところで5.3%から少し上乗せされるだけで、10%行きましたフジテレビ万歳! とはならなかったと思うんだよね。もちろん、それから各局が地上波での中継を尻込みするようになったのは間違いないから、良かったわけじゃないんだけど。

稲葉 
開幕戦は地上波で良かったんだけど、もっと手前が必要だった。メディアは当時それなりにやったと思うけど、Bリーグ側が広告枠を買って、もっといろんな宣伝がなされるべきだった。そこが内輪向け、業界向けになってしまった印象。だって、Bリーグのスタートに際して大量のCMは見なかった。いまだにBリーグも協会も、お金の使い方には問題があると思う。

鈴木 
まさに今、ワールドカップに向かおうとしている盛り上がりもお金をかけて作るべきかな。

稲葉 
そうだよ。今はSNSでも大量に広告が出ているし、この間はタクシーの車内広告まで見たから宣伝はやっているんだけど、「この日に日本代表が試合をやります」の案内でしかないんだよね。今回、ソフトバンクから3億円の支援金が出たんだよね。それに限らずソフトバンクはBリーグも代表も全面バックアップしてるんだけど、「3億円いただきました」で終わるんじゃなくて「3億円いただいたので、こう役立てます」というのを打ち出していかないと。ソフトバンクに協賛メリットを出すには、ITを活用してファンにもっと楽しんでもらえるような投資をするのが一番。あるいは今バスケをやっている子供たちがどれだけ代表の試合を見ているかと言ったら、そんなに見てないと思うんだ。そこにお金を使うとかね。そういう工夫は見えないところでやっているのかもしれないけど、見えない時点で足りないよね。これはバスケに限らずだけど、スポーツって競技者が多いことに甘えて、そこに対するアプローチが弱いと思っている。

鈴木 
話がいきなり過去から今に飛んでしまった(笑)。ちょっと過去に戻って印象的なことを挙げると、リオ五輪の女子日本代表かな。ベスト8でアメリカに負けた時の吉田選手の涙のコメント、あの記事はいまだに『バスケット・カウント』の1記事あたりのPVの記録なんだ。オリンピックは取材許可がなかなか出ないから、リオまで取材に行けるバスケ専門メディアがなくて、同じ日にレスリングや卓球のメダル獲得が重なると、総合メディアはみんなそっちに行っちゃう。それで昔に一緒に仕事をしていたライターが、サッカー日本代表が敗退して予定が空いたのを知って、急遽打診して前日夜と当日にメッセンジャーでめっちゃ連絡を取り合って取材してもらって。リオの日本代表って本当に素晴らしかったし、ウチがいなければコメントが出てないと考えると、やって良かった。八村塁選手がドラフトにかかっても、あの記事のPVを超えないからね。

稲葉 
ウチしかメディアが来てなかったリオと、ものすごい人数が行ったNBAドラフトの差だね。八村は2015年のウインターカップを俺ら2人で見に行ったのが面白かった。あの時もすごいすごいと言われてたけど、NBAばかり見てる俺からすると「言うほどか?」って思ったもんね。パワーがありすぎて周囲に遠慮しながらプレーしている印象で。あの時に見ておいたおかげで何が分かるかというと、八村くんがものすごい努力したってこと。分からない人は、最初からすごかったと思うんだよね。

鈴木 
名古屋の代表合宿で、フリースローラインをちょっと超えたところから踏み切ってダンクするのを真横で見てたんだけど、本当にブッたまげて。当然ながらウインターカップの時とは全然違う。その直後に5対5のメンバーが変わって八村が反対サイドに攻めることになって、各社のカメラマンは全力ダッシュで移動しているのに、協会のライターの人と俺だけ、腰も魂も抜けて動けずに(笑)。だから、その八村選手の努力って常人じゃできないレベルのもので、もはやお父さんのアフリカのDNAとか抜きしてとんでもないことだと思うから、本人にじっくり聞きたいんだけど、スーパースターすぎて取材時間が取れない。

稲葉 
高校3年の時もすごかったけど、日本のいわゆる普通のビッグマンの延長線上にいる『すごい』だったよね。本当にそこから努力して、その延長線上を外れて違う次元に行った。ところで、NBAの話が一つも出てきてなくない?(笑) バスカンが始まったのと時を同じくしてカリー時代、つまりはウォリアーズ王朝が始まったんだっけ?

鈴木 
今のウォリアーズが最初に優勝したのが2015年のファイナル。『バスケット・カウント』がスタートして数カ月後に、キャバリアーズが大逆転でウォリアーズを止めて優勝してるね。でもスタートする時点では、まさにステフのウォリアーズがNBAの新時代を切り開くイメージだった。デュラントがサンダーを離れて大騒動になったのも2016年夏で、あれは盛り上がった(笑)。

稲葉 
ウォリアーズの何が気に入ってるって、人をすごく大事にするところ。プロパーを大事にして、今回もクレイ・トンプソンとは何の問題もなく契約更新がまとまって。あれぐらい人を大事にするのはスリーピートのシカゴ・ブルズぐらいなんじゃないかと思う。またBリーグの話に戻っちゃうけど、フランチャイズスターを作ることができていないよね。これはJリーグも同じ課題を抱えてる。スーパーになる前、スターの時点で海外に行っちゃうから。でも、地域のスターこそ頑張って作らなきゃいけないってすごく思うよ。

バスケット・カウント

メディアセールスばかりでなくマーケティングを!

鈴木 
今だと千葉ジェッツが富樫選手をプッシュしているぐらいかな。でも『地域のスター』という見え方とは違うかも。地域のスターって感じではなく全国区だから。それで言うと篠山竜青大先生だね。クラブは前面に押し出してプッシュするし、選手の側もそれに応えて川崎の街を盛り上げようとしてる。でも、地域のスターってどうやって作るものなのかな?

稲葉 
すごく単純で、クラブの営業が地域の広告代理店に提案すればいい。分かりました、やりましょう、って話になるよ。各クラブの営業は基本的に枠売りしかしていないんだけど、BリーグがBマーケティングという会社を作ったみたいに、本当にやるべきことはマーケティングだよね。スポーツの営業はメディアセールスばかりやるけど、本来はマーケティングセールスが必要。どのチームも「彼がウチの看板選手です、グイグイ押していくので地域のCM、イベントに使ってください」という提案をすれば、少なからず結果は出るよ。「ウチにはプッシュできる選手がいない」ってクラブ、ないよね?

鈴木 
ないね。どのチームも、オンコートのプレーはもちろんだけど、オフコートのキャラクターや、ここに至るまでのバックグラウンドとか、面白い選手は必ずいる。逆に、一人に絞らなきゃいけないと言われたらクラブの担当者は悩むだろうね。あと、いろんなクラブと付き合う中で感じるのは、ウチらメディアが接する広報は選手と普段から接してて近いけど、営業部門はチームとの距離が遠いってこと。だから選手をどう扱っていいのかイマイチ分からず、結果として選手をリスペクトしすぎて遠慮して、売り込みが足りないんだろうなと思う。

稲葉 
地域のスターをしっかりプッシュできれば、ウチらみたいな専門メディアじゃない一般のローカルメディアも扱いやすいし、地域の人にも「まずはこの選手を見ればいい」というのが分かりやすい。何より集客、スポンサーセールスという直接的な売上に貢献してくれる。それを積み重ねて歴史にしていけば、引退する時にはレジェンドとして、そのユニフォームは永久欠番になってアリーナの壁に飾られるし。NBAでもルール上、ずっと同じチームにいるのが難しくなってきているけど、それでも各チームがフランチャイズスターを作っているし、一度出て行っても最後はそのクラブに戻って来て、そこでレジェンドとして扱われる。日本でもプロ野球はそれができているんだけど、サッカーとバスケはまだまだだね。地域のスターは自然発生的に出てくるものじゃなく、ちゃんとクラブ側から仕掛けていかなきゃ生まれない。そこはバスカンが思いっきり寄せてサポートしてあげると、お困りごとの解決になるだろうと思ってる。

鈴木 
八村選手はワッサーマンがエージェントについてCM契約がバンバン決まって、束の間のオフもすべてスポンサー向けの活動で大変そうだけど、商業的価値はバリバリ見せられてる。

稲葉 
そうそう。でも俺が言いたいのは、八村ぐらい突出してワールドクラスの入口に立った選手は、日本国内ではもう全国区のスターなんだけど、各地域にスターがいてほしいって話。

鈴木 
クラブは選手の肖像権を持ちたがるけど、どうやって活用するかはイマイチ分かっていない。

稲葉 
しかも、そこがクローズドでしょ。今のBリーグの感じで言ったら、この選手を広告で使ってみたい、イベントに呼びたい、って地域の企業はいるはずだよ。でも、それがオープンマーケットになっていない。肖像権をオープンにする必要はないけど、オープンマーケット化してモデルをオープンにしないと。それは選手にもメリットが分かりづらいし、チームも勝敗に責任を持つヘッドコーチからすれば「営業活動をやる暇があったら練習しろ」になっちゃう。それを見てクラブの影響は、選手を売り出すのはなんか面倒だなあ、と枠売りばかりに注力する。悪い流れが全部起きちゃうよね。B2もB3も、全クラブが地域のスターとして決まった選手を売り込むべきだし、その選手も自分のために、チームのために、地域のために全部プラスなんだから、大変かもしれないけど頑張って活動しなきゃいけない。それがプロスポーツ選手だよ。

鈴木 
小さいコミュニティのスターだったら、地元の中古車屋のチラシでもいいし、クリーニング屋の店頭に等身大の立て看板が出てもいいもんね。地元の駅で試合告知のチラシを配るとか、商店街のお祭りに参加したりの活動はしているけど、あれはマーケティングではないわけで。

稲葉 
そうそう。年俸1億円は素晴らしいけど、そうじゃなくても選手が地域に提供できる価値はあるからね。俺らもBリーグや協会や各クラブの人たちとの付き合いが増えてきて、ここからどう踏み込んでいくかを考えると、地域のスターを作ることは本格的に取り組んで、クラブができないならバスカンとセットでウチが一緒にマーケティング営業しますよ、というところに持っていきたい。順番を考えるとチームあってのリーグだと思うんだけど、どうしてもリーグへの上意下達という印象を受ける。これはチームによって差がありすぎて、目の前にある仕事を回すだけで手一杯のところもあるだろうから、そういうチームにはもっと向き合って、いろいろやっていきたいね。フランチャイズスターは何なら全部バスカンでコーナーを作って連載してもいいかもしれない。ここに来て新規のユーザーも増えているから、その人たちの熱量をもっと高めてバスケに入ってきてもらうために、コミュニティみたいなことをやりたいと思ってる。あとは俺のデリック・ローズの記事をもっと(笑)。

鈴木 
『バスケット・カウント』が始まってすぐのオフにブルズを出て、そこからかなり迷走したけど、この1年はなかなかグッと来るドラマだったから、扱いはかなり多かったよ。あの涙の復活劇は魂を揺さぶられるものがあったわ。

稲葉 
それはLIVEで見てて泣いてた。FIBAからの制裁が解除された時、あれだけ気にしていたのに「もともとの位置に戻っただけじゃん」って感じで感動はなかったんだけど、ローズは泣いたわ。鼻水が出た(笑)。

鈴木 
まあとにかく、制裁解除からまともに歩み始めた日本バスケはBリーグによって安定成長路線に乗って、あれこれあったけど八村選手のドラフト指名でバスケ人気に火が付いた感がある。ついでに言えばローズも復活した(笑)。今回のワールドカップで日本のバスケはもっと世間の関心を集めてほしいし、東京オリンピックも含めてお祭り騒ぎをするのもいいけど、専門メディアとしては人気を定着させて、ずっと続いていく文化みたいなものにしなきゃいけない。って、Jリーグ百年構想みたいな話になってきたけど(笑)。

稲葉 
ここまでの流れにバスカンがそれなりに貢献できたって気はしてるよ。冒頭に言った背景の話で、俺らがバスケメディアを始める時に協会やリーグやライターやカメラマンが受け入れてくれて、協力してくれて、スムーズにメディアを始めることができた。そこにはすごく感謝して頑張ってきましたと。ウチらを含めたバスケットボール界の頑張りでここまで来たけど、日本代表が引っ張っている、八村塁ブームのおかげな感じは否めないので、だからこそウチはもっと地域に向き合って盛り上げていくって結論でいいかな。

鈴木 
社長はたまにしか登場しないから、今後の抱負というか決意表明をどうぞ。

稲葉 
俺の中ではバスカンはメディアというよりプロジェクトと思っていて、リーグも協会もクラブも地域もファンも、みんな巻き込んで一体になってやっていきたい。今もういくつか話が進んでいるところはあるけど、そんな我々のプロジェクトに関心を持ってくれるすべての皆さんと向き合いたいと思っています。それは毎日読んでくれているユーザーの人たちも含めて。もちろん、NBAも記事を出すだけじゃなくもっと一緒に何かやっていきたいし、もっとたくさんの人にバスケットを楽しんでもらえるような、普及のお手伝いもやりたい。あともう一つ気になっているのは他の産業と絡んでいくことで、今まではとにかくスポーツだったけど、ファッションのようなもので文化が織り交ざった楽しい場を提供したいと思ってる。そんなわけでバスカンはもっともっと頑張っていきますので、よろしくお願いします!