文=泉誠一 写真=泉誠一、Getty Images

世界で痛感した課題を克服すべく、ピック&ロールを追求中

先週末のサンロッカーズ渋谷戦、辻直人は土曜に1得点、日曜に8得点に終わった。その前の新潟アルビレックスBB戦も6得点と3得点。これまでニック・ファジーカスとともに引っ張ってきた川崎の得点源らしからぬスタッツが続く。

その理由を本人に問えば、「今、ちょっと自分がやろうとしていることがあるので、そこにチャレンジしており、いつもとは違うプレースタイルになっています」という答えが返ってきた。

仲間を利用しながらいかにノーマークや数的有利な状況を作れるかを課題に、ピック&ロールの上達に勤しんでいる。それは、オリンピック世界最終予選(以下OQT)への出場が決まっていた昨シーズンから、世界で勝つためにリーグ戦を実験台として取り組んできたことだ。

努力の甲斐あり、ラトビア戦は11点、チェコ戦は3ポイントシュートを5本成功させ18点を挙げた。平均14.5得点は日本代表のトップスコアラーであるとともに、セルビアラウンドの中で5番目の記録。しかし、チームは2連敗に終わり、世界との差を痛感させられる大会となった。

「昨シーズンやってきたことをさらに追求し、足りなかった部分を補っていきたいです。OQTで他の試合を見ていても参考になるプレーはたくさんありました。小さな選手でも、インサイドに切り込んでいくためにどんなプレーをしているのかを見て学んできたので、それにトライしている段階です」

目指すはドライブで強くゴールに向かって行くプレー

日本代表の活躍には周囲のサポートもあった。「太田(敦也)さん(三遠ネオフェニックス)やアイラ(ブラウン/サンロッカーズ渋谷)が献身的に、何度も何度もしつこくスクリーンをかけて、シュートチャンスを作ってくれました」

しかし、川崎に戻ると、外国人選手との連携はそう簡単に上手くはいかない。現段階では、「合わせることよりも、自分から打開できるプレーがあると思っています。その幅を広げることが先決であり、そこからスクリーナーとコミュニケーションを取っていけばもっと良くなっていくと思っています」と話しており、「まだまだ駆け出しの段階」だそうだ。

「ピック&ロールを使うプレーをいろいろと考えて試してはいるんですが、やっぱり自分のクセというか、どうしてもパスを選択してしまっています。もうワンアクションをしてからドライブで強くゴールに向かって行くプレーが目指しているところ。自分のクセは簡単には抜けないんだな、ということを今は実感しています」

辻は確率高い3ポイントシュートとともに、パスも上手い。しかし、OQTを通じて世界のトップレベルのプレーを目の当たりにしたことで、ドライブからの得点に磨きをかけるべく、もがいている。ポイントガードもこなす辻だが、SR渋谷のバックコート陣に何度かダブルチームでつかまる場面があった。

「僕が考えながらプレーしてしまっているので、まだまだ判断が遅い」と原因はハッキリしている。ゆえに、「そこは仕方ないというか、今は大目に見てください」と頭をかいた。

『目立ちたい』『上手くなりたい』の二兎を追う

9月上旬から中旬にかけて『FIBA ASIA チャレンジ』のために日本を留守にし、帰国したらBリーグが盛り上がっていた。「今、乗り遅れている感じがしています」と辻は言う。「メディアで活躍する選手が取り上げられていて、『いいなぁ』と思うとともに、『あれ、自分はなにしてるんだろ?』っていう部分での葛藤もあるんだと思います。やっぱり活躍して目立ちたいじゃないですかぁ」と本心がこぼれ出た。

「でも、自分がスキルアップするためにやらなければいけないこともあるし、その葛藤もあって、なんだかゴチャゴチャになってしまっています。もう少しお待ちください!」

一朝一夕に上手くはいかない。60試合、来年5月まで続くレギュラーシーズンは、まだ開幕を迎えていないNBAよりも長い。1試合1試合、トライ&エラーを繰り返しながら強くなっていくための課程がリーグ戦である。チームや選手を成長させるためにも、ファンの温かい声援や愛ある厳しい目や声が必要だ。それが多ければ多いほど、成長は促進される。