文=丸山素行 写真=泉誠一

多彩なシュートパターンを誇るエースが川崎を引っ張る

川崎ブレイブサンダースのエース、ニック・ファジーカスは、10月15日のサンロッカーズ渋谷との試合で31得点を奪い、翌日も23得点を記録して、チームを2連勝に導いた。開幕からの8試合で積み上げた得点はこれで216。リーグで彼だけが通算得点200を超え、得点ランキングの首位を独走している。

1試合平均得点は27.0。昨シーズンのNBLでは54試合に出場して1試合平均得点25.9だから、この数字は不思議ではないのかもしれない。しかし、Bリーグが始まりプレー環境が大きく変わったにもかかわらず得点を挙げ続けるその『継続性』は、やはり驚きに値する。

15日の試合後、コンスタントに得点し続けられる秘訣をファジーカスに尋ねると、こんな答えが返ってきた。「他のチームは僕のことを研究してくる。だから、どういうディフェンスをしてくるかはだいたい予想できるんだ。それに対してどう攻めるかを、いつも考えている」

ただガムシャラに攻めるのではなく、駆け引きで相手の上を行く、ということだろう。ここでカギになるのが、ファジーカスが持つ多彩な得点パターンだ。一般的にビッグマンは器用ではないとされるが、こと「得点を奪う」という一点について、ファジーカスの多様さは突出している。

主戦場はインサイドだが、ミドルシュートも3ポイントシュートも苦手意識がなく、最も確率が高いエリアを選んでシュートを放つ。だからこそ、相手が一つのポイントに集中して抑えに来たところで、別の形から得点を奪うことができる。彼自身も認める。「自分が得点できる場所、より有利なポジションを取ろうと一生懸命だ。でも、ボールをもらったら後は決めるだけだ」

駆け引きしたところで、自分の得意な形から外れてしまうのでは意味がない。そうしてタッチを悪くする選手はいくらでもいる。だがファジーカスは自身の多彩な得点能力を生かし、駆け引きで最も効率良く得点を奪う形を選んでいるのだ。

1試合30得点超えはすでに3度、本人も好調を自覚

もう一つは連携面。ファジーカスは言う。「このチームでもう5年目なので、自分がどこでボールをもらえばシュートを決めやすいか、チームメートが分かってくれている。お互いにそこは把握しているから、やりやすいんだ」

この試合では今シーズン3度目の30点越えを達成したとあって、彼の口も滑らかだ。「あと、フィールドゴール率が高い理由をもう一つ挙げるなら、ゴールの近くで打っているからだね。ゴール下のシュートをいっぱい外していたら、すぐクビになるよ(笑)」

この日のファジーカスは、フリースローを含む23本のシュートを放ち、うち20本を決めた。つまり3本しか落としていないのだ。「タッチは結構良かったね」と彼は胸を張った。「昨日、38度の熱が出て練習を休んだので、シュートタッチが良かったのかも」とジョークも飛び出した。

開幕節、アウェーの三遠ネオフェニックスに連敗する不穏なスタートとなった川崎だが、その後は無傷の8連勝。Bリーグ優勝に向けてチームの士気は高い。ファジーカスも手応えを感じている。「三遠と対戦する前は、日本代表のメンバーと2日間しか練習できていなかったので、チームとしての状態が良くなかった。それから練習を1カ月やって、チームプレーが噛み合うようになり、調子が上がってきた。今はとても良い感じだ」

シューターの辻直人がまだ本調子ではないのが気がかりだが、それもまたチームの伸びしろ。まだ状態は十分ではないのに、しっかりと強さを見せ付けて連勝を伸ばしている。Bリーグ初年度の優勝に向けて、ファジーカスが川崎を引っ張る。