小栗瑛哉と元田大陽の先発起用で流れを呼び込む
10月5日、6日に行われた川崎ブレイブサンダース vs 秋田ノーザンハピネッツの2連戦は、1勝1敗の痛み分けとなった。第1戦、川崎に新体制の勢いを感じさせるバスケットボールを展開され73-81で敗れた後、秋田の前田顕蔵ヘッドコーチは敗因の一端として前半のディフェンスを挙げ「まったくファイトしていない。ソフトなメンタリティだった」と語った後に、自らの采配に関する反省についても述べた。
「ベンチメンバーをうまく使えませんでした。彼らが思い切ってやってくれないといけないのに、自分が機会を与えなかったことをちょっと反省しています。明日についてはこれから映像を見て考えますが、やっぱりディフェンスの強度を下げてたくないですし、プレータイムが偏ってターンオーバーしているようだったら意味がないので。そういう部分も含めてチームで40分つなげるようにしたいですし、ちゃんと繋げられれば勝負できると思います」
そして翌日の第2戦、前田ヘッドコーチは有言実行の采配でチームに勝利をもたらした。第1戦で14得点を挙げたガディアガ モハマド アルバシールと経験豊富なポイントガード熊谷航に替わって、第1戦のプレータイムが10分以下に留まった小栗瑛哉と元田大陽を先発起用。小栗は3戦目、元田は初の先発だったが、川崎のガード陣に激しいプレッシャーディフェンスを仕掛けてオフェンスを作らせず、この試合におけるチームのトーンをしっかりと作り上げた。
彼らに追随するように、同様に第1戦のプレータイムが少なかった土屋アリスター時生、赤穂雷太らもそれぞれの持ち味を発揮した秋田は、栗原翼を除く全員が10分から20分前後のプレータイムをシェアし、第1戦とはまったく異なる試合展開で89-69で勝利した。試合後の記者会見で、前田ヘッドコーチは次のように語った。
「昨日、試合が終わってめっちゃ腹が立ったんです。それは選手にっていうよりも自分自身に。やるべきことをちゃんと徹底させられず、誰でもできるようなバスケットをさせてしまっているのがものすごく悔しかった。川崎のベンチの選手たちが活躍してるのも悔しくて、本当に猛省して、とにかく今日はスタイルを出したかった。勝っても負けても。そういう意味で、選手たちが本当によくスタイルを出してくれたので、そこがうれしかったです」
小栗「自分が『秋田らしさ』をコート上で表現し、伝えたい」
勝利を追求する。選手たちのステップアップをフォローする。指揮官であり指導者でもあるヘッドコーチにとって両者の両立は永遠の命題だろう。第1戦後にベンチメンバーを積極起用できなかったことを悔いた前田ヘッドコーチに、それができなかった理由を問うた。前田ヘッドコーチは次のように答えた。
「『置きにいった』という感じですかね。 僕がしないといけないのは、しっかり『秋田の色』を出すことなのにもかかわらず。さっき選手たちにも言ったんですが、40分間、60試合、どうやって全員で繋いでいくか、どうやって他のチームには出せない強度を出せるかを考えて今年のロスターを作ってたはずなのに、『勝たないといけない』とか『経験値がない』とか、いろんな要素を考えすぎてしまって、安牌に行ったら全然うまくいかなかった。そういう自分の弱さが出た試合だなと思いました」
今シーズンの秋田は、先発が固定されがちだった昨シーズンと異なり、選手のパフォーマンスや相手との相性に応じてスターターを積極的に切り替えるスタイルをとろうとしている。
第2戦後の記者会見に登壇した小栗は、ウォーミングアップを終えてロッカールームに戻ってきたときに初めて先発起用を知ったと明かし、そのときの心境について「やるだけかな、と思いました」と述懐。「いつ出てもいいように毎日毎日準備しているので、それが第1クォーターの結果にあらわれたのかなと思います」と、新しいスタイルがポジティブに働いていることを感じさせるコメントを発した。ちなみに、試合前のハドルの後には元田と「ベンチから出てくるメンバーに良い刺激を与えたいね」「やってやろうぜ」と言葉をかわしたという。
古川孝敏、保岡龍斗、長谷川暢といった長くチームを牽引した選手たちの退団を受け、秋田は新しいフェーズを迎えている。とは言え、在籍6シーズン目を迎えた前田ヘッドコーチのもとで目指すチームカルチャーは不変だ。
特別指定時代を含め在籍3シーズン目となる小栗は「古川選手、長谷川選手、保岡選手が抜けた中、自分が『秋田らしさ』をコート上で表現し、伝えるという責任と自覚を持ってプレーしている」と話し、指揮官も「なぜ僕がこの仕事をさせてもらえているのかを常に考えている」「僕自身も成長しなければいけない」と力を込めて言う。自分たちにしかできない、自分たちだからこそできるバスケットを日々追求し、具現化していく、秋田の新しいシーズンが始まった。