「こういう形での勝利はチームの結束を強めてくれる」
リンディー・ウォーターズ三世は遅咲きの選手で、NBAでもかなりの『苦労人』だ。大学卒業時点でドラフト指名を得られず、Gリーグでプレーする機会さえなかった。副業をしながらバスケを続けてサンダーの2ウェイ契約のチャンスをつかみ、2021-22シーズンの途中にNBAにデビュー。サンダーでは3シーズンを過ごし、シューターとしてそれなりに働いたのだが、若手中心で急成長するサンダーで主力に定着することはできず、ウォリアーズにトレードされた。
220万ドル(約3億3000万円)の契約はあるが保証されているのは一部だけで、『使えない』と判断されればプレーする場を失う。開幕までまだ半月あるが、彼のサバイバルは今がまさに佳境と言っていい。
ハワイで行われたウォリアーズの最初のプレシーズンゲーム、クリッパーズとの試合は終盤までもつれる接戦となった。ステフィン・カリーは14分、ドレイモンド・グリーンは13分と主力は少ししか出場しなかったこの試合、ウォリアーズは19人の選手を起用した。主役となったのは、チームでの立ち位置を確保しようと必死の選手たちだ。ウォーターズ三世はその一人で、前半は出番がなく、第3クォーターも半分を過ぎたところでようやく投入されたことは、彼がチーム内の序列で19人のかなり後方に位置することを示している。
それでも第4クォーター残り11秒、88-90と2点ビハインドの場面で、ウォリアーズはウォーターズ三世にチャンスを託した。クリッパーズのディフェンスに阻まれて何度か攻めを仕切り直し、残り時間が1.6秒になっても作戦を変えなかったのは、それまで3ポイントシュート6本中4本成功と彼が当たっていたからだ。「何本か決めていたおかげで自信があった。リングが大きく見えたよ」とウォーターズ三世は言う。
2人の選手がスクリーンとなってディフェンスを阻む中、ウォーターズ三世は身体をひねりながらクイックリリースのシュートを放つ。「手から離れた時点で入ると分かった」というシュートがブザーとともにリングに吸い込まれた次の瞬間、背番号43は祝福に駆け寄るチームメートに飲み込まれて見えなくなった。
劇的なブザービーターとはいえ、プレシーズンゲームの勝敗に意味はないし、これでウォーターズ三世の立場が確実なものになるわけでもない。しかし、劇的な勝利はチームの士気を高めるし、ウォーターズ三世にとっては素晴らしいアピールとなった。
「気持ちが良かったよ。毎日ひたすら練習し、システムを学んできた。それが試合の最後になって最高の形で報われた」とウォーターズ三世は興奮気味に語る。「仲間と力を合わせ、オフェンスの戦術を学び、コーチの考えを理解し、そういった努力を日々続けていく。こういう形での勝利はチームの結束を強めてくれる。そんな仕事ができて良かった」
15分の出場で15得点3リバウンド1アシスト1ブロック。シュートはすべて3ポイントラインの外側からで、7本中5本をねじ込んだ。ウォーターズ三世は抜群の勝負強さを生かし、ウォリアーズで立ち位置を確保するつもりだ。