ドラフト1位の同期、ベン・シモンズをすでに上回る?
昨シーズンの開幕2試合目にキャリア初のトリプル・ダブルを達成したデジャンテ・マレーは、シーズン終了までにその回数を4回まで伸ばしました。それが今シーズンは28試合目となるジャズ戦までに昨シーズンを上回る5回のトリプル・ダブルを達成しています。リーグ全体でもニコラ・ヨキッチに次いで2番目に多く、新たなオールラウンダーとして台頭しています。
チームオフェンスの中心だったデマー・デローザンがブルズに移籍したことで、ポイントガードであるマレーのアシスト数が増えることは当然の流れでした。昨シーズン50.2本だったパス数は62.9本まで増え、これに伴ってアシスト数も5.4本から8.5本まで伸びています。ただ、そのアシスト先の選手は一番多いケルドン・ジョンソンでも1.4本で、すべての選手へバランス良くボールを配給しています。
エースと呼べるスター選手が不在のスパーズですが、だからこそ誰もが得点するスタイルを採用しており、マレーも特定のホットラインではなく、常にチーム全体の動きへとパスを合わせており、2桁得点が7人いるチームオフェンスを構築しています。これはマレーにもメリットがあり、パスの出し手として常に多くの選択肢があるため、安定してアシストを稼げています。
アシストは『マレー個人が劇的に成長した』よりはチーム全体で押し上げていますが、個人として成長が目立つのはリバウンドの数です。ガードとしてはリーグで最も多い8.4リバウンドを記録しており、これがトリプル・ダブルを頻繁に記録することに繋がっています。
リバウンドの多いガードにはそれぞれ得意分野があります。ラッセル・ウェストブルックは強靭なフィジカルでゴール下の戦いにも頻繁に顔を出すことで稼ぎ、ラメロ・ボールは反応と勘の良さでロングリバウンドへいち早く反応します。マレーのスタイルは少し変わっていて、ロングリバウンドだけでなく、ゴール下でもフィジカルな競り合いではなく『人がいないスペース』を見つけて、長い腕で確実にボールを抑えていきます。
そもそもマレーはエースキラー役として名前を挙げた選手ですが、ガードを多く起用する近年のスパーズでは相手エースに密着して自由を奪うのではなく、長い手足を生かしたヘルプ役が増えてきたこともあり、その流れからリバウンドの中心にも変化してきました。エースキラーからヘルプ担当、リバウンダーとディフェンスで万能な役割を果たしながら、オフェンスでもチームハイの得点とアシストを記録するオールラウンダーへと成長しているのです。
主役となる選手が不在で、この路線で再建が進むのか、それとももう一度作り直すべきか。スパーズの進むべき道は、ファンの間でも議論の分かれますが、マレーを中心とした形が定まってきたこともあり、ここ10試合を6勝4敗と勝ち越しており、このままチーム全体が成長していくことも期待が持てそうです。
その一方でマレーが個人としての価値を高めていくと、ベン・シモンズのトレード問題に絡められる可能性も高まります。同じ2016年ドラフトの全体1位指名だったシモンズがネームバリューでは上でも、当時29位指名だったマレーは得点、リバウンド、アシストとすべての能力でシモンズを上回っており、今もなお成長しています。そのマレーを出してまでシモンズを獲得する意味があるのかは考えどころです。
ただ、エースとしてチームの将来を託す選手という評価を勝ち取るには、まだまだ成長する必要があります。決して派手ではないマレーがそこまで自身の価値を高めることができるか、スパーズのファンならずとも注目したいポイントです。