ライアン・ロシター

このオフシーズンには多くのトップ選手が移籍しているが、その中でも最大級の衝撃を与えたのはライアン・ロシターのアルバルク東京への加入だった。NBL時代から宇都宮ブレックスのエースを務め、名実ともに『チームの顔』となっていたロシターが、同地区のライバルであるA東京を新天地に選んだ。リーグの勢力図を変えるほどのインパクトをもたらしたこの移籍を決断した理由、新たなチームで迎える開幕への思いを聞いた。

「移籍の理由は、新しいチャレンジをすると決めたからです」

──長らくネイビーとイエローのユニフォームを着ていました。黒と赤のユニフォームには慣れましたか。

黒と赤というチームカラーは高校でも大学でもなかったので、今回が初めてです。今は徐々に慣れ始めているところですね。

──今回の移籍は、多くのバスケットボールファンが驚きました。周囲のリアクションをどのように感じていますか。

特にブレックスファンはとても情熱的なので、僕の移籍が発表された時は大きな関心を持ってもらいました。移籍の理由は、新しいチャレンジをすると決めたからです。ブレックスでは素晴らしい8年間を過ごすことができました。毎日を楽しんでいましたし、今のメンバーだけでなく、過去に在籍していた選手、コーチたち、そして球団スタッフとも良い関係を築いていました。その上で新しいチャレンジの機会を探していた中、昨シーズンのアルバルクは満足の行く結果ではなかった。そして僕もシーズンの終わり方についてはハッピーではありませんでした。僕たちが手を取り合って一緒に新たなものを作り上げようとするには、良いタイミングだったと思います。

──特に長きに渡って一緒にプレーしていた宇都宮のチームメートには、どのような形で移籍を伝えましたか。

(竹内)公輔とマコ(比江島慎)には代表合宿中のホテルの部屋に来てもらい、顔を見て直接「ブレックスを離れる」と伝えました。(田臥)勇太、ナベ(渡邉裕規)、遠藤(祐亮)などみんなに連絡して、これまで僕にしてくれたことへの感謝、彼らと一緒にプレーできて楽しかったこと、尊敬していることを伝えました。

──ともに宇都宮のインサイドを支えていたジェフ・ギブス選手も移籍し、離れ離れになります。

僕のために泥臭い仕事をやってくれるジェフと離れるのもタフです。常に自分より大きな相手を守り、僕のプレーをやりやすくしてくれました。今回の移籍についてもたくさん話し合いました。残念なことに昨シーズン、一緒にチャンピオンになることはできずに彼と別れることになりました。ですがこれもビジネスであり、僕たちはそれぞれベストの選択をしたと思います。彼とは引き続きよく連絡を取り合っていますし、この前も天皇杯での彼のプレーを見て応援していました。

──例えばニューヨークのプロチームでエースの選手が、ボストンなど近場のチームにいったらファンから激しいブーイングを受けるものです。そういった心配はしますか?

そうかもしれませんが、一般的に日本のファンの皆さんはニューヨークのファンよりも友好的です(笑)。ニューヨークで同じ状況なら歓迎されなくても、ブレックスファンの皆さんがこれまで元所属選手たちが来た時に、温かく歓迎しているのを見てきました。だから次にブレックスアリーナでプレーするのが楽しみです。ブーイングを浴びるとは考えていないし、素晴らしい体験になると確信しています。ただ、安齋(竜三)、佐々(宜央)とコーチングスタッフは僕のことを熟知しているので、タフなゲームプランを立ててくるでしょうね。ファンの反応よりも、そちらが心配です(笑)。

ライアン・ロシター

「毎日の練習でハードワークをして、チームとしてまとまる必要がある」

──ロシター選手以外にも実績あるトップ選手たちが多数移籍しました。この点でBリーグの変化を感じますか。

リーグの成長に合わせて選手の選択肢が増えています。例えばNBL時代、日本人のトップ選手たちは限られたチームに集中していました。それが今は、選手をしっかりとケアできるプロフェッショナルなチームが増えて、移籍が増えています。これはリーグ全体にとって良いことだと思います。

──A東京は、ロシター選手に加えセバスチャン・サイズ選手、安藤周人選手、ジョーダン・テイラー選手も加入します。今シーズンのロースターについての感想を教えてください。

(田中)大貴、(菊地)祥平、ザック(バランスキー)、アレックス(カーク)など在籍年数の長い選手のことは、対戦相手としてよく知っていて、一緒にプレーするのが楽しみです。代表合宿中にはセバスチャン、周人が加わることを知って、よりワクワクしています。このチームは優勝候補だと思うし、今のメンバーを見れば、その気持ちに嘘はつけません。ただ、机上ではタレントが揃っていても、そこから毎日の練習でハードワークをして、チームとしてまとまる必要があります。それが僕たちのチャレンジになります。前の所属チームで僕、セバスチャン、周人はそれぞれ実績を残してきましたが、それは過去のことで、チーム一体となったプレーができなければ活躍できないでしょう。そうなった場合には、失望する結果に終わってしまいます。

──ルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチについてはどんな印象を持っていますか。

アルバルクと対戦している時、ルカとは判定を巡ってトラッシュトークをしたりしていましたけど、僕は競争が好きなのでそれも楽しんでいました。彼が持つ勝利への熱意、激しい闘争心はずっと尊敬していました。アルバルク加入前に何度か話して、僕をどのように起用したいのか聞きました。彼はこれまでと同じ僕の多彩さを生かしたスタイルを続けてほしいと言ってくれました。オフェンスは多くのフリーダムがありますし、彼のインテンシティであり、細かい部分にまでこだわるスタイルは好きです。また、プレーについて選択肢を一つではなく、複数を与えてくれるところなど、ここまで満足しています。

──間もなく開幕を迎えますが、チームの仕上がり具合をどのように見ていますか。

熱のこもったハードな練習ができています。僕とセバスチャンは毎日の練習でファウルをし合い、得点を取り合っています。スイッチして大貴のマークにつく時は、チャンピオンシップで対戦しているような気持ちで彼を抑えにかかります。激しくやり合っていますが、別に彼らが嫌いだからではなく、常に敬意を持っています。練習をしていると彼らが本当に負けず嫌いなのが分かります。この激しさが僕たちを成長させてくれると思います。

練習試合では良いプレーができましたが、連携はまだまだです。負けた試合だけでなく勝った試合でも、内容が悪ければそこからしっかりと学んでいく必要があります。開幕の時点でリーグベストでいられるとは思わないし、それは僕たちの目標ではありません。シーズンの最後にベストとなることが目標です。

ライアン・ロシター

「ベストチームになるために、何が必要かを全員が理解することが大事です」

──8年間も同じチームにいただけに、新しい環境に馴染むのは大変だったのでは?

最初の頃は練習施設のどこに何があるのか分からず、いろいろ質問する必要がありました。ただ、合流から1カ月が経った今では大丈夫です。バスケットボールに関しては、オフェンスの最後はどの位置にいるべきか、どのようにスペーシングを取るべきかなどを学んでいるところです。チームメートとはこれまでの日本のキャリアでよく対戦して分かっているので、それほど問題ではありません。大変だったのはチームに合流して間もない頃、練習の最後にハドルを組んで大貴が「1、2、3」と言ったあと、みんなでアルバルクと言って締めるところで、長年の習慣から僕だけ「ブレックス!」と言いそうになっていたことです。口の筋肉が自然と「ブレックス!」と動くようになっていたので、「ブレ……アルバルク!!」と何度か言ってしまいました(笑)。

──開幕直前となる今の心境を教えてください。開幕戦は沖縄での琉球ゴールデンキングス戦となります。

長いオフシーズンが終わり、いよいよシーズンが始まるのでワクワクしています。琉球も同じ気持ちだと思います。昨シーズン途中にオープンした沖縄アリーナで、ファンの皆さんが素晴らしい雰囲気を作ってくれるでしょう。琉球はオフシーズンに複数の新戦力を補強してより強力になりました。タフなゲームになるのは間違いないです。

──A東京が優勝するためのカギは何になりますか。

ケミストリーだと思います。僕たちのロースターを見れば、タレントは申し分ない。多くの選手がシュートを決められるので、他の選手のためにどれだけ献身的になれるかが大切です。すべての試合でシュートの配分は同じではなく、ある試合では大貴が25得点を挙げ、僕がシュートを1本しか打たない。僕がシュートを15本打って、アレックスが5本という時もあるでしょう。試合の流れを見て対応し、みんながアグレッシブにプレーする。僕たちの目標はリーグ制覇であり、誰かが得点王、リバウンド王になることではありません。ベストチームになるために、何が必要かを全員が理解することが大事です。

──これまでリーダーシップを発揮してチームを引っ張ってきました。それはA東京でも同じですか。

そうですね。みんな僕のリーダーシップは分かってくれています。まだシステムについては学んでいる段階で、多くの質問をしている最中なので、他の選手がミスをしても自信を持って指摘できる状況ではないです。ただ、自分のスタイルは変わりません。

──アルバルクでもチームの中心として活躍したい、リーダーとして認められたい、といった目標はありますか。

成し遂げたいのはチームの優勝だけです。NBLでプレーしていた若い時は、自分のキャリアのため個人のスタッツを気にしていた部分もありましたが、今はチームメートとの関係やチャンピオンシップのことだけを考えています。

──ファンの皆さんへのメッセージをお願いします。

アルバルクファンの皆さんの前でプレーできるのが楽しみです。これまでアウェーでのアルバルク戦は決まって白熱した試合になるので、大変ですけど楽しんでいました。僕が日本に来て以降、特にBリーグになってからの成功によって皆さんが大きな期待をしてくれているのは分かっています。その期待に応えるためハードなトレーニングを重ねていきます。