大村将基は長く日本代表のスキルコーチとしてトップ選手を指導したことで、日本バスケ界で随一のスキルコーチとして知られるようになった。2019年に加わった千葉ジェッツでの役職名はスキルディベロップメントコーチ。ただスキルを教えるだけでなく、選手の先々の成長まで見通して成長させていくのがその役割。その下で大きな成長を遂げている一人が原修太だ。大学まで自由にプレーしてきたという原は、新しいバスケの見方を学び、新たな成長の道を見いだしている。今回はその2人に、スキルコーチの仕事について語ってもらった。
2019年にスキルディベロップメントコーチとして加入、原は「やっと来たな!」
──まずは大村さんがスキルコーチになった経緯を教えてください。
大村 僕はNBAでプレーするために今のGリーグのトライアウトを受けながらABAでプレーしていたんですけど、それが叶わなくて日本に帰って来ました。ちょうど帰国したら何をするか考えたのがNBAのロックアウトで、選手たちが自分でスキルコーチを雇うことが流行り始めた時期で、それで僕も1年間いろんなところを回って勉強をして、日本でスキルコーチを始めました。最初は大阪エヴェッサで7年間、育成のヘッドコーチをやったりする中で、日本代表がサポートコーチの制度を始めるにあたって僕も呼んでもらい、そこで選手たちにスキルコーチがどんなものかを伝えることができました。千葉ジェッツには2年前に声を掛けてもらい、選手やコーチの魅力的なバスケットボールにひかれて移籍して来ました。
──原選手は、それ以前から大村コーチのことは知っていましたか?
原 Bリーグの1年目が終わった後にU24の代表合宿があって、その時に人数合わせみたいな感じで呼んでもらったA代表の練習で将基さんに会いました。その合宿中は結構時間があったので練習を見てもらい、初めてのスキルトレーニングだったので「すごい!」と思いましたね。そこで教えてもらった練習をシーズンを通してやっていて、翌年のオフに富樫(勇樹)と遊びがてら大阪に行って、将基さんに3日連続でスキルトレーニングをやってもらいました。だからジェッツに来た時は「やっと来たな!」という感じでした。
──大村コーチが千葉に来てからの2年間、原選手のスキル的な成長をどう見ていますか?
大村 身体が強い選手というのは見れば分かるんですけど、身体の使い方をもっと知るべきだというのがスタートでした。最初はふくらんでドライブする感じだったので、そこをもっとストレートにドライブして、コンタクトしてフィニッシュする。2年目の昨シーズンからその形ができて、本人も武器だと思うようになったのが一つの成長ですね。
原 プレーに余裕が出た、やっている最中に周りが見えるようになったのが一番の変化です。それまではスポットとかフォーメーションに合わせたシューティングだったり、よくあるツーボールでのハンドリングをやっていた程度だったので、ピックを使って「こういうシチュエーションの時にこのプレーをする」というプレーをまず知りませんでした。富樫が止められてボールが回って来てピックを使ってスピードで行くシチュエーションが結構増えたんですけど、スピードだけじゃなく目線を使ったり、逆にスピードを落とした方がレイアップまで行けたり、そういうことを教えてもらっています。それでバスケの考え方、見方も変わって、プレーの幅がもっともっと広いことが分かりました。まだまだ100%ではないのでもっと成長できると思います。
大村 確かにボールピックはかなり練習しています。原選手はピックを使った時に突っ込むスピードを出そうとするのですが、それを緩めるためにスキップを入れてコントロールしたりだとか、スクリーナーがフルダイブするのかショートロールするのかの状況次第でプレーも変わるから、どこを見た方がいいよとか、この時はドライブを狙えるよとか、そういう情報を整理してあげれば基本的に感覚が良いので、状況判断は良くなったと思います。
「チームのコンセプトにどう選手の個性を当てはめていくか」
──原選手は、自分の成長についてどんな実感を持っていますか。そこに対して大村コーチの仕事ぶりをどう見ていますか?
原 将基さんの言う通り、ピックを使った後の状況判断は一番成長できた部分です。他のスキルコーチには会ったことがないので分かりませんが、僕は将基さんに言われたことに「なんでそうなの?」みたいな言い方をするんですけど、将基さんは押し付けるのではなく選手の疑問を受け入れながら教えてくれます。アドバイスを求めたら答えをくれる。それが一番の魅力だと思います。
大村 原選手はたまにめっちゃ怒ってきますよ。普通に真顔で「なんで?」って(笑)。でも、そっちの方が良いです。ロボットみたいに言われたことをやるより、僕は返答してもらった方がやりやすい。
原 怒ってはいないですけど返答の仕方が雑というか、怒った感じで言っちゃうことがあるかもしれないですね……(笑)。
大村 そういう会話がスキルアップには一番です。結局は信頼関係がないと何を言ってもダメで、半信半疑でやっても絶対に成長できません。もちろん、僕も100%じゃないので選手からすればハマらないこともあるだろうし、その時に疑問を持ったまま続けるのではなくやめる能力も必要です。原選手の場合はストロングポイントがはっきりしているので、そこをどれだけ武器にしていこうか、という部分にフォーカスしています。原選手がめっちゃ良いのは「オレはシューターじゃない、アタッカーだ」と自分で分かっていること。ワークアウトでもレイアップの練習をする、コンタクトの練習をすると自分から言ってきます。「今日は何をしますか、何でもいいですよ」と言われれば僕が決めるんですけど、やっぱりその人のスキルワークなので自分で考える方が良いです。
──今オフも大村コーチは日本代表合宿に参加しました。ジェッツに戻って来て、選手たちの成長や変化は感じましたか?
大村 本来は僕がやるはずだったことを3週間やれなかったのは申し訳なかったですが、代表から戻って来て3ポイントシュートの距離を伸ばして3ポイントライン上でプレーしないようにしないとこの先キツい、あとは目線の使い方について指摘しました。パスフェイクの目、ボール、足。この3つの使い分けは今も相当言っています。戻って来てから個人練習を詰め込んで、充実していたと思います。僕としては良い感じに進められました。
──原選手は、プレーヤーの立場から見たスキルコーチの重要性をどう感じていますか?
原 ヘッドコーチとアシスタントコーチでもスキルを教えることのできる人はいると思うんですけど、チームの方針を決めて指揮を執る中で、そこまで手が回らないですよね。例えば大野(篤史)さんに「こうした方がいいよ」というアドバイスをもらうことはできますが、細かいところまで付きっ切りで指導するのは難しい。ただ逆に、大学まで自由にプレーさせてもらってきた僕からすると、小さい頃からスキルを学んで平均的に何でも上手い選手がゴロゴロしているのが今だとも思っていて、でもNBAでもBリーグでも平均的に上手いより何か一つ突出した武器がある選手が重宝されますよね。それが集まって噛み合うのが強いチームだとも思います。そこはスキルコーチに任せきりにせず、選手がそれぞれ自分で判断することが必要だと思います。
大村 そこは僕も難しいです。チームのコンセプトにどう選手の個性を当てはめていくか。プレーセットの中で「富樫だったらこれができるけど、こっちなら原がしっかり狙える」というところを落とし込んで、個々に合ったスキルを練習するのですが、ゲームでできないと意味がない。それを選手が試合でどう表現できるか、また僕はスキルディベロップメントコーチなので『ディベロップメント』、つまり選手のその先の成長を考える必要もあります。そういう意味で原には単なるスポットシューターではなくクリエイターになってほしいです。
「将基さんに教えてもらったことをコートでガツガツ出していきます」
──大村コーチが来て2年、最初のシーズンはコロナで中断となりましたが、昨シーズンはこれまで届きそうで手が届かなかったリーグ優勝を成し遂げました。大村コーチは自分なりに、どのような形で優勝に貢献できたと自負していますか?
大村 コミュニケーションの部分ですかね。スキルコーチは別にスキルを教えるだけじゃなく繋ぐ役でもあります。コーチ陣と選手たちをしっかり同じ考えにする、そのために伝える役割は自分にあると思うので、そのコミュニケーションはかなりやったと思います。
原 そうですね。僕は結構コミュニケーションを取ってもらえるんですけど、コーチ陣にその場で言いづらいこともあったりして、そういう時に将基さんは気軽に聞ける存在で、将基さんが来たことで円滑なコミュニケーションはそれまでより増えたし、それもあって優勝できたと思います。
──今シーズンの原選手のどういうところを見てほしいですか?
大村 さっき言ったストロングポイントになるんですが、原選手は左は最強です。ボールピック、クローズアウトで縦にドライブして自分からコンタクトできるので、今シーズンはまたちょっと違う原が見れると思います。全部アタックしてレイアップするので見ていてください。3ポイントシュートは打ちません(笑)。それは嘘ですけど、スポットアップだけじゃなくボールピックをもっと使っていく、クリエイターとしての成長は見てもらえると思います。
原 右のドリブルが急に上手くなるような激変はないと思いますが、ちょっとずつ変化しています。今シーズンは例えばファウルをもらう回数が倍ぐらいになればいいと思って取り組んでいます。
大村 右はドリブルを3回連続でつけたら成長です(笑)。左のドリブルについてはかなりのプライドがあって、昨シーズンまで極めていないところもあったんですけど、シーズンに入ってピックを使った後に左のドライブで身体を当ててフィニッシュを決めたら、今シーズンのオフは良い過ごし方ができたんだと思ってほしいです。
──それでは最後に、原選手に新シーズンへの意気込みを語ってもらって締めたいと思います。
原 チームとしては天皇杯で最近負けているので、天皇杯で優勝するのが目標です。リーグ連覇は本当に難しいことなので、ダメな時期でも皆さんに支えてほしいと思います。個人的には将基さんに教えてもらったことをコートで今まで以上にガツガツしたプレーとして出していくので、そこを注目してください。今シーズンもジェッツの応援をよろしくお願いします!
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