安間志織

昨シーズンのWリーグは、トヨタ自動車アンテロープスの初優勝で終わった。ポイントガードの安間志織は161cmと小柄ながら力強いボールプッシュを貫き、サイズに強みがあるチームにトランジションという武器をもたらした。ENEOSサンフラワーズとのファイナルでは平均12.0得点、10.0アシストのダブル・ダブルに加え8.5リバウンドを記録。冷静なゲームメークに加えて、勝負どころでは自らシュートを決めて優勝の原動力となった。シーズン終了後は日本代表候補として、東京オリンピックメンバーの12人に絞られる一歩手前の16人まで残るも最後は落選。次なる挑戦はWリーグ連覇かと思いきや、突如としてドイツ挑戦を発表。「みんなに背中を押してもらった」という海外挑戦について、安間にその意気込みを聞いた。

「人に流されやすいけど、人と同じことはやりたくない」

──女子では海外挑戦がまだまだ少ない現状、安間選手は以前から海外でのプレーを考えていたのですか?

ユニバーシアードやアジア競技大会を経験させてもらって、いつか海外でやってみたいという気持ちはずっと持っていました。特に誰かに影響されたわけではなくて、でもサッカーとか他のスポーツでは海外でプレーする選手が多くて、バスケでも男子は最近すごく増えているし、注目もされているんですけど、女子は数人しかいないじゃないですか。私は日本の女子選手も絶対に海外でやれると思っていて、自分が結果を残せば挑戦したいという選手も出てくると思っています。2、3年前からチャンスがあれば行きたいと近くの人には相談していたし、チームにも伝えていたんですけど、今回は本当に急遽決まった感じで、チームメートを全員びっくりさせてしまいました。

──なぜドイツだったのですか? トム・ホーバスヘッドコーチは「日本人はWNBAでもプレーできる」と話していましたが。

正直、WNBAという考えは全くなくて、私のレベル的にはそこまで行けないと思います。海外で自分がどれだけ通用するか試したい気持ちはあっても、私は別に世界で有名な選手じゃないので選択肢は限られるので、チャンスがあれば行きたいと思っていました。そこで声を掛けてもらったこと、またタイミングもあってドイツになりました。お話をいただいてからドイツに来るまで2週間ぐらいと本当に急に決まったのですが、みんなに背中を押してもらったので、ここからは私のできる限りのことをやっていきたいです。

──海外移籍で準備期間が2週間というのは本当に急ですね。何が一番大変でしたか?

とりあえず引っ越しの準備で、最後は間に合わなくて私だけ先にこっちに来たぐらい、ポンポンポンと進みました。荷物はできる限り少なくして、キャリーバッグ3つとボストンバッグ1つ。私としては最小限のつもりだったのですが、こっちのチームメートからするとめっちゃ多かったみたいです。想定外だったのは寒くなるのが早くて、私服はスウェット2着ぐらい。そのスウェットを9月にもう着ているので、ここから先どうしようかと思っています。

──その行動力、決断力がすごいです。もともとそういう性格ですか?

みんなから「行動力がすごい」と言われることはありますが、私としてはやりたいことをやっているだけの感じです。言ったことは絶対にやる有言実行タイプではないですね。人に流されやすいけど、人と同じことはやりたくないっていう、ちょっと矛盾しているというか、変わっているというか(笑)。

安間志織

「ストレスは溜めたくないし、やるなら楽しみたいです」

──住んでいるところはシェアハウスだと聞きました。バスケでもプライベートでも、言葉はどうしているんですか?

行くなら英語も学びたくて、アメリカ人のルームメート2人と住んでいます。言葉の壁はもちろんあるんですけど、2人ともすごく優しいし面白いし、私が分からなくて「えー!?」っとなっていても頑張って伝えようとしてくれるし、最近は変な言葉、ちょっと笑いが起きるような言葉も教えてくれるようになって、言葉の壁はあるんですけど今のところストレスにはなっていないですね。

チームではドイツ人同士はドイツ語で話していますが、みんな英語ができるので、国外の選手がいる時は英語です。語学の勉強は週2でドイツ語、週1で英語のレッスンをしています。ドイツ語の勉強は説明が英語なので全く分からないんですけど、ドイツ語より英語を本気で話せるようになりたいので、これも良い機会だし、文化に触れるのも楽しいです。

みんなには「メンタル強いね」とすごく言われるんですけど、ストレスは溜めたくないし、やるなら楽しみたいです。日本にいても自分の思い通りに行くことは少ないじゃないですか。だから「どうせやるなら楽しもう」と私は思っています。ドイツ語も英語も分からなくて、話していることが一切分からないこともありますけど、何とか単語を聞き取れたらメモして後で「どういう意味?」と教えてもらっています。それで本当に分からなかったら、イヤホンで音楽を聴くような感じでBGMだと思うようにしています。聞こう聞こうと思っても無理だし、分からない分からないでストレスが溜まるので、だったらBGMにしちゃいます。

──今週末に開幕だそうですが、ここまでチームの練習に参加した感触はどうですか。このチームのエースでやっていくとか、個人タイトルを狙うという気持ちはありますか?

私のチームはボールを速く運ぶトランジションのチームなので、そこは自分に合っています。速いバスケットはトヨタでも好きだったので、私がこのチームをプッシュしたいと思っています。

リーグ全体のレベル、ドイツがどういうプレースタイルなのかはまだ分からないのですが、私個人としてはこのチームでエースにならなきゃいけないと思っています。個人タイトルはトヨタのメンバーからも取ってこいと言われているんですが、そこだけに集中しないで自分の成長とチームへの貢献を考えたいです。私は頑固なので、英語がしゃべれないままにチームメートには結構言っていて、もっと言いたいので難しいところもあるんですけど、いろいろ経験して今後に繋げたいと思います。

安間志織

「そこは迷いなく自分のやりたかった道に進みました」

──安間選手にとっての『今後』はどんなイメージですか?

日本に戻るのか、またどこか別のチームに声を掛けてもらえるのか分かりませんが、ここが最終地点ではないので、次のためにも自分のレベルを下げるのではなく上げていきたいです。

──『今後』の中には日本代表もイメージしていますか?

私は基本、日本代表を中心には考えていないので。東京オリンピックの時もそうでしたが、代表合宿に呼ばれたのは自分のチームで結果を残したからだし、代表候補に選ばれたのはうれしいんですけど、まずは自分のチームでこういうことをしたい、こういう選手になりたい、と思っています。それをやった上で日本代表に選んでもらえたらうれしいです。

──では、WリーグのファイナルでMVPを受賞したことはどう受け止めましたか?

今まで大きな個人賞を取ったことがなかったので、「絶対に取る」みたいな意識はなかったし、選ばれた時も「え? 私?」と正直思っていました。絶対に勝ちたかったしMVPはうれしかったですけど、狙う気持ちはゼロだったので「私で良かったのかな」とすごく思っています。

日本代表については代表候補に選ばれた時点で12人に残ることを目標にして精一杯やったし、落ちたのは本当に悔しかったですけど、それが私の実力でもあるので。いろんな思いはありましたが、そのタイミングで海外に行くチャンスが来たので、そこは迷いなく自分のやりたかった道に進みました。

──アンテロープスには恵まれた環境がありました。ドイツでの待遇はどんなものですか?

家賃はチームが払ってくれているので、日用品や食事ぐらいしかお金はかからないのですが、収入という点では比べ物にならないです。でも、日本にいたらいくらお金を払ってもこの経験はできないので。もちろんお金以外には栄養面や物品など本当にいろいろ支えていただいていて、そのおかげでこうやって挑戦できています。だからWリーグでも一番小さい私が海外に出て何かを成し遂げて、日本にいる子たちのプラスになるような刺激を与えたいです。

──ファンの皆さんにメッセージをお願いします。

コロナ禍で日本にいてもファンの皆さんとなかなか交流ができない中で、ドイツに来てさらにコミュニケーションを取る場所が少なくなったんですけど、私がドイツで日本のバスケットに、バスケットだけじゃないですけど、明るい何かを伝えられたらと思います。試合は多分、日本だと夜中の2時とか3時だと思うんですけど、応援してもらえたらうれしいです。精一杯頑張ります。