バスケット人生で初とも言える「ライバル」との争い
女子日本代表のエース、渡嘉敷来夢が昨日、WNBAのシーズンを終えて帰国した。成田空港で取材に応じた渡嘉敷が、シアトル・ストームでの2年目、その途中にリオ五輪を挟む充実したシーズンについて語ってくれた。
「スタート(スタメン)ではなかったので、自分としては日本では経験できない経験ができたと思います。プレータイムが2分だったらその2分の間に自分のパフォーマンスを、100%以上出さないといけない。その難しさを経験できて、これからのバスケット人生にプラスになったと思います」
WNBA初挑戦だった2015年は全30試合中16試合でスターターとして起用され、1試合平均20分の出場で、8.2得点、2.6リバウンドの数字を残した。ところが2016年になるとスタメン出場は1試合のみ。1試合平均のプレータイムが13分に短縮されたことで、得点は5.3、リバウンドは2.5へと減少した。
これはドラフト1位の大物ルーキー、ブリアーナ・スチュワートが加入したから。パワーフォワードの先発の座を渡嘉敷から奪ったブリアーナは、全試合でスタメン出場、1試合平均18.3得点、9.3リバウンドという数字を残した。さらにはチームUSAの一員としてリオ五輪に参加し、金メダルを持ち帰っている。
渡嘉敷はシーズン開幕を控えて日本を発つ前にも「すごいルーキーが入ってくるらしいので、一緒にやるのが楽しみ」と語っていたが、ブリアーナのパフォーマンスは事前の想定をはるかに上回った。間違いなく今後のアメリカ女子バスケを引っ張っていく逸材だ。渡嘉敷は言う。「そういう選手を近くで見れたことはプラスでした。負けたくないと常に思えて、そういった環境でバスケットをするのが楽しかったです」
そう、渡嘉敷はバスケを始めた時から常に世代のトップであり、桜花学園からJX-ENEOSに入団した時から日本女子バスケのトップだった。ライバルらしいライバルに出会ったことがない、と言っても過言ではなかった渡嘉敷にとって、この1年が新鮮だったのは事実だろう。その点、アメリカ女子バスケ界の新鋭ブリアーナは、ストームでのレギュラーの座と金メダル、渡嘉敷が求めるものを両方とも手にしていた。
「ストゥーイー(ブリアーナ)とはずっと同部屋だったんですけど、遠征バッグの上にポンと金メダルを置いてて、『クッソー』と思いました。自分だったら絶対そんな扱いはしないぞ、って(笑)。そこではっきりと『4年後はこの色をもらうから』と言ったら『いやシルバーだ、金メダルは私が絶対に取るから』と言われて、負けたくないと思いましたね」
リオ五輪後はストームでのパフォーマンスも大きく向上
ただ、ブリアーナと渡嘉敷、さらにはアメリカ代表の正ポジションガードのスー・バードを擁するストームも、WNBAではプレーオフ1回戦で敗退。プレーオフ進出という目標を果たしたが、1回戦負けは悔いの残る結果だ。
「勝ちたかったですよ。一回しかみんなと一緒にやれなかったのは悔しいです。来年は絶対勝とうとストゥーイーとも話しました」
シーズンを振り返って成長した部分として、渡嘉敷は「試合に飢えた気持ち」を挙げた。「試合に出たいという気持ちがすごくあったので、そういう時にオリンピックに出て、試合に出る喜びとうれしさがありました。そういった気持ちになれたのは、変な話、バスケットを始めて以来です」
もう一つの収穫は、ベンチに座る時間が長い苦しいシーズンではあっても、シーズン終盤にパフォーマンスを上げられたことだ。リオ五輪の中断期間が明けた10試合とプレーオフでは、1試合平均のプレータイムは16.5分に、得点は7.3点へと急上昇している。
「自分で勝手に思っていることなんですけど、やっぱり日本代表に戻るとスタートで出ているし、中心選手の一人としてやらせてもらっているので、やらなきゃいけないという気持ちがありました。それをストームに持って帰れたのかなと思います。最初からその気持ちがなかったわけじゃないんですけど、後半は『日本代表の渡嘉敷来夢がストームにいるぞ』という形で積極的にプレーできました」
渡嘉敷が唯一スタメン出場を果たしたのは五輪が終わって間もなくの試合。センターの選手がケガをしたため、代役でのスタメン起用となった。「5番(センター)の控えがいるにもかかわらず自分を5番としてスタートにしてくれたのはすごくうれしかったです」