鮮やかなオフェンスの才能と、あと少しでタイトルに手が届かない不運
バスケットボール殿堂入りを果たしたクリス・ウェバーは新人王、5回のオールNBAチーム、リバウンド王と輝かしいキャリアを誇るスーパースターでした。初めに注目されたのはジェイレン・ローズやジョワン・ハワードらとともに1年生5人組のスターターでNCAAファイナルに進んだミシガン大、『ファブ・ファイブ』(奇跡の5人)と呼ばれたチームのエース時代で、ビッグマンながらすべてをこなすオールラウンドなプレーヤーとして旋風を巻き起こしました。
年齢に見合わないプレーをする『早熟の天才』は、今となれば『生まれるのが早すぎた天才』だったのかもしれません。
ボディバランスとパワーに優れ、柔らかなシュートタッチでポストアップから多彩なフィニッシュを決めるウェバーは、リバウンドやリムプロテクトといったディフェンス力でも威力を発揮し、いわゆる『パワーフォワードらしいプレー』をハイレベルでこなす選手でしたが、同時に速攻の先頭を走るガード並みの走力を持ち合わせた、当時としては規格外のビッグマンでした。
しかし、ウェバーがNBAに入った1990年代はピストンズやブルズが覇権を握る『ディフェンス全盛期』で、さらにウェバーの前年にドラフト1位指名されたシャキール・オニールがハーフコートオフェンスの強烈な『シャックアタック』でその時代を受け継いでいました。さらに言えば当時は、ウェバーの持つオールラウンドな能力を勝利に結びつける戦術がありませんでした。
それでもキングスに移籍したウェバーは、マイク・ビビーやジェイソン・ウィリアムスといったポイントガードとのコンビネーションで崩していくオフェンスを確立しました。何よりもブラデ・ディバッツとのビッグマンコンビは変幻自在のポジショニングで、現代でも通用する攻撃的チームとなったのです。平均100点を超えるチームが珍しかった時代でしたが、ウェバーがいた7年間のキングスは毎シーズン100点オーバーを記録し、61勝を挙げるなどリーグのトップチームであり続けました。
特に2001-02シーズンのキングスは『チャンピオンリングを獲得できなかったNBA史上最高のチーム』と呼ばれ、鮮やかすぎるオフェンスとハードなディフェンスは、20年が過ぎた今でもファンをワクワクさせる魅力の詰まったチームです。現在のウォリアーズとも比較される伝説のチームは、ウェバーのパス能力が最大限に生かされており、時代にそぐわないトランジションとポジションレスアタックは、当時のディフェンス戦術では到底対応できるものではありませんでした。しかし、優勝したレイカーズを後一歩まで追い込みながら、第4クォーターに27本のフリースローを与える不可解な判定により敗れています。
NCAAでもNBAでも、優勝に肉薄するものの最後の壁を打ち破ることができなかったウェバーですが、個性的なプレースタイルながらチームを勝たせた選手でもあり、オールラウンダーが重用される現代であれば、より大きなインパクトを与えたことは間違いありません。
時代は変わり、現代ではウェバー型のビッグマンは増えてきました。シーズンMVPを獲得したニコラ・ヨキッチとファイナルMVPを獲得したヤニス・アデトクンポはその最新型かつ最高峰のプレーヤーだと言えます。それはこの個性をチームとして活用する戦術が整備されたことでもあり、もしもウェバーが現代にプレーしていたら、ポイントガードまでこなせるスキルとインサイドで戦える身体能力を最大限に発揮し、この2人と肩を並べる活躍をしたでしょう。引退後は人気アナリストとして解説席に座っていますが、20年後の今こそコートに立って欲しい稀有なレジェンドです。