ジャ・モラント

プレーインとプレーオフの経験が若いチームには最高の刺激に

2020-21シーズンのサンズの躍進を、誰が予想できただろうか。その前のシーズン、『バブル』を8連勝で終えたことで、プレーオフ進出は逃したものの若いチームが実力を伸ばしているのは見て取れた。クリス・ポール加入もインパクトのある補強だった。それでも、プレーオフで勝ち進むには経験が必要だと言われる。クリス・ポールにしても大ベテランで、コンディションの面でどこまでやれるかは未知数だった。それでもサンズはレギュラーシーズンを51勝21敗、全30チーム中2位の勝率で終え、プレーオフではレイカーズ、ナゲッツ、クリッパーズと優勝候補を次々と破ってNBAファイナルまで勝ち進んだ。

戦力均衡のためのルールが整備されているNBAにおいて、強いチームがずっと強いままでいるのは難しい。逆に、なかなか勝てないチームも、何か一つのきっかけで大きく飛躍する。今秋に開幕する新シーズンで、サンズのように大きく飛躍すると期待されるチームの一つがグリズリーズだ。

昨シーズンは38勝34敗でプレーイン・トーナメントへ。スパーズとウォリアーズに勝ってプレーオフへと進み、ジャズ相手に1勝4敗でファーストラウンド敗退となった。大きな結果を出せたわけではないが、レギュラーシーズン終盤の順位争いを経てプレーインを勝ち抜いたことは、若いチームにとって大きな自信となる。サンズにおける『8勝0敗』に似た経験ができた。

このチームでは中堅となる27歳のカイル・アンダーソンは、キャリア3年目に経験したカンファレンスファイナルが忘れられないと語っている。彼が所属していたスパーズは全盛期のウォリアーズに歯が立たず、4連敗で敗退するのだが、その最終戦で彼は当時のキャリアハイとなる20得点に加え、7リバウンド4スティールを記録。スパーズの選手らしい、バスケIQを生かしたプレーでウォリアーズと渡り合った。「ウォリアーズ相手にあれだけのプレーができたことが、僕にとって揺るぎない自信となった。チームにとっては厳しい負けだったけど、僕は大きな何かをつかんだ感覚だった」とアンダーソンは振り返る。

それと同じことが、ジャ・モラントを始めとするグリズリーズの若い選手たちにも起きている。プレーオフの間、グリズリーズの指揮官、タイラー・ジェンキンスは戦況が悪くても記者会見では常に笑顔を見せ、勝率トップのジャズを相手に真剣勝負の経験ができていることをポジティブにとらえていた。

マイク・コンリーとマルク・ガソルを放出し、ジャ・モラントを中心としたチームを作り始めてから2年。エースのモラントは今回のポストシーズンで大きく化けた印象がある。レギュラーシーズンは19.1得点、7.4アシストだったスタッツが、プレーインの2試合では27.5得点、6.0アシストとなり、ジャズとのプレーオフでは30.2得点、8.2アシストと大きく伸びた。プレーオフでスタッツを伸ばせるのは、一握りのスーパースターだけ。モラントがその域に達したのかどうかは、新シーズンに証明される。

ジャレン・ジャクソンJr.はそのモラントとリーグ最強のピック&ロールデュオになれる可能性を秘めている。ディロン・ブルックスはモラントを支える『第2のエース』であることをこの1年で証明した。

デズモンド・ベインとゼイビアー・ティルマンSr.はルーキーながらローテーションにがっちりと食い込み、2年目の来シーズンにはさらに重要な働きができるだろう。4年目を迎えるディアンソニー・メルトンは、激しいプレッシャーディフェンスとシンプルなパスによるゲームメークで、モラントのバックアップとしては非常にバランスの良い選手だ。そしてトレードで加わるエリック・ブレッドソーとスティーブン・アダムズには、この若いチームをまとめるだけの経験がある。

もちろん、若いチームだけに安定感を欠くことはあるだろう。サンズと比較するには、クリス・ポールという絶対的なリーダーの不在は大きい。それでも、再建中のチームの中で『すぐに結果を出せるチーム』として最も有望なのはグリズリーズだ。モラントという絶対的なエースを擁し、その脇を固めるタレントも伸び盛り。新シーズン、このチームの戦いぶりは注目に値する。