3x3男子ラトビア代表

ファイナルは『自分の限界を超えるメンタルの戦い』に

今回のオリンピックから新種目として採用された3人制バスケットボールの『3×3』は、男子ではラトビア代表が金メダルに輝きました。日本代表は準々決勝でこのラトビアに3点差で敗れており、実力伯仲の大会となりました。唯一、圧倒的な強さを誇ったセルビアがROC(ロシア)に準決勝で敗れる波乱が起きましたが、消耗戦の色合いが強く、アップセットが多い競技の特性が出ました。

とにかくハード、信じられないくらいにハード。耐え切れないくらいにハード。試合時間はわずか10分間ですが、「見ているだけで疲労困憊」という過酷な競技です。瞬発力を求められるバスケットの競技特性に加えて、攻守に絶え間なく動き続けるスタミナと、激しいフィジカルコンタクトの連続で削り合う3×3ならではの特徴が加わり、試合序盤と終盤では両チームの力関係が逆転することも珍しくありません。

そこに東京オリンピックならではの『猛暑の炎天下』と『1日2試合を休みなく5日間』が加わり、異様な消耗戦となりました。決勝ではROCが、選手より先にバスケットシューズが耐え切れずに壊れてしまうアクシデントも発生しました。4人で戦う競技で1人が出られなくなれば過酷さはさらに上がってしまうため、テーピングでグルグル巻きにする応急処置で戦いの場に戻りました。

3X3は5人制と比較して1人ひとりのスペースが広くなるため、個人技を発揮しやすいだけでなく、コンビプレーが成立しやすいのも特徴で、スクリーンを使ってマークマンを変更させ、自分たちのストロングポイントと相手のウィークポイントをぶつけ合う戦術的駆け引きが重要です。そのため選手全員がオールラウンドに振る舞う必要もありました。

ラトビアとROCのファイナルは、ハイレベルな駆け引きが繰り返されると想像されましたが、両チームともあまりにも疲弊しており、スクリーンに対して足がついて行けず、2ポイントシュートのチェックに出る一歩が踏み出せず、ディフェンスの連係ミスも連発し、駆け引きよりも『自分の限界を超えるメンタルの戦い』となっていきました。

前半はROCが優勢でしたが、ディフェンスで追いかけるのが厳しくなってくると、ラトビアのスクリーンに対処できず2ポイントシュートを決められ、次は2ポイントシュートのフェイクに簡単に引っかかり、ドライブやカットプレーでゴール下のイージーシュートを打たれました。本来であればあり得ないディフェンスの連係ミスが重なり、ラトビアが追い上げます。

カーリス・ラスマニス

1人が動けなくなったラトビア、精度の落ちないシュートで決着

しかし、残り5分でついに限界を迎えたラトビアのエドガルス・クルミンシュが、方向転換のために踏ん張った際に足首が痛めてしまいます。あまりの痛がりようにプレー続行は無理だと思えましたが、試合時間半分を残して1人減っては圧倒的に不利になるため、急いでテーピングを巻き直して、何とかコートに戻ってきました。

そのクルミンシュの身体を張ったポストプレーからカーリス・ラスマニスが2ポイントシュートを決めると、さらにROCにディフェンスミスが出てラトビアは逆転。フリースローで再逆転されるも、運動量の落ちたROCはディフェンスを立て直すことができず、ラトビアが優勢で試合終盤に突入します。

しかし、やはりクルミンシュの足首は限界を超えており、残り2分で再度痛めてしまい、本人はテーピングを巻きなおして戻ろうとはするものの動くことができません。消耗しきった終盤にラトビアは3人で試合をすることになりました。1人減ったラトビアと足がついて行かないROC。新競技のファイナルは過酷な5日間を象徴するクライマックスとなりました。

試合を決めたのはラスマニスの2ポイントシュートでした。交代ができない中でタイムアウトやチャレンジを使って少しでも休養を挟み、疲労困憊でも精度の落ちないシュート力でノックアウト勝利をつかみ取りました。勝利の瞬間、痛みを忘れたかのように立ち上がったクルミンシュが歓喜の輪にダイブしたシーンは感動的でした。

スピード、フィジカル、スタミナ、スキル、そして何よりもメンタルの強さ。バスケットに必要な要素が濃縮された10分間の戦いは、呼吸をする暇を与えてくれないくらい濃密で熱すぎるクレイジーな魅力を放っていました。そして人口193万人の小国がバスケットの世界で金メダルを獲得する偉業の達成は、3×3という競技の可能性をさらに高めてくれました。apsveicu!Latvia!