ドライブの力強さ、ステップワークは日本にいた時から劇的に向上
2018年のウインターカップ、準決勝で福岡第一に敗れて高校日本一のタイトルは逃したものの、『大会の主役』は間違いなく富永啓生だった。桜丘のエースとして6試合で平均39.8得点を記録、大会得点王となった。高校バスケはチームごとの力の差は大きいが、遂行力は高い。桜丘は彼のワンマンチームで、対戦相手はどこも彼を徹底的にマークしたが、富永は試合のたびにそれを乗り越えて得点を量産した。
当時から富永は世代トップの選手であるとともに、大きな夢を有言実行しようとする感覚の持ち主で、2018年のウインターカップ初戦を終えたところで「60点を取りたい」と高い目標を掲げた。結局、3位決定戦の帝京長岡戦で挙げた46得点が1試合の最多得点。それでも最後は「60点取れなかったのは悔しいんですけど、最後に勝って終われたのでやり切った感はあります」と、笑顔で大会を終えている。
この時にはアメリカへ行く気持ちを固めており、「NBA選手になりたい」と語るとともに「日本代表に選ばれて、2020の東京オリンピックに出たい」と目標を語っていた。当時、U18の日本代表ではあったがA代表の経験のなかった彼にとってオリンピック出場はほぼ不可能と思われたが、3人制バスケ『3×3』で目標を果たした。
その富永がオリンピックで2試合をプレーし、大きく成長した姿を見せた。酷暑の東京でどの選手も2ポイントシュートのタッチに苦しむ中、富永も得意のアウトサイドシュートは14本打って成功わずか1本と当たりが来なかったが、外を警戒されている逆を突き、ドライブで仕掛けた。10分間ではあっても消耗の激しい3×3では終盤に相手の運動量が落ちる。その時に若い富永の積極性と、アメリカで磨いた技術が生きる。ドライブの力強さ、ステップワークは日本にいた時から劇的に向上し、当たりの激しい3×3でも恐るべき効果を発揮。1ポイントシュートは13本中11本成功と、2ポイントシュートの不振を補って余りある結果を残している。
昨日の2試合はいずれも、序盤の出遅れを挽回して延長戦に持ち込んだが、ポーランドとの初戦では敗れ、続くベルギーには勝利した。「簡単に言えば1試合目はそこで勝ち切れず2試合目は勝ち切れたということが、残念だったところと良かったところになると思います」と富永は言う。
「個人としても、ドライブを積極的にいけたところは良かったと思いますが、アウトサイドの2ポイントがまだチームの力になっているという状況ではありません。そこは自分の役目だと思うので、明日からまた切り替えて頑張っていきたいです。ただ、チームとして、とにかく1勝できたことはうれしいです」
レンジャー短大を経て、この秋からNCAA1部のネブラスカ大へ編入することが決まっており、全米屈指の『BIG TEN』カンファレンスに挑戦することになる。ただ、その前にオリンピックで彼の名は世界に知られることになりそうだ。まだ2試合を終えただけではあるが、高い潜在能力とスター性を十分に示すパフォーマンスだった。今夜はオランダ、ラトビアと強豪との対戦が控えているが、『和製ステフィン・カリー』を目指す富永には、ここ一番での得点を期待したい。