「僕が中心となってやっていかなきゃいけない」
7月7日、バスケットボール男子日本代表は、沖縄での国際強化試合3連戦の初戦となるハンガリー戦に79-58で快勝した。勝利の原動力となったのは、チームに合流したばかりの渡邊雄太だ。
今シーズン、ラプターズで念願のNBA本契約を勝ち取るなど大きなステップアップを果たした渡邊は、2019年ワールドカップ以降では初となる代表戦で試合開始からエンジン全開。日本は14-2と見事な先制パンチに成功して試合の主導権をつかんだが、そのうち10得点は渡邊が記録したものだった。
その後も力強いゴール下へのアタックにアウトサイドシュートと内と外の両方から得点、ドライブからのキックアウトによるアシスト、堅実なディフェンスと攻守で質の高いプレーを見せ、21分36秒のプレータイムで25得点7リバウンド4アシスト2スティール。まさに格の違いを見せた渡邊に、指揮官フリオ・ラマスは絶大な信頼を寄せる。
「言うまでもないですが、彼はNBAプレーヤーでいろいろな面で考えても世界基準の選手。1年を通して常に世界トップで戦っているので、そういう環境にも慣れています。タフネスやフィジカル、テクニックすべてにおいてトップリーグでやっていけるスキルが揃っている。代表にとっては間違いなく重要な選手です」
またラマスは、2年ぶりの合流となった渡邊の進化をこう続ける。
「明らかに良くなったのは3ポイントシュートです。フィジカル面で言えば筋肉量が増えています。2年前は2ウェイ契約でNBAとGリーグを行ったり来たりしていましたが、今は契約を勝ち取っています。メンタリティでより成熟した選手になったと思います」
指揮官だけでなく多くの人々が、渡邊を代表の大黒柱と捉えている。渡邊本人も「このチームが世界を相手に勝っていくには、僕が中心となってやっていかなきゃいけないという責任はあります。そこはラプターズでの役割とは当然違います」と、強い思いを持って日の丸をつけている。
だからこそ、端から見たら文句なしの活躍にも彼は満足していない。「そういう意味で今日はオフェンス、ディフェンス、キャプテンシーを含めていい活躍ができたと思いますが、僕自身ももっと成長しなければいけない部分はあります。オリンピックまであまり時間はないですが、しっかりと自分がこの短い期間でも成長できるように、これから一日一日を大切にしていきたい」
「オリンピックで勝つために僕は30分出なければと考えています」
さらなる成長の部分について、具体的に意識しているポイントの一つがスタミナだ。「個人的には今日は20分ちょっとプレーしていて正直疲れもありました。オリンピックで勝つために僕は30分出なければと考えています。その部分で、もっと体力的には上を目指さないといけないです」
コンディションでいうと、NBAで本契約を目指し心身ともにプレッシャーのかかる状況を戦い抜いた渡邊が、短いオフを挟んで代表活動に参加するのはタフなものだ。しかし本人は、「僕としてはオフシーズンにこういう大会があるのはすごくありがたく思っています」と語る。
NBA選手としての地位を確固たるものにするため、今の自分には最低限の休息でいいと考えている。「NBAで生き残っていこうと思ったらオフシーズンでも休んでいる暇は全然ないです。オフに大きな大会があり自分のプレーを磨けるのは良い機会で、有効的に使わないといけないと思っています」
他にも印象的だったのは渡邊が存在感を発揮していたのはコート内だけではない。ベンチに下がっている時も、味方の好プレーに身を乗り出して反応するなど、チームメートを鼓舞する姿が目立った点だ。そこにはラプターズのリーダーたちの振る舞いに感銘を受けたことが影響している。
「自分が試合に出ている、出ていないにかかわらず、キャプテンという部分でも成長した姿を見せられればと思っています。意識的にやっていた部分もありますが、ラプターズではカイル(ラウリー)やフレッド(バンフリート)が常に僕たちに声を出してくれています。コート上でプレーしている時、チームのエースたちが声をかけてくれると、もっと頑張らないという気持ちにもなりました、だから僕もそういう役割を日本代表ではどんどんやっていこうと思っています」
ラプターズでの飛躍を見れば驚くべきことではないが、渡邊は特大のインパクトを与えてくれた。これから彼が練習と試合を重ねることでより他の選手たちとの連携を深めていけば、相乗効果でチームはもっと良くなっていける。そんな大きな期待感を抱かせてくれる渡邊のプレーだった。