5人制と3人制、男子と女子。この中で3人制の女子日本代表だけが自国開催でのオリンピック出場権を与えられず、過酷な予選を戦うことになった。しかし、世界の強豪を倒して実力を示し、自信を増した今、このチームが最もメダル獲得の可能性が高いと言ってもいいだろう。そのチームで中核を担う馬瓜ステファニーと山本麻衣は、桜花学園から一緒にプレーし続ける仲だ。3×3を始めたのも同時期で、様々な大会をともに戦ってきた。その2人に、あらためてオリンピック出場権を勝ち取った戦いを振り返ってもらった。
桜花学園の1年違いの先輩後輩、トヨタ自動車でもチームメート
──今は暑熱順化トレーニングの最中だそうですね。3×3は屋外のコートで、真夏に行われるオリンピックに向けた準備だと思いますが、実際にどんなことをしているのですか?
山本 ナショナルトレーニングセンターの隣にあるJISS(国立スポーツ科学センター)で、気温を32℃、湿度を70%の環境を作った中で自転車を1時間漕ぐトレーニングです。めちゃくちゃキツいです。
馬瓜 10km走る方がずっと楽ですね。それぐらいキツい!(笑)
──2人は桜花学園の1年違いの先輩後輩で、トヨタ自動車アンテロープスでもチームメートで、ずっと一緒にプレーしています。取材も2人一緒に何度もさせてもらっていますが、この2人でオリンピックに出場するとは思ってもみなかったですよね?
山本 高校の時に取材してもらった時には2人でオリンピックなんて考えたこともなかったですね。今もこうやって一緒にプレーできているのはうれしいですし、言わなくても通じる何かがあると思っています。それはステファニーさんと私がずっと一緒にやってきた経験があるからこその意思疎通で、プレーしてもタイミングがすごく合わせやすいです。
──一緒にいると見えづらいかもしれませんが、バスケ以外の面での人としての成長、大人になったと感じる部分はありますか?
山本 ステファニーさんは全然変わっていないです、ホントに(笑)。
馬瓜 高校の最初の頃とかの山本は一匹狼みたいなところがあったんですよ。今はみんなのことを考えて動く、みんなを動かすのがすごく上手くなりました。あと、人の話を聞くこともできるようになったと思います。成長しましたね(笑)。
──では、プレーの面ではどうでしょう?
馬瓜 前からメンタルは強かったですけど、すごく良いところで2ポイントを決めたり、またさらに強くなりました。5人制ではいろんなガードの選手がいる中で試合にあまり出られず、本人もいろんな葛藤があっただろうと思うし、でも今までだったら落ち込んでいたところで、出れない時にもしっかり準備をして、出た時に自分の仕事ができていたと思います。ちょっと上から目線ですけど(笑)。
「気持ち良く試合をできるように、みんなが支えてくれていた」
──アソシエイトヘッドコーチの長谷川誠さん、アスレティックトレーナーの岡本香織さん、エントリーはしなかったのですがチームに帯同した田中真美子選手と永田萌絵選手。みんなで力を合わせて勝ち取ったオリンピック出場権だと思います。
山本 本当にそうです。田中さんと永田さんは試合中の声掛けはもちろんですけど、移動中に荷物を運んでくれたり、私たちが休んでいる間にトレーナーさんたちと一緒に練習の準備をしてくれたり、私たちがスムーズに試合に入ることができるよう、いろいろやってくれたのですごく感謝しています。
馬瓜 自分がチームから外れたのに海外でサポートメンバーをするのは気持ち的に難しい部分も多いと思うんですけど、2人は試合前の準備やフォーメーションの確認だったりとすごく助けてくれました。試合でもプレーしているからこそ分かる、コーチとはまた違った目線のアドバイスを言ってくれたり、すごくありがたかったです。
山本 スタッフが2人しか入れなかったので、岡本さんも長谷川さんもやることが多かったと思います。長谷川さんはチームをすごく鼓舞してくれる存在で、どの試合でもすごくパワーをもらえました。大会前にドイツで合宿をして、末広(朋也)さんと大神(雄子)さんは時差のないドイツに残ってスカウティングの映像を作って、リモートでのミーティングを毎日毎日やってくれました。
馬瓜 コーチに関しては長谷川さんは他の2人がいなくて不安な部分も正直あったと思うんですよ。でもそんな素振りは見せず、試合前に自分たちを和ませてくれたり、気合いを入れてくれたり。そういう姿が自分たちのエナジーになった部分は間違いなくあります。
山本 岡本さんは1人で選手4人を見ないといけないので大変なんですけど、英語がしゃべれるので通訳もやって、マネージャー的な仕事もしてくれて、岡本さんがいなかったら私たちは何も分からず大変なことになっていたと思います。
山本 ドイツ遠征の後は日本に帰っていたマネージャーさんたちもみんな日本からサポートしてくれたし、これまで合宿に来ていた方々みんなで勝ち取ったオリンピックだと思っています。
「勝った瞬間にみんなが言っていたのは『やっと帰れるー!』でした(笑)」
──準決勝のフランス戦、最後に山本選手が打ったシュートが決まっていれば逆転勝ちで出場権が手に入っていました。しかし、そのシュートはリングに弾かれて、3位決定戦に回ることになりました。精神的にかなりキツい場面だったと思いますが、次の試合までにステファニー選手に声を掛けられて気持ちを整えることができたと帰国会見で話していましたよね。2人の関係性が生きた場面だったのでは?
山本 自分の2ポイントシュートが入らなくて、リズムに乗れないまま負けてしまった試合でした。そこは反省というか、すごく落ち込んで、気持ちは一回崩れました。一度ホテルに戻って休んだんですけど、気持ちを落ち着かせて『無』になろうとしても、どうしても考えちゃうので、その時にステファニーさんと同室だったので、2人で「絶対勝つしかない、やるしかない」って声を掛け合いました。
馬瓜 別に気は使わなかったですね。そんな関係でもないので(笑)。ダメだったことはダメで、切り替えるしかないし、帰りたかったら勝つしかないとずっと言っていました。それは山本に言っているようで自分自身に言い聞かせてもいて、同じ部屋でああやって2人で話せたのは良かったですね。1人部屋だったら落ち込む時間が長くて、悪い感じのままスペイン戦に入っていたかもしれないので。
山本 あとは栗原(三佳)さんですね。abemaで解説していたのでずっと見ていてくれて、夜中でしたが「自分のプレーに自信を持ってやってこい!」とLINEをくれて。それで結構吹っ切れたのは大きかったです。
──万が一スペインに負けて、OQTで出場権を取れなかったら、ハンガリーに場所を移してユニバーサリティー方式選考会(UOQT)という大会に回り、最後の出場権1枠を6チームで争わなければいけないところでした。
馬瓜 それは本当に、行かなくて済んで心から良かったです(笑)。
山本 みんなでオリンピック出場を決めたのはうれしかったんですけど、勝った瞬間にみんな言っていたのは「やっと帰れるー!」でした(笑)。ドイツ遠征から本当にすごく長かったので、勝って日本に帰ることができて良かったです!