ドノバン・ミッチェル

ミッチェルの復帰で風向きが代わり、ジャズが1回戦突破

レギュラーシーズン最後の1カ月を欠場し、プレーオフ第1戦も試合開始直前にチームスタッフからストップがかかって出場できなかったドノバン・ミッチェルでしたが、第2戦から復帰するとチームは4連勝で一気にシリーズを決めました。ミッチェルはジャズはもちろんグリズリーズにも大きな影響を与え、圧倒的な存在感で試合展開を変えました。

最も大きかったのはジャズの3ポイントシュート成功率です。ミッチェルのいない第1戦は25%しか決まらなかったのが、第2戦以降は42%と大きく向上しました。ミッチェルにボールが収まり、ゆったりとしたリズムでオフェンスが始まることで、チーム全体が落ち着いて正しいポジショニングを取り、さらにドライブからディフェンスの逆を取るキックアウトパスが効果的に増えました。チームとしてドライブが増えたことでグリズリーズのディフェンスを収縮させ、ワイドオープンの3ポイントシュートが増えたのです。

プレーイン・トーナメントから異常な成長を見せ、レギュラーシーズンとは全く違うチームに進化したグリズリーズは、ディフェンス面では特にディロン・ブルックスやカイル・アンダーソンのハイプレッシャーでオフェンスを追い込むようになりました。第1戦でもプレッシャーが効いてジャズのパスは微妙に乱れ、それがシュート成功率を落としていました。

プレーイン・トーナメントの戦いでスパーズのデマー・デローザンやウォリアーズのステフィン・カリーを追い込んだブルックスは、ミッチェルに対してもしつこいディフェンスで食らい付きに行きました。しかし、デローザンよりも3ポイントシュートが上手く、カリーよりも突破力があるミッチェルには、下がれば打たれ、前に出れば抜かれました。

ただ、これだけならはグリズリーズが想定する範囲内でしたが、より問題だったのはスクリーンを使って普通に抜く時もあれば、ブルックスがスクリーナーをかわしに行く動きを見て急停止してのファウルドロー、またブルックスが先にスクリーナーを避けようとした瞬間にスクリーンの逆を抜くドライブと、とにかく「守らせてすらもらえない」選択でミッチェルに翻弄されたことでした。手玉に取られたブルックスはファウルトラブルを繰り返し、グリズリーズはストロングポイントで完敗してしまったのです。

鮮やかなボールムーブで3ポイントシュートを狙ってくるジャズのオフェンスに対して、第2戦までのグリズリーズは個人のマッチアップで守り切ってボールムーブさせない狙いでしたが、「守らせてくれない」ミッチェルに対して、第3戦からは早めのスイッチや厚いカバーリングで、その突破を塞ぐことを優先して守るようになりました。この変更によりジャズの各選手はパスを受けた瞬間に少しずつ余裕が生まれ、次々とパスが繋がるようになりました。ミッチェルのプレーはグリズリーズのディフェンス戦略を大きく変更させたのです。

常にビハインドを背負った展開で、苦しい試合ばかりのグリズリーズでしたが、それでもジャ・モラントを中心としたオフェンスで盛り返し、接戦に持ち込みました。それでも、追い上げることにエネルギーを使った先に待っていたのは、試合終盤にギアを上げ勝利をつかみ取りにくるミッチェルの独り舞台でした。逆転勝利が見えてきたところでミッチェルの個人技に跳ね返される、この繰り返しは見た目以上に心身を消耗させられたはずです。

復帰から1週間で4試合を戦ったミッチェルは足を痛そうにする場面もあり、フルスロットルではなかったし、プレータイム制限もありました。それでも圧倒的な存在感で試合そのものを大きく変えました。特にグリズリーズはミッチェルに過剰反応するなど『見えないプレッシャー』から崩れていったのです。スタッツ以上の『エースの存在感』を感じさせた、ミッチェルの4試合でした。