ジョエル・エンビード

「人生で起きることにはすべて理由があると考えるようになった」

今シーズンのMVPはナゲッツのニコラ・ヨキッチで決まりだと言われている。他に最終候補となっているのはウォリアーズのステフィン・カリーとセブンティシクサーズのジョエル・エンビード。いずれもヨキッチに負けないインパクトを残したが、カリーは平均32.0得点を挙げて得点王に輝いた一方でチームが西カンファレンスの8位、プレーオフ進出を逃すなど振るわなかった。ではエンビードはどうだろうか。リーグ4位の28.5得点、10位の10.6リバウンドを挙げ、チームを東カンファレンスのトップに導いた。

彼とヨキッチを比べた場合に劣るのは出場試合数だ。レギュラーシーズン72試合のうち51試合に出場。問題があったのは3月だ。オールスターブレイク明け2試合目の3月12日、ウィザーズ戦で左膝を痛めて3週間の戦線離脱を強いられた。ここでの欠場で『シーズンを通じた活躍』に疑問符が付けられることになった。

昨シーズンのプレーオフでは、セルティックスに1勝もできずにプレーオフファーストラウンドで敗退した。シモンズが膝を痛めて欠場し、その穴を埋めることができないままプレーオフを迎えた。この4試合でエンビードは平均35.8分出場し、30.0得点、12.3リバウンドと孤軍奮闘したが、チームを勝たせるには至らなかった。すべてを出し尽くしても、なおスウィープ(0勝4敗)の敗退に追いやられたエンビードは、他の誰かを責めるのではなく、不運だったと片付けるのでもなく、「僕がもっとチームを引っ張らなきゃいけなかった。絶対にもっと良い戦いができたはず」と自分で責任を背負った。

そして敗退が決まった直後にもかかわらず「このオフで自分を変える。ケガがない状態でオフシーズンを迎えるのは僕にとって初めてのことだから、徹底的にトレーニングする。来シーズンはあらゆる面で成長した姿を見せたい」と語った。その言葉通りのパフォーマンスを彼は見せている。

ウィザーズ戦でケガをした瞬間、エンビードは「今シーズンは終わった」と思ったそうだ。シュート後の着地で全体重が左膝に掛かってしまい、あまりの激痛に膝十字靭帯断裂だと感じ、コートで悶絶しながら「全部終わりだ、なぜいつも僕にはこんなことが起こるんだ。あと一歩のところで、いつもこうなってしまう」と考えたそうだ。

しかし、ひどい捻挫ではあったが、骨や靭帯に大きなダメージはなく、3週間で復帰することができた。可能性は低くなったかもしれないがMVPの最終候補には残ったし、優勝を目指して戦うことができている。シクサーズのヘッドコーチ、ドック・リバースは、フィラデルフィアに戻ってエンビードの精密検査の結果が出るまでは眠れなかったと明かす。「彼抜きで戦えないとは言わないが、彼抜きでは優勝を争うことはできない」というのが、指揮官リバースの偽らざる本音だ。

プレーオフが始まる前に受けた『EPSN』のインタビューで、エンビードはこのケガを克服するまでの心の動きを語っている。「すべてを勝ち取りたいと思って努力して、ケガに阻まれるのは受け入れがたい。悲しいし、怒りもする。でも、人生で起きることにはすべて理由があると考えるようになった。MVPは僕のものになるはずじゃなかった、だからこうなったのかもしれない。しかし、それをプラスに変えることはできる。プレーオフに向けて万全のコンディションを整えることができた。2年前がそうだったように、MVPを追いかけて燃え尽きていたかもしれない」

3月の3週間の戦線離脱は、彼にとってメンタルのコンディションを整える時間にもなった。エンビードは去年の秋に父親になっている。「毎日家にいられる仕事ではないから、遠征に出ている時には家族に会えなくて寂しいけど、楽しい日々を送れているよ。私生活に関してはあまり言いたくないけれど、子供の存在は大きいし、素晴らしい経験をさせてもらっている」とエンビードは言う。

今シーズンのプレーオフファーストラウンドではウィザーズと対戦中。ウィザーズは東の8位でプレーオフに何とか滑り込んだチームだが、ブラッドリー・ビールとラッセル・ウェストブルックを中心に終盤戦に勢いを上げている。それでもここまでの2試合はいずれもシクサーズの完勝。エンビードは攻守両面で大いに奮闘している。

「僕の技術が急に上がったとは思わない。だけど、自分の持つどんなスキルをどの場面で出すか、その判断は良くなっているように思う。オフェンスでもただ勢いで攻めるのではなくて、あえてゆっくり攻めたり、2人か3人が僕に寄るのを待ってパスを出したり、プレーの幅が広がって効率の良いプレーができるようになった」と、エンビードは自身の成長について語る。

彼自身は大きくステップアップしているし、精神的にも余裕を持ってプレーできるようになった。昨シーズンとは違ってベン・シモンズやトバイアス・ハリスなど、一緒にチームを引っ張る選手たちも良いコンディションを保っている。噛み合わないチームを一人で引っ張っていた昨シーズンとは状況は大違いだ。

「今回はマジで優勝するチャンスだと思う」との言葉を現実のものに変えられるか。エンビードの活躍に期待したい。