百戦錬磨のウォリアーズを相手に見せた『対策を超えるプレー』
ウォリアーズとのプレーイン・トーナメントに挑んだグリズリーズは、ストロングポイントであるインサイド陣のファウルトラブルに苦しんだものの、エースのジャ・モラントがキャリアハイとなる5本の3ポイントシュートを決め、35得点の大活躍でチームを勝利に導きました。大一番でステップアップしたモラントのパフォーマンスはレギュラーシーズン最終戦とは全く違うもので、プレーオフ進出を懸けた『濃厚な3試合』の中で、彼は急成長を遂げました。
8位の座を懸けた4日前のウォリアーズ戦では16得点9アシストとポイントガードとして結果を残しましたが、むしろウォリアーズディフェンスにパスを出すように誘導され、パスを読まれてシュートチャンスに繋がらないプレーが多く見られました。この試合の反省があってか、続くプレーイン初戦のスパーズ戦では、20得点6アシストと自分で得点を取りに行く姿勢を押し出すような変化は見えていました。
こうして迎えた勝負の一戦でのモラントは、キャリアハイの29本ものシュートを放ち、「自分が試合を決める」という強い意志を感じさせました。ウォリアーズのチームディフェンスは対戦相手に応じて見事なまでに長所を封じ込める策を講じてきますが、4日前にはパターンを読み切っていたモラントが積極性を増したことで、対応できなくなりました。モラント自身がシュートを決めるだけなく、想定外の突破をされたことでウォリアーズのローテーションが間に合わなくなり、そこから生まれるワイドオープンの3ポイントシュートをチームメートが次々と決めていきました。
高い身体能力を持つモラントですが、基本的にはコントロール型のポイントガードで、若さに似合わぬ冷静なゲームメークが光ります。ディフェンスのギャップに通すパス能力で平均7.4アシストを記録しているものの、自分で崩すことにこだわらず、シンプルにチームメートに託すことも多く、チームの強みをしっかりと活用してきました。
しかし、レギュラーシーズンと違って細かい対策が講じられるプレーオフの戦いでは、「いつも通りのプレー」を淡々と構築しているだけではディフェンスの狙いにハマってしまいます。モラントの理詰めのゲームメークは、ウォリアーズのような戦略性の高いチームには止めやすかったとも言えます。
求められるのは「対策を超えるプレー」でしたが、それは日常とは異なるプレーを成功させることを意味するため、普通の選手にできることではありません。それでもモラントは大一番で見事にやってのけました。
ディフェンスに空けられたら3ポイントシュートを躊躇なく打って決め、ドライブからのパスを警戒するディフェンスに対して、パスフェイクからのダブルクラッチを決め、激しくコンタクトされても粘り強くシュートをねじ込みました。
高い身体能力と冷静な判断力で新人王を獲得し、将来を嘱望されているモラントですが、単なるスキルや能力ではなく、『大一番でステップアップする』というメンタルの強さを発揮。プレーオフの雰囲気の中でのステフィン・カリーとの真っ向勝負で上回った試合は、NBAに新たなスーパースターが誕生した瞬間との印象まで与えるものでした。グリズリーズは素晴らしい試合に勝ち、モラントも一つ壁を打ち破りました。西の1位ジャズとのプレーオフ1回戦では苦戦が予想されますが、それも乗り越える活躍に期待しましょう。