安齋竜三

宇都宮ブレックスは49勝11敗、B1全チームの勝率トップでレギュラーシーズンを終えた。シーズンを通じて連敗は2連敗が2度あるだけ。ケガ人はそれなりに出たが、新型コロナウイルス感染者を出すことなく、全60試合をスケジュール通りに戦い抜く中でチーム力を高めてきた。ディフェンスとリバウンドに軸足を置いた戦いぶりは盤石の安定感があり、どの選手も自分たちのスタイルに自信とプライドを持っている。優勝を懸けたチャンピオンシップが始まるにあたり、ヘッドコーチを務める安齋竜三は『優勝候補筆頭』であることに重圧を感じるのではなく、「ここに至る過程や今の準備期間、ウチらしい試合をしっかりすることを楽しみたい」と語る。

「1試合1試合を勝つことで喜んでもらう、そこに自分たちが達成感を持つ」

──まずはレギュラーシーズンでの東地区優勝、おめでとうございます。この結果をどう受け止めていますか

シーズンが始まる時点でまず一番の目標が地区優勝でした。昨シーズンのことがあって、今シーズンも最後までやれるか分からない状況で、取りこぼしを本当に少なくする必要がありました。メンバーがそれほど変わらず、LJ(ピーク)とジョシュ(スコット)の加入でチーム力も相当上がったと感じていたので、長いシーズンの中で浮き沈みはあったし徹底できなかったところもあったんですけど、常に自分たちで反省してまた成長できるように。佐々(宜央)と町田(洋介)のアシスタントコーチの助けもあって、その環境をずっと作っていけた結果が地区優勝だと思います。それを達成できたのは本当に良かったと思います。

──昨シーズンは新型コロナウイルスの影響で試合を消化できず、戦わないまま0.5ゲーム差で地区優勝を逃す悔しい思いをしました。今回の結果でリベンジできた思いはありますか?

新しいシーズンだしカンファレンスも変わっているので、リベンジとはあまり思いません。悔しい思いをしたのは間違いないのですが、コロナだったので仕方ないという思いも一つありました。実際、世の中って理不尽なものじゃないですか。今シーズンはそんな状況がまた起きてもブレックスが優勝する、あの悔しい思いをしないように、という思いはありました。

──シーズンを戦う中で、勝ち負けと同じぐらい気にしなければいけないのが感染予防です。ストレスは大きかったのではないですか。

僕自身はあまり気にしていません。それでも感染しないことは重要で、外出の制限みたいなことは他のチームもやっていると思うんですけど、そこに少しストレスはありました。感染対策はしっかりやって、そこから先はあまり深く考えない。もし選手が感染してしまって試合がなくなったら、そっちの方がよほどストレスだと思うので、ウチに関してはそれがなかったのは良かったです。このチャンピオンシップは感染したら負けになってしまうので、今は選手たちの制限も少し強くなっていますが、そこで不安になったりすることはないですね。

地区優勝を達成するために1試合1試合に勝っていかなきゃならない。勝敗は相手もあるし、その日の調子もあるので『絶対』は難しいんですけど、意識としてはウチらしいゲームをすることに集中していました。あとは自分たちだけのことじゃなく、ウチみたいなチームはスポンサーさんがあって、ファンの皆さんがあって成り立っています。こういう状況でも応援してくれる人、支えてくれる人がたくさんいる、それに対して自分たちが返していかなきゃいけないという思いが強いチームですから、1試合1試合を勝つことで喜んでもらう、そこに自分たちが達成感を持つ、というのが今シーズンで一番重要だったところだと思います。

安齋竜三

「積み重ねがずっと続いてるところが、他のチームとの違い」

──5月2日がレギュラーシーズン最後の試合で、金曜のチャンピオンシップまでの約2週間をどう過ごしていますか。

2日休んで身体をリフレッシュして、そこから3日間練習する、というのを繰り返しています。シーズン中もそんな感じだったので、その流れを続けているのと、タイムシェアが比較的できていて、そこまで疲れている状況でもないだろうし。5日間ぐらい休みを取ることもできましたが、結局コロナでどこにも行けないし、何もやらずにストレスを溜めるより少しずつ調整していこうと。

対戦相手が決まったのが昨日(5月10日)で、そこは少し難しかったんですけど、ここでどこと当たるのか分からない状況になって、僕は相手チームと自分たちの映像を見る仕事をちょっと休んで、最近見る時間のなかったユーロとかNBAを見ていました。

──どちらにしてもバスケの試合は見ているんですね(笑)。

何もしない日も作りましたけど、逆に不安になりますね。「何か良い発見はないかな」ぐらいの気持ちでユーロを見ている方がいいです(笑)。

──チャンピオンシップに向けて選手は楽しみな気持ちが多いと思いますが、ヘッドコーチは勝敗の責任もより大きく感じると思います。今の心境はいかがですか。

基本的には楽しみが多いですね。重圧はレギュラーシーズンの方が大きいです。まずはチャンピオンシップに出なきゃいけない。東地区でこれだけチームがあって、開幕時点でどうなるか分からないところから決めるまでがプレッシャーです。チームを良くしていかなければならない責任感はすごくあったんですけど、チャンピオンシップに入ってしまえば勝負は本当に分からないものだと思っているので。ここに至る過程や今の準備期間、ウチらしい試合をしっかりすることを楽しみたいです。勝ちたい思いは実際強いですけど、その部分ができていれば、とも思っています。だからそこまで大きなプレッシャーを僕自身は抱えていません。そこは佐々と町田のサポートもあるので、ヘッドコーチの僕が一番抱えるのは当たり前ですけど、一人で抱え込まなくて済んでいます。

──ブレックスのバスケットはディフェンスとリバウンド。Bリーグ1年目の2016-17シーズンにそのスタイルで優勝した影響は大きく、「ディフェンスとリバウンドを頑張ります」と口先で言うだけじゃなくチームのスタイルとしてしっかりモノにするチームが増えたと感じます。それでも安齋ヘッドコーチも選手も「ブレックスが一番だ」という自信はあると思います。

一番でいたい、という願望はずっとありますね。一番だという自信があるかどうかはまた別として、常にそこを意識してやってきたという自負はあります。なぜそこに至ったかと言えば簡単な話で、それで優勝できなかったからです。NBL時代に優勝できなくて、自分たちに何が足りないのかを散々考えました。僕は当時は佐々と一緒にアシスタントコーチをやっていたんですけど、優勝するのに何が必要かと考える前に、優勝したチームにあってウチにないものは何だろうかと。ドナルド・ベックのアルバルクがものすごいフルコートプレスで優勝したことがありました。三河に負けた時は橋本竜馬がいて、ガードにプレッシャーをすごく掛けられてウチがあたふたしてしまった。その部分がウチには足りないな、と考えました。それでまずディフェンスを、どこのチームよりも激しくやろうと決めたんです。

リバウンドやルーズボールは選手の素質もあると思うんですよ。特にリバウンドに強い選手がウチにいるというのもあります。でもウチは今シーズンにジョシュが入るまで、それほど大きくないチームでしたから、サイズの差をどうカバーするかと言えば全員でやるしかない。ガード陣の助けとか集中力は絶対に必要で、これだけ長いシーズンだとできていない試合も出てくるのですが、その映像を見せて「なんでボケっとしてるの?」と本人たちに意識させていく。その結果として競ったゲームの大事なリバウンド1本を取れる、そして勝てるという結果が出ます。

そういった積み重ねがずっと続いてるところが、他のチームとの違いなんじゃないかと思います。実際、そこで負けたら試合には勝てないと思っているので。だからこそ最低限ここはやらなければいけない部分は譲らないし、そこに自分たちの思いがあります。選手には何回も何回も映像を見せたし、選手たちも「勝つためにはこれが必要だ」としっかり認識してくれていると思います。

安齋竜三

SR渋谷戦のポイントは「ターンオーバーを少なく抑えること」

──対戦相手が分からない時期がありましたが、ようやく決まりました。サンロッカーズ渋谷をどう見ていますか?

ずっとフルコートで当たって来るディフェンスの激しさはやっぱりすごいです。それができる選手も揃っていますし、外のシューターもしっかりいます。ディフェンスからトランジションをメインにしている部分はウチと似ていますよね。あとのオフェンスはインサイドに入れるのか(ライアン)ケリーが中心で、そこをしっかり使い分けてきます。ウチはSR渋谷との試合だとターンオーバーが多いんですよ。今シーズンの4試合は結構前なんですけど、1月の連戦では2試合とも競って1勝1敗、お互いにライアンが、つまりウチのロシターと相手のケリーが欠場していたので、選手が揃った状態で戦うのは去年の10月以来なんですね。試合がどう進んでいくか、自分たちがどうプレーすれば相手に流れを渡さないかはもちろん考えているんですけど、SR渋谷はディフェンスでプレッシャーをかけることで自分たちの流れにしようとすると思います。相手の流れになったら難しい試合になります。

レギュラーシーズンはウチが上でしたが、この対戦で有利だとは全然思っていません。まずは一つひとつのプレーをしっかり遂行するところから、今日からSR渋谷に対しての練習を始めています。その意識を高く持ってやっていくしかないと思っています。

──SR渋谷の流れ、ブレックスの流れ。試合を見ているファンが「これはブレックスの流れだ」と分かるポイントはありますか。

それは戦術の話になっちゃうのであまり(笑)。ですが一つ言えるのはターンオーバーを少なく抑えること。そこはSR渋谷と対戦する上で一番重要だと思います。ウチはディフェンスのチームですけど、ターンオーバーが少なければ点数もそれなりに伸びていくはずです。そうなればウチの流れだと思います。ですが正直、点の取り合いはやりたくないですね。

──チャンピオンシップなので、普段はブレックスのゲームを見ないバスケファン、あるいはバスケの試合をほとんど見ない人も試合を見る機会があると思います。そんな人たちにブレックスのバスケの見どころをあらためて教えてください。

ディフェンスをどうやっているかは分かりづらいと思うので、オフェンスの部分を見て楽しんでもらいたいです。守備を頑張った後に攻撃に切り替えるトランジションの出し方。そしてボールムーブメントですね。ウチは誰か特定の選手に偏って点を取るチームではありません。ボールを全員で回して、きれいな形でチャンスを作って点数を取ります。それができていればウチのゲームになると思うし、どんな人にも見て楽しんでもらえると思います。

──それでは最後に、優勝へ懸ける思いを聞かせてください。

チャンピオンシップのホーム開催権を得ることができました。最終目標は優勝なんですけど、そこにたどり着くには一つずつ勝っていくしかないので、クォーターファイナルのSR渋谷戦、その1試合目でまずどれくらい良い入りができるか、自分たちのゲームができるかをすごく重要視しています。まずそのために今週しっかり練習で準備して、試合になったら自分たちのプレーを思いっきりやるだけの状況にまず持っていきたいと思っています。ホームなので日頃から応援してくれる皆さんと一緒に戦える心強さもありますし、そういう人たちに恩返しするためにも、自分たちのゲームをやって1試合1試合勝ちきって、最後は優勝までたどり着けるように頑張っていきます。