新型コロナウイルスの感染拡大によりどのチームも十分な準備ができないまま迎えたウインターカップで、福岡大学附属大濠は2回戦で注目の関西大学北陽を下したものの、3回戦で東山に敗れた。感染症により部活動がままならない状況は今も変わらないが、新チームは新年度を迎えて活動を本格化させている。Jr.ウインターカップで大会ベスト5に選ばれた川島悠翔は4月に入学したばかりの新戦力。彼もまたチームに加わったばかりだが日々の練習に精力的に取り組んでいる。また楽しみになった大濠トロージャンズについて、若き指揮官の片峯聡太コーチに聞いた。
「大濠としてのあるべき姿、あるべき強さを挽回したい」
──去年は新型コロナウイルスに振り回される大変な1年でしたが、今年も同じような状況になっています。部活動もいろんな制限があると思いますが、今年のチームはどんなテーマを立てて、何を目標に日々の練習をやっていますか?
去年は新チーム結成から『自立』をテーマに、チームの活動が数カ月できない時期も、自分自身を見つめつつその中でできることをする、向上することができなくても維持することを意識して乗り切りました。それでも公式戦の経験が非常に少なかったことが、最後のウインターカップで一つ乗り切ることができない原因になってしまいました。
今年の新チームは何としてでも全国トップにまた駆け上がれるようにと頑張っています。キャプテンの大澤祥貴、ゲームキャプテンの岩下准平を始め、小学校や中学校から勝つことへのこだわりを持った、非常にしっかりした上級生が3年生には揃っています。2年は去年から試合に出ている湧川颯斗を筆頭にサイズがあったり、ポテンシャルのある選手が多いですが、勝負へのこだわりの強さがまだ課題です。
3年生が持つ勝つことへの執着心を、下級生のサイズ感やポテンシャルとしっかりミックスできれば、非常に面白いチームになると期待しています。1年生も戦力と考えたいところですが、今の時点ではまだ新入生で、まず学校に慣れるところからですし、そこを3年生が上手くサポートできるかどうかがチームが良い方向に向かっていく鍵になると思います。
今年のテーマは『REDEEM』です。去年のウインターカップは東山に大差で負けてベスト16という悔しい結果に終わりました。だからこそ努力をして、大濠としてのあるべき姿、あるべき強さを挽回するんだという意味で『REDEEM』を掲げました。これまでは相手の留学生に対してどうかわすか、キックアウトして3ポイントシュートという発想でしたが、今年はサイズのある選手がいるので、逆に留学生にどこまで向かっていけるか。サイズのある選手たちのトランジションにこだわったチームを作りたいと考えています。
「得意なプレーができない状況で何ができるかが大事」
──今年1年を通じて、時間の使い方を教えながら選手たちをどのように成長させたいと考えていますか?
預かっている選手たちを超一流にしたいです。ちょっと抽象的な言い方ですが、彼らはいろんなプレーができて、チームとしてやりたいスタイルはありますが、今の時代は映像がいろんなところに出回り、選手の得意なこと不得意なことも相手に知られています。その状況でさらに上を行くことができる選手を、私は超一流だと思っています。得意なプレーをとことん追求して精度を高くやれるのは一流ですが、できない状況で何ができるかが大事だと選手たちにいつも話しています。
だからスタートの選手には、得意なことはあえてやらせていません。3ポイントシュートが得意な選手、ドライブが得意な選手が試合でそれを止められた時に、じゃあ次に何ができるか。その課題をイメージして練習に取り組めば、いざその状況になった時に準備万端と言えます。それはバスケに限らず日頃の勉強でも同じです。そこで最大限の準備をできるように、チーム全員でやっていこうと話しています。
──大濠に入る選手は日本一を目指していて、全員が高い意識を持っていると思います。さらに今ではみんな明確に「バスケで食っていく」つもりだと思いますが、そんな選手たちを間違った方向へ行かせないために意識していることはありますか?
彼らにいつも言うのは、大濠トロージャンズだから大学に進学できるとか、プロに近いという発想をするな、ということです。バスケにしても学業にしても、どこに行っても認められる、必要とされる、通用する力を自分自身で身に着けなければいけないと常日頃から話しています。ここでの3年間でその力を身に着けて、次のステージに行ってほしい。そのためには、チームに甘えるな、学校に甘えるな、我々スタッフに甘えるな、ということです。
──とはいえ、24時間365日ずっと努力し続けるのは大変ですよね。大濠の選手たちも、上手く刺激してあげることで頑張るモチベーションが維持できると思います。彼らを上手く『乗せる』ような秘訣はありますか?
それこそバスケ界では、八村塁選手と渡邊雄太選手がNBAで活躍しています。八村選手がドラフトで指名されたのは画期的なことだし、今回は渡邊雄太選手が本契約しました。これは同じ日本人として本当にうれしいことです。選手たちにも話すのですが、渡邊選手はずっと頑張っていましたよね。向こうに行って、自分がどのような状況にいても、ワンゲームごとにコートに立てばベストを尽くしていたと思うんです。すべての選手が成功するわけではありませんが、すべてのチャンスでベストの力を発揮しようと頑張ることは誰にでもできると思うんですよ。ただ渡邊選手がすごいのは、それをやり続けたことです。求め続けて、それが自分を高めることに繋がって、その結果として大きなご褒美が来た。私はそれがすごくうれしいです。
今はウチでも「海外でプレーしたい」とはっきり言う選手が増えてきました。海外でプレーするならその先の道も彼らの中にはあるでしょうから、八村選手や渡邊選手が可能性を示してくれることは、間違いなくモチベーションになっていると思います。
「私も非常に面白いチームになると思っています」
──ゴールデンウィーク明けの週末にはインターハイの地区予選があり、福岡第一との対戦もありましたが、48-59で敗れました。
試合経験の少なさが出ました。これはコーチの言い訳かもしれませんが、ゲームのここを決めたい、ここを耐えたいというポイントで、練習でイメージしているものと実際のプレーに違いが出てしまう。ファイトのメンタルは出ていましたし、相手の対策はちゃんとできていました。ですが福岡第一との対戦ということで、相手への意識が強くなりすぎました。
相手のことばかり考えすぎて、試合の中で「あれ、ここはどうするんだっけ」と迷ってしまう、まずそれをなくさないといけません。相手も当然こちらのやりたいことを抑えに来ますが、そこで自分たちに磨きを掛けて、超一流になって乗り越えないと。あのスピードと高さの中で点数を簡単に取れるスキルを身に着けるのは簡単ではありませんが、今のままでは全国に行ってもベスト8かベスト4で60点しか取れない。僕たちには全国優勝という目標があるので、どうやって80点取れるチームに持っていくのか。
それでも今回のゲームで「もうちょっと自分たちに向き合って時間を費やせばいいんだ」という気付きは得られました。福岡第一とは3週間後の県予選でまた対戦します。去年のウインターカップでベスト16止まりとなり、「そんな場合じゃない」という言葉からスタートしたチームですから、今回負けても「落ち込んでいる場合じゃない」ですね。
──今年はJr.ウインターカップで活躍した川島選手が入学しました。1年生ですが即戦力として評価していますか?
素材は間違いなく一級品です。入学してきたばかりであれだけのプレーができる選手はそうそういないので、私も楽しみです。サイズがあることで注目されますが、学ぶ姿勢が良いですね。正直に言えば、彼は3年間ここにいないかもしれません。海外志向が強いことは我々も理解していますし、そのチャンスがあるのであれば行かせてあげたい。ですがまだ15歳ですから、足りないところもあります。それを大濠で伸ばして、良い準備をさせてあげられたらと考えています。
福岡第一との試合でも25分以上プレーして、消極的にならずにゴールへのアタック、リバウンドへ絡んでいくことができました。そこで彼がチームのプレーをちゃんと覚えれば、もっとスペースが得られて、彼が本来持っているドライブやフィニッシュの正確性が出せるはずです。彼はそこで言い訳をせず、今の練習でも自分自身に矢印を向けて取り組んでいるので、その姿勢はすごくは良いです。
──今年の大濠はどんなチームになりますか?
今年は3年生中心のチームになると思いますけれど、その中で3年生が勝ちにこだわる、やり続ける姿を見せてほしいと思います。その中で将来性のある下級生たちが、どれだけ刺激を受けて融合していけるか。私も非常に面白いチームになると思っていますので、是非そのあたりにも注目していただいて、トロージャンズの選手たちを応援していただきたいと思います。