シーズン終盤の今も、戦意を失っているチームはほとんど見られない
NBAから『タンク』が消えつつある。戦力均衡のためにドラフト制度を採用し、前年の成績下位のチームから上位指名権が得られるNBAのルールでは、シーズン終盤にプレーオフ進出をあきらめたチームが故意に負けるタンク(タンキング)が横行していた。コートに立っている選手、彼らを束ねるコーチは自分の生活のため、良い契約を得るため、そしてプロフェッショナルとしての姿勢を見せるため必死でプレーしているにせよ、球団が「勝って順位を上げられては困る」と不埒な考えを巡らせる状況は健全ではない。
負けることがドラフト上位指名権の獲得に直接繋がらないように、ロッタリー制度が導入されているが、状況は芳しくなかった。それでも2019年から、抽選確率をフラットにする変更が行われ、1位指名権を獲得する確率は下位3チームまで14%と同じになった。それまで1位指名権を獲得する確率は最下位チームが25.0%で、下から2番目で19.9%、3番目で15.6%だったので、これは大きな変更だ。新制度では下から4番目で12.5%、5番目で10.5%と次第に確率が落ちて、下から14番目のチームのチームが最後の0.5%を持つ。
これに加えて、プレーイン・トーナメントが今シーズンから本格的に導入され、プレーオフ進出8チームのうち7番目、8番目を、7位から10位までのチームが争うことになった。プレーオフ進出の可能性がある限り、そのチャンスを棒に振ることはできない。球団が主力選手のプレータイムを制限して、わざと負けるような態度を取れば、選手たちが反発するのは間違いない。かくして今シーズン、どのチームも約10試合を残した時点でも戦意を失っているチームはほとんど見られない。
すでにプレーイン進出の望みを失ったチームも、まだまだ戦い続けている。これまでであれば下位のチームはロッタリーの当選確率を上げるべく『一つも勝ってはならない』という状況が存在した。しかし今、ファンを裏切って順位を1つか2つ落としたところで、ロッタリーの確率はほとんど変わらない。それでも「負けろ」となれば、こちらも選手やスタッフの反発は免れない。
今の順位表を見ると、東カンファレンスでは11位のブルズと12位のラプターズにはプレーイン行きのチャンスが残されている。10位のウィザーズは何とかこの位置をキープしなければならないし、9位のペイサーズはできれば1ゲーム差のホーネッツを逆転して8位に上がりたい。西カンファレンスも、12位のキングスが4月の大失速で脱落寸前の状況にあるが、11位のペリカンズはまだまだあきらめていない。10位のウォリアーズは今の勢いならまだ順位を上げられるはずで、最後まで激しく戦い続けるだろう。
もちろん、例年通りに4位以内に入ってのプレーオフ1回戦のホームアドバンテージを得る戦いも続いている。ただ、こちらは多くのチームがコンディションを優先する形でバランスを取りながらの戦いを続けている。
さらに言えば、直近のドラフトの結果も各チームの意思決定に影響を及ぼしているはずだ。2019年のドラフトでペリカンズは、下から7番目の成績だったにもかかわらず1位指名権を引き当て、ザイオン・ウイリアムソンを指名した。この時の成績下位3チームはニックス、キャバリアーズ、サンズで、お目当てのザイオンを取り逃がしたことになる。2020年の抽選では下から3番目のウルブズが1位指名権を、下から9番目のホーネッツが2位指名権を引き当てている。つまり、わざと負けて成績を下げても報われなかったのだ。
最後まで気の抜けない戦いが続くことで選手の負担は大きなものになっているが、それでも勝利を目標としないチームの戦いを見せられるのは、ファンからすれば興ざめだ。マーベリックスのオーナー、マーク・キューバンは「ストレスが倍になる」とこのプレーイン・トーナメント制度の導入を厳しく批判しているが、タンクが横行する状況をようやく、そして大きく改善できたリーグが、その意見に耳を貸すことはないだろう。