ベン・シモンズとジョエル・エンビード

写真=Getty Images

『チームの顔』の2人、互いの課題を補った前半戦

長く低迷していたセブンティシクサーズは、毎年のようにドラフト上位で若手有望株を指名してきました。指名された選手たちは当たり外れが大きかったり、ポジションが被って活躍の機会を失ったりと、チームの選択は必ずしも正しいとは言い難かった一方で、ベン・シモンズとジョエル・エンビードという『大当たり』を獲得しました。昨シーズン開始時点で2人合わせても26試合の経験しかなかったコンビは、直近3年間を合計しても56勝だったチームにたった1シーズンで52もの勝利をもたらしました。あっという間にスーパースターの仲間入りを果たした2人を中心としたシクサーズは、新シーズンの東カンファレンス優勝候補に挙げられています。

シモンズの登場は衝撃的でした。3ポイントシュートを全く打たず、鮮やかなパスワークと躍動感あるドライブでチームのオフェンスを組み立てる208cmのポイントガードという異質な存在は、オールラウンドな能力を発揮します。まだ対応策が練られていなかったシーズン当初にはディフェンスのマークが緩いと感じたのか得点面で活躍し、自分へのマークが次第に強まるとパスを増やしていきました。特定のプレーにこだわることなく柔軟に変化する、ベテランのような状況判断ができるルーキーでした。

そのプレーはチームのエースであるエンビードとの相性の良さも感じさせてくれました。強力なポストムーブを持ち高いフィニッシュ力のあるエンビードですが、時に同じパターンを繰り返してしまうなど試合を通じての安定性に課題がありました。しかし、シモンズがディフェンスを切り崩してパスを通してくれるため、合わせのインサイドプレーからキックアウトパスからのアウトサイドシュートとエンビードに多くのアシストをしてくれました。その期待に応えるかのようにシーズン通して30.8%しか決まらなかった3ポイントシュートも、シモンズからのパスでは40.5%と高確率で決めたエンビードです。

プレーメイク力が高いもののフィニッシュに課題があるシモンズと、フィニッシュ力が高いもののプレーメイクに課題があるエンビードのコンビはお互いの不足部分を補い合い、シクサーズに明るい未来を照らしてくれました。

チームの成長がもたらした違和感、プレーオフの破綻

しかし、シーズン後半になると2人のコンビは機能性を欠き始めました。それは皮肉にもシクサーズが強くなったことで巻き起こった機能不全でもありました。1月まで24勝24敗と5割の成績を残したシクサーズは、そこから28勝6敗と一気に勝率を上げます。その要因となったのは周囲がシモンズのパスゲームに慣れ連携が高まったことで、チーム全体のアシスト数が増え、ターンオーバーが減り、高いオフェンス力を発揮したためです。そして自らリバウンドを取って速攻に持って行くシモンズに引っ張られるようにチームメートもランニングゲームへの意識が強くなり、速攻の得点が4点近く上昇しました。

さらにアーサン・イリヤソバとマルコ・ベリネッリが加入して3ポイントシュートを武器とする選手が増えたことで、ランニングゲームに積極的なアウトサイドシュートが組み合わさり、シクサーズの試合のペースは急激に早くなりました。個人としてもトリプル・ダブルを量産するようになるなど、シモンズが持つ能力が最大限に発揮されるようなチームになっていきました。

ところが、これらの変化はエンビードの短所を際立たせることにもなりました。エンビードのターンオーバー3.7はリーグで6番目に多く、またボールを持ってからプレーを判断することが多いのでパスの流れを止めてしまいます。

加えてケガの多かったエンビードには、シモンズのランニングゲームは体力的に苦しく、試合のペースを落とすことに。皮肉にもエンビードがケガで離脱するとシクサーズのランニングゲームは勢いを増し、シーズン終盤に16連勝を記録するなどチームとしての自信を深めていったのですが、プレーオフになってエンビードが復帰すると早い展開の中で27ターンオーバーを犯すなどオフェンスのリズムを乱す要因となりました。

さらに悪かったのはプレーオフのセルティックス戦でのシモンズは、堅いディフェンスにペースダウンを促され、周囲への厳しいマークによりパスを封じられると、ターンオーバーが増えてしまい、チームオフェンスを停滞させてしまいました。エンビードとシモンズ双方の悪い部分が順番に出てきてしまったプレーオフとなってしまったのです。

シューターよりも攻守のバランスを優先した編成に

シーズン前半に相性が良く補い合っていたシモンズとエンビードは、チームへの影響力が高まってくるにつれて、生かし方に大きな差が生まれてしまいました。シモンズが得意とするランニングゲームではエンビードのミスとスタミナが問題となり、ペースダウンしてエンビードのポストアタック中心にすると、テンポが悪くなったシモンズがミスを連発してしったのです。

しかし、これらはシーズン前に勝率5割が目標としていたチームが、より高い優勝という目標を前にしたことで発生した問題であり、チームが成長したからこそ露呈した新たな超えるべきハードルでもあります。

オフのシクサーズはイリヤソバやベリネリと再契約せず、ディフェンダーのウィルソン・チャンドラーを加えました。シューターよりも攻守のバランスを優先したのです。そこに昨年のドラフト1位マーケル・フルツを始めとした若手たちの成長でチーム力の底上げを狙います。

あっという間に東カンファレンスの優勝候補になったシクサーズですが、慌てることなく数年後までを見据えた補強を行い、シモンズとエンビードの2人がリーグのベストコンビとして輝くチームシステムを模索する新シーズンになりそうです。