Wリーグでは大活躍も『国際大会仕様』のバスケへの切り替えが必要
2019年6月に日本代表デビューを果たした谷村里佳は、得点力がありリバウンドもアシストもできるオールラウンダー。シャンソン化粧品に所属していた当時は自分の役割を『ストレッチ4』と明確にとらえ、ディフェンスでの素早いカバーリングに的確なスクリーンで味方のチャンスを作り出し、そして自分にチャンスが来れば迷わずシュートを打つことで、代表定着に良いアピールができていた。
ところが今回、東京オリンピックを見据えた代表合宿で谷村は迷いの中にいる。日立ハイテクに移籍した今シーズンは心機一転、内海知秀の下でインサイドの要として大活躍。1試合平均20.0得点、10.6リバウンドといずれも渡嘉敷来夢に次ぐリーグ2位の数字だ。日本代表のエースである渡嘉敷は合宿には参加しているものの膝のケガでオリンピックに出場できるかどうか分からない。谷村への期待は高まるばかりだが、インサイドで勝負する日立のスタイルと、3ポイントシュートを軸にする日本代表のスタイルが噛み合わない。
「代表に呼ばれた意味、どういうプレーを必要とされているのかは分かってはいますが、それをまだコートで表現できていない。今はトライアウトなのでアピールしなきゃいけないけど、自分の中で迷ってしまっている部分があります」と谷村は言う。
「私はWリーグだと得点を取るのがメインですけど、ここではオフェンスに関してはそうではないので、3ポイントシュートのチャンスがあった時にしっかり高確率で決めるのが大事だと思います。ディフェンス面ではリバウンドとディフェンスの相手のビッグマンを守ることが求められているので、リーグ戦だと相手もそこまで身長も高くないから取れることが多いんですけど、世界と戦うとそう簡単にはいかないのも分かっています。じゃあそのために何をするのかが、まだしっかりとできていない。普段から練習しているドリルとかを一つひとつ意識して、身に着けていく必要があると思っています」
「自分でも手応えを感じ取れている部分が今は本当に少ない」
外国人選手のいないWリーグでは、185cmの高さと強さで谷村を上回る選手は渡嘉敷しかいない。だが国際試合となれば190cm台で、しかも動ける選手とのマッチアップを強いられる。今シーズンのWリーグで谷村は間違いなく大きなステップアップを果たしたが、その内容が代表でのプレーに直接反映できないのが今の悩みに繋がっている。
谷村は「チームを引っ張りたいというよりチームに貢献したいという気持ちでやっています」と言う。その言葉は、今の偽らざる本音なのだろう。国際試合で自分のプレーをどう変えていくかは、ポジションを問わずどの選手にも求められるところだが、インサイドでは特に難しい課題となる。国際経験豊富な髙田真希や渡嘉敷はそれを常にイメージできるとしても、谷村にとっては乗り越えなければならない高い壁だ。
その迷いは指揮官のトム・ホーバスも理解している。「この合宿のビッグマンは髙田、長岡(萌映子)、谷村、オコエ(桃仁花)。(馬瓜)エブリンも少し4番をやっています。競争なので誰かステップアップしてほしい。谷村はリーグではリバウンドが2位で11近く取っていますが、合宿中にあまりリバウンドをしない。日立にいる時はローポストとか、バスケがちょっと変わっていて、代表では迷っている感じがします。アジャストには時間がかかるから今は我慢します。早く彼女の自信があるバスケットが見たい」
谷村が国内のバスケと国際大会向けのバスケの切り替えに苦労するのは無理もないところ。ただ、インサイドの駒不足は日本代表にとって大きな課題で、渡嘉敷がオリンピックに間に合うかどうかを別にしても、谷村に使える目処が立てば非常に大きい。谷村自身もそのことは理解しており、こう語っている。「自分でも手応えを感じ取れている部分が今は本当に少ないんですけど、やっぱりオフェンスだったら空いたら3ポイントを打つことと、ディフェンスでビッグマンを守ることとリバウンドは自分の仕事なので、そこをこれから頑張っていきたい」
バスケのスタイルは異なれど、自信を持ってプレーすることが必要なことに変わりはない。そのために谷村は今の迷いと向き合い、乗り越えようとしている。ここは今夏の日本代表にとって、一つの大きなポイントとなりそうだ。