デトロイトの体育館で「君の前にここを使ったのはコービーだ」
ニックスはネッツと対戦し、最後まで粘り強い戦いを見せたものの112-114で敗れた。今のNBAで最高のタレント集団であり、東カンファレンス首位を走るネッツを相手に大健闘を見せたのだが、ラスト1秒で決まれば同点のプルアップジャンパーを決められなかったジュリアス・ランドルは「正直、この負け方には落ち込んでいる」と悔しさを隠さなかった。
同じニューヨークを本拠地とするライバルにシーズン3戦全敗となったこと、先の対戦でも終盤のビッグショットの場面で打ちきれなかったことがランドルの頭にはあった。「手から離れる時の感覚は良かったんだけど、決まらなかった」とラストショットを振り返る。指揮官のトム・シボドーは「状況次第で3つのプレーを準備していたが、ランドルが中心だった。最後のシュートも良い感じで打てたんだが」と、ランドルに託したことを後悔はしていない。
ランドル自身は絶好調で、後半が始まって早々にトリプル・ダブルを達成。彼にとってはキャリア10回目のトリプル・ダブルであり、この1カ月で3度目。キャリア7年目の今シーズンは、彼にとって大きな飛躍の年になっている。それでも「こんな悔しい負けで、トリプル・ダブルに何か意味があるとは思わない」とランドルは言う。「勝つか負けるか、違いはそこにしかない」
終盤は明らかに膝を痛そうにしていたが、状態を聞かれると「大丈夫、何の問題もない」とだけ答えた。そんなはずはなく、余力十分で『ビッグ3』はコンディションが万全の時しかプレーしないネッツと比べると対照的だが、ランドルはとにかく負けた時に何か言い訳をしようとはしない。
今回の対戦を前に、ニューヨーク対決で盛り上がるメディアに対してランドルは「ネッツが『ビッグ3』ならウチは『ビッグ15』だから、何も恐れることはない」と発言している。カイリー・アービングとケビン・デュラント、ジェームズ・ハーデンを擁するネッツに対し、全員の力で立ち向かって乗り越える、という意味の発言だろう。だが実際はデュラントは練習には復帰しているものの欠場を続け、ハーデンはわずか4分で交代。カイリーだけの『ビッグ1』に勝てなかった。
しかし『ビッグ15』というランドルの表現が、ニックスが長い低迷から抜け出し、また彼自身もキャリア最高のパフォーマンスを生み出す力となっているのは間違いない。プレースタイルこそ違えど、勝敗にこだわり、そのプロセスを突き詰める姿はコービー・ブライアントを彷彿とさせるものだ。それは彼自身が誰よりも意識していることでもある。
『The Players’ Tribune』に寄せた手記で、ランドルはケガでほとんどプレーできなかったルーキーシーズンに続く2年目がコービーのラストシーズンであったこと、レイカーズでともに過ごした貴重な時間が、自身に大きな影響を与えたことを綴っている。ランドルの故郷であるダラスへの遠征でオフがあった日、彼は友達と遊び、家族と一緒に過ごすつもりだったが、ホテルに到着するなりコービーに「練習に行くぞ」と声を掛けられた。ルーキーだった彼に断る選択肢はない。当然、コービーはランドルの地元であることを知っていて、ワークアウトへと連れていった。
遠征先に到着したらすぐに体育館へ行くことは、コービーが引退した後もランドルの習慣になった。デトロイトの古い体育館を借りた時、そこの責任者から「最近はNBA選手がここで夜中にトレーニングすることも少なくなった。君の前にここを使ったのはコービーだ」と言われたそうだ。それはコービーの事故死から1カ月後の出来事で、コービーの名を聞いてランドルは全身に震えが走ったという。
そして今シーズン、ランドルが遠征先で体育館を手配すると、若手たちがついてくる。イマニュエル・クイックリーにオビ・トッピン、RJ・バレットは、5年前のランドルだ。それに刺激を受けるランドルは、コービーのように若手の良いお手本であり、チームを勝利に導くエースでなければならないと感じている。
ニックスは往年のレイカーズではないし、ランドルはコービーではない。だが、ランドルは言い訳をせずに自らの責任に向き合う。プレーオフ進出を目指すシーズン終盤の戦いを「エキサイティングだよ」と彼は言う。「大きな意味があるもののために日々戦うんだ。僕自身にもチャンスだと思うし、勝つことでモノにしたい」