様々な形で出てくる問題を可視化し、環境改善に繋げる
日本バスケットボール協会は『暴言暴力の根絶』を目指しており、2018年度にはインテグリティ委員会を立ち上げた。この時、三屋裕子会長はインテグリティを「誠実さ」、「真摯さ」、「高潔さ」であると定義した上で、「指導者から怒られたくない、殴られたくないから頑張るのでは本末転倒です。そういう選手がスポーツの素晴らしさを伝えられるか」と変革への意気込みを語っている。
2019年度から選手に対する暴力的行為および暴言がテクニカルファウルとなることがあらためて周知徹底された。部活指導の現場ではその効果が見られる。それでも、U12カテゴリーに目を向ければいまだに問題は多い。「子供たちのために」を掲げつつ、コーチの「勝ちたい」という気持ちが先行して勝利至上主義に陥り、自己満足や支配欲から暴力や暴言が出てしまう。そんなコーチに対して小学生では抗議もできず、保護者の間にもそれを容認する雰囲気ができてしまいがちだ。
JBAは今回、U12カテゴリーの保護者を対象に、日常の練習環境における暴言暴力の根絶に向けたアンケートを実施している。これを主導するU12フェアプレー推進グループの村上佳司は、「やはりU12カテゴリーの問題がかなり多い。指導者と保護者の関係はいろいろあると思いますが、オープンにできないところは根強く残っていると思います。バスケットボールをする子供たちの環境を整えるために、今の環境を可視化しなければならない」と、その意図を語る。
暴力や暴言が減っている一方で、指導者が選手を無視したり嫌味を言うハラスメントが増えているように感じる、との意見もある。問題は様々な形で出てくるが、それをできる限り可視化しようとする試みがこのアンケートだ。
他競技の話になるが、同じようなアンケートを実施しようとした際に、協会内で反対意見が出て実施できなかったケースがあるという。指導者の悪い部分を指摘するアンケートだけに、今回はU12部会からチーム代表者を通じて保護者にアンケートの参加を呼び掛けるのではなく、JBAが保護者の声を直接集める形を取った。
U12にまだまだ問題が多いという認識はあるが、指導者改革をこの先さらに強力に進めていくには、問題を正確に把握し、改革が必要であるとする根拠が必要だ。それがこのアンケートになる。
FIBAが開催するU12の大会では、この年代は勝利を目的とするチャンピオンシップではなく、バスケットボールファミリーを増やすことが目的とされる。成長過程にある選手が楽しむことが最優先であり、そこで暴言や暴力は考えられないこと。日本のバスケットボールの現状を見ると、まだまだ差があると言わざるを得ない。U12年代の環境をより整備し、バスケットボール人口を増やすことは、その先の強化にも絶対に繋がっていく。
JBAではこのアンケートの結果をホームページ上で報告し、それをもとに指導者改革を進めていく。また今年度中には暴言や暴力、ハラスメントの相談窓口も設置する予定だ。すべてはプレーヤーのために、環境を良くする活動は続いていく。