ディフェンスの激しさを取り戻し、自分たちの展開に持ち込む
3月3日、大阪エヴェッサはホームに信州ブレイブウォリアーズを迎えた。
2月を6勝2敗で乗り切り西地区4位につけているが、チャンピオンシップ進出を果たすには負けられない試合が続く。ただ、この試合でも前半は苦戦を強いられた。自らズレを作って攻撃をクリエイトするディージェイ・ニュービルへの対策は、このところどのチームも徹底してくる。信州は三ツ井利也と大崎裕太に交互で激しくマークさせ、ニュービルに自由を与えなかった。
高さとフィジカルで上回る大阪だが、ゴール下のリバウンド争いでジョシュ・ホーキンソンに勝てない。ホーキンソンはリバウンドを取るとそのままプッシュして攻めの良い形も作り出し、内と外でバランス良く攻める信州が先行する。第2クォーターに入ってセカンドユニットの伊藤達哉と橋本拓哉がチームの運動量を引き上げたことで大阪が立て直し、一度は逆転に持っていったものの、攻守にエナジーで上回った信州は崩れず、40-34とリードして前半を終えた。
それでも大阪は後半、精神的に立ち直る。前半はチームで4つしかなかったファウルが急増したが、これはディフェンスで激しさが出てきた証拠。前半は信州に簡単にボールを運ばれていたが、前からプレッシャーを掛けて攻めの形を作らせない。ディフェンスが引き締まれば、そこから得意の速攻も出てくる。ハーフコートからニュービルやジョシュ・ハレルソンがタフショットを何とかねじ込んでいた前半とは一転、速い攻めで相手に圧力を掛け、そこからの3ポイントシュートも決まるようになって主導権を握る。第4クォーター開始直後に抜け出すと、そのままリードを守って86-79で勝利した。試合終盤にケガをした橋本の状態は気掛かりだが、それを除けばポジティブな要素の多い逆転勝利となった。
この日は天日謙作ヘッドコーチが病気療養を終えてベンチに戻って来た試合。それまで指揮を託されていた竹野明倫アシスタントコーチは、天日ヘッドコーチの復帰でチームの雰囲気は変わったかと問われて「今週の練習から明らかに違っていました。それが天日さんの存在ですし、これから残りの試合を勝っていく上で必要なパート」と語っている。
天日コーチ「速くボールを展開してたくさん点を取るゲームをしたい」
天日ヘッドコーチは昨夏から体調不良が続き、悪性リンパ腫の診断を受けた。昨シーズンの途中終了以来となる指揮となったが、「緊張はなかったです」と復帰戦を振り返る。「試合中は試合に入っていたのであまり分かっていなかったんですが、試合が終わって『ああ、ここで仕事してたんだ』という感じでした。ここまで調子良くやっているから、ああだこうだとするつもりはなかったので、比較的リラックスしてやれました」
悪性腫瘍に対する化学療法を行い、免疫力が下がったところで感染症になり再入院したそうだ。「4人部屋だった時もあり、私より大変な人がいっぱいいました。乗り越えるにしても『自分なんかあまり大したことないな』と。あまりクヨクヨしないタイプなので、ラッキーだから空いている時間に何かしなきゃいけないと考えました」と、新たに語学の勉強を始めたことを明かしている。
「入院生活は考える時間が多いので、いろんなことを考えました。仕事って何だろうとか、ボール入れをやってていいのか、それによって社会に貢献できているんだろうかと、すごく考えました」と天日ヘッドコーチは続ける。
療養中は練習や試合を映像でチェックしていたが、そこもヘッドコーチ代行を務める竹野への信頼があった。「自分のチームなのに自分があまり関与しなくて、やっているのは竹野ですから。あまり岡目八目で見えるからと言っても、そんなに細かいところまで言ってはいかんかなあ、というアプローチをしていました」
竹野とルーベン・ボイキン両アシスタントコーチには、あらためてこう感謝の言葉を語っている。「竹野とルーベンはバスケットの好きな傾向も合っていて、彼らと一緒にやっていて良かったと試合前に話しました。本当に良いアシスタントコーチ2人で、僕がリモートでやっていたと言っても、実際にやっていたのは彼らなので、すごく良い仕事をしてくれました」
「病院の中では新しいことより原点に戻る、自分がやりたいことは本当は何だろうと考えていたので、基本に戻っていく、ベースに戻っていくような感じです。速くボールを展開してたくさん点を取るゲームをしたいです」。そう語る指揮官の復帰は、チームにとって大きなプラス要素になる。チャンピオンシップ進出に向けて、天日ヘッドコーチの復帰は何よりも朗報だ。