ニックス

サラリーキャップに余裕がある数少ないクラブの一つ

ニックスが再生へと動き始めた。大都市ニューヨークを本拠地とする名門でありながら、黄金期は50年も前の話。21世紀に入ってからの20シーズンでプレーオフ進出はわずか5回で、それも1回戦を勝ち上がったのは一度だけ。そんなチームにとって、プレーオフ進出を果たせば大きな成功となる。今シーズンここまで11勝14敗、東カンファレンスの8位。現在の東は本命不在の大混戦で、上を見れば2.5ゲーム差に4位のセルティックスがいる一方で、下に目を向ければ2.5ゲーム差は13位のマジック。浮いても沈んでもおかしくない状況で、このタイミングでの補強に踏み切った。

獲得したのは、かつてのMVPであるデリック・ローズ。2016-17シーズンにもローズはニックスでプレーしたが、この時はケガで持ち味を発揮できないまま、1年で退団している。それでも今のローズは、ティンバーウルブズとピストンズで慎重にプレーしてコンディションを取り戻してきた。ひざに爆弾を抱えているため酷使は禁物だが、コンディションを見ながら起用する分には他の選手にはできない決定的な仕事ができる。

RJ・バレット、ジュリアス・ランドルを始め有望な若手はいるもののチームとして波の激しいニックスに、ローズはポジティブな変化をもたらすと期待される。今シーズンは完全に構想外だったデニス・スミスJr.と2巡目指名権でのトレードだから条件も良かった。今シーズンから指揮を執るトム・シボドーが、ディフェンスレーティングでリーグ6位の堅守を武器に『まずまず』の結果を出しているからこそ、フロントは上を目指す意欲を補強という形で示した。

その動きはまだ続きそうだ。強豪にスター選手が集まる傾向が強まるNBAにおいて、ニックスはキャップスペースに余裕がある数少ないチームの一つ。フリーエージェント市場でビッグネーム獲得を狙ったものの、誰も来てくれなかった結果なのだが、おかげで今は動きやすい状況にある。

補強候補の一人がアンドレ・ドラモンドだ。キャバリアーズはジェームズ・ハーデンのトレードに絡むことでジャレッド・アレンとトーリアン・プリンスを獲得した。ケビン・ラブが復帰すればインサイドの駒は余る。ドラモンドの契約は今シーズン限り。新たな契約を勝ち取らなければならない彼にとっても、ニックスでのチャレンジは悪い話ではない。ドラモンドがゴール下の守備で軸になれば、ランドルはよりオールラウンドに貢献できる。

さらに一歩踏み込めば、再建へと舵を切るチームから主力選手を獲得するチャンスも出てくる。例えばペリカンズにはJJ・レディックやロンゾ・ボールを手放す可能性がある。昨シーズンの継続路線が上手く行っていないヒートは、バム・アデバヨの年俸が上がる来シーズンを前に余剰戦力を整理しなければならないだろう。開幕直前にジョン・ウォールが退団し、今シーズンも低迷するウィザーズもいよいよテコ入れが必要だろう。ナゲッツではマイケル・ポーターJr.が立場を危うくしている。将来のエース候補ではあるが、今のエースであるニコラ・ヨキッチとジャマール・マレーはまだ若い。控えに置いておくよりも、守れるロールプレーヤーに切り替える方が良いと判断するかもしれない。

いずれのケースにおいても、サラリーキャップに余裕があるニックスは動きやすい。長らく勝てない最大の要因はフロントの失政、中長期を見据えた補強のまずさに尽きるのだが、ローズ獲得を機に悪い流れを断ち切ることができるだろうか。