チェルシー・レーン

写真=Getty Images

選手の心身をケアする重要な仕事

オールスター・センターのデマーカス・カズンズ、ロールプレーヤーとして一流のジョナス・ジェレブコを獲得したウォリアーズは、このオフも順調にロスターのアップグレードに成功している。だが、ここ3年で2回の優勝を成し遂げられた要因とも言える重要な仕事を担っていたスタッフがチームを去ったことは、あまり知られていない。

先週、2015年の優勝後からチームスタッフに加わったセラピストのチェルシー・レーンが、東カンファレンスのホークスに移籍したと『The Athletic』が報じた。レーンは、ウォリアーズのヘッド・パフォーマンス・セラピストを3シーズン務めた女性トレーナー。試合映像に頻繁に映り込むブロンドのショートヘアーの女性の姿を見たことのあるファンも多いはずだ。彼女の仕事は、選手が試合に出場できる状態にコンディションを整えること。ただ、昨シーズンは大変な仕事になった。

『SF Gate』によれば、昨シーズン、ウォリアーズの選手がレギュラーシーズンの試合で欠場した試合数はトータル162試合で、プレーオフでの27試合を合わせると合計189試合に上った。これは、スティーブ・カーがヘッドコーチに就任した2014年以降では2番目に多い数字だった(1位は2015-16シーズンの合計205試合)。

特にウォリアーズにとって痛手となったのは、エースのステフィン・カリーの離脱だった。カリーはシーズンを通じて足首とひざに不安を抱えながらプレーを続けていたが、2018年3月から4月にかけて長期欠場を余儀なくされた。この期間中、レーンはチームが遠征に出ていた間もオークランドに残り、カリーのリハビリに付き添った。シーズン中に何度も同じ箇所を痛めれば、精神的にも参ってしまうもの。カリーが滅入っていると感じた時、レーンは冗談を交えて言葉をかけ、ポジティブに考えるように誘導したという。

レギュラーシーズン中の復帰が間に合わなかったカリーだったが、焦らずにリハビリをこなし続けた。スパーズとのファーストラウンドも全休するも、ペリカンズとのカンファレンス・セミファイナル第2戦で復帰。それから徐々に調子を取り戻し、チームの2連覇に貢献した。カリーは復帰後、試合後の会見でレーンの献身的な支えに感謝の言葉を述べている。

ただそのレーンは、プレーオフ中も毎日のように慌ただしく過ごさなければならなかった。レブロン対策として期待されていたアンドレ・イグダーラのコンディション回復に全力を尽くし、ファイナル第1戦でキャブズのJR・スミスと交錯した際に足首に重度の捻挫を負ったクレイ・トンプソンを試合中にコートに戻し、第2戦以降もトンプソンが出場できるように治療にあたったからだ。『Sportskeeda』によれば、トンプソンの父親で、元NBA選手のマイカル・トンプソンは、レーンを「ミラクル・ワーカー」と称賛したそうだ。

腕利きセラピストのレーンは、ウォリアーズでのポジションに自ら立候補したわけではなかった。オーストラリアで生まれ育ち、アスリート志望だった彼女は、ある時期にスポーツより科学への興味が勝り始め、アスリートの心身を支える今の道に進んだという。その後ニュージーランドのオリンピックチームのスタッフを9年務めた後、2015年にウォリアーズから誘われ、NBAの世界に身を投じることになった。

興味深いのは、3年前の時点では、レーンはウォリアーズが何の競技のチームかも分からなかったということだ。それでもアメリカに渡り、年間82試合をこなすNBA選手、しかも王朝時代のウォリアーズの選手のコンディション調整という大役を3シーズンもこなし続けた。彼女がトップの総勢25名で構成されるセラピストチームの支えがなければ、ウォリアーズの2連覇は成し遂げられていなかったかもしれない。

レーンが次に力を貸すことになったチームは、東カンファレンスの古豪ホークスだ。若い選手が多いため、ウォリアーズよりも肉体的な問題は少ないかもしれない。しかし、精神面では未成熟の選手も多いだろう。もし来シーズンからホークスの再建が前進するようなら、その陰にはレーンの力が大きく影響しているはずだ。