「またコートに戻って来れたことにワクワクしている」
『バブル』での主役の一つがトレイルブレイザーズだった。シーズン再開から劇的な試合を次々と制し、プレーインでグリズリーズを退けた。その立役者となったのが、土壇場で異常な勝負強さを発揮し続けたデイミアン・リラードだった。
しかし、長期の中断を挟んでのリーグ再開とともに、一つの負けも許されない状況で全力を出し尽くす戦いを続けたブレイザーズは、プレーオフでその代償を払うことになった。レイカーズとのプレーオフ1回戦では初戦を制したものの、そこでガス欠。その後は4連敗を喫してシーズンを終えた。
エースのリラードはプレーオフでも死力を尽くして戦ったが、2戦目で左手の人差し指を脱臼。その後も強行出場を続けたものの、第4戦ではひざを痛めた。バックスの試合ボイコットを機にプレーオフが一時中断したところで、リラードは『バブル』を離れた。
チームの始動に合わせてチームの練習施設に戻って来たリラードに、『バブル』を戦っていた頃の表情の険しさはない。心身ともに一度リセットして、再び戦いの準備を順調に進められている充実感がある。「家族で過ごす時間の多い、良いオフを過ごせたよ」と彼は言う。
「1、2週間で体調も良くなったから、開幕がいつになるか分からないけどトレーニングはずっと続けてきた。みんなは来年の2月とか3月の開幕になると言っていたけど、僕はもっと早いと予想していて、準備は早めに始めなきゃいけないと思っていた。その判断をして良かったよ」
「バブルで得られたのは、ファン不在のアリーナでプレーする経験だった。頼れるのは自分と仲間たちだけ。そんな環境で良いパフォーマンスができたことは、チームの実力への自信になる。正直、シーズン中断の時点ではチーム状況はあまり良くなくなかった。だからこそ、『バブル』で自分たちの進む方向が正しいと確認できたのは良かったよ。今オフはディフェンス面で助けになる選手を補強できたから、僕とCJ(マッカラム)の負担も軽減されるだろう。チームには満足しているし、またコートに戻って来れたことにワクワクしている。今からシーズン開幕が楽しみなんだ」
ニール・オルシェイ球団運営部門代表とは「本気で優勝を取りにいく」ということで意見が一致したそうだ。リラードも今年で30歳になった。どの試合でもすべてを出し尽くすスタイルなだけに、年齢を重ねることや大きなケガでの身体能力の低下はパフォーマンスに直結する。彼が全盛期のうちにタイトルを取る。それがブレイザーズの方針だ。
「何年連続でプレーオフに進出したとか、良いカルチャーがあるとか、そんなことじゃない。優勝に挑戦する、そのためにやれることは全部やる。そしてポートランドに栄光を取り戻したいんだ。この街が最後に優勝したのは1977年だ。もう長い間、優勝から遠ざかっているからね」
世間を驚かすような大型補強はしていない。それでもデリック・ジョーンズJr.とロバート・コビントンは攻守のバランスを取る上で貴重な戦力になる。長くケガに苦しんだユスフ・ヌルキッチも昨シーズンの最後に復帰できた。カーメロ・アンソニーは再契約に応じ、このチームでもう一花咲かせるつもりでいる。そして何より、リラードとマッカラムのコンビはコンディションが良く、勝利に対する飢えを忘れてはいない。
「ビッグネームを補強すればチームが上手く行くとは限らない。でも、身体能力が高くて経験もあるウイングディフェンダーを2人も補強できたから、優勝の可能性は増えたと言ってもいいんじゃないかな。このチームは得点力に不安はない。ディフェンスからチームを支えてくれるだろうし、プレーオフでそうだったように僕とCJに相手の注意が集まっている時に、スラッシャーとして、シューターとしてチームを助けてくれるだろう。彼らには大いに期待しているよ」
激戦の西カンファレンスでの上位進出がいかに難しいか、ブレイザーズの戦いぶりを見ているとそれを痛感する。ただ、リラードはその状況にあっても「すべてを出し切ったからOK」とは考えない。彼はただNBA優勝だけを見据えて、新たなシーズンのスタートを切った。