ハーデンにとってトレード要求は『当然の権利』
ジェームズ・ハーデンはロケッツのキャンプ始動日に姿を見せず、遅れてチームに合流した。その間、ラスベガスとアトランタでパーティーに参加している映像がSNSで出回り、マスクをせずに遊んでいる姿が確認されていたため、感染予防措置が通常より長く取られることになった。自主隔離の上、6日間連続で陰性が確認されるまでは練習には参加できない。
新ヘッドコーチにスティーブン・サイラスを据えた球団の判断にハーデンは反発し、トレードを要求したと見られている。サイラスも腹に据えかねているようで「なぜキャンプに来ていないのかは彼にしか説明できない」と突き放した。ハーデンの一連の行動は明らかにプロ精神に欠くものだが、これが罰せられることはない。
スター選手の持つ権力が肥大化しているこのリーグにおいては、逆に球団と新任のヘッドコーチがハーデンに対して、チームに残って力を尽くすよう懇願することになる。ロケッツのオーナーであるティルマン・フェルティッタは『CNBC』の取材に対し、「ハーデンは現役の間に優勝リングを勝ち取りたいだけなんだ。彼がその強い気持ちを持っていることは素晴らしいし、それをロケッツでやってくれることを願う」と語っている。ハーデンにこれだけの態度を取られてもなお、事態をこれ以上大きくせず、彼をなだめたいと思っているのだろう。
トレードを要求していることについても、ハーデンは『当然の権利』ぐらいに考えているに違いない。ラッセル・ウェストブルックを手放した時点で、ロケッツは優勝戦線から後退した。ジョン・ウォールには復活を期待したいが、長期離脱明けでどれだけ活躍できるかは未知数。ウォールとデマーカス・カズンズが全盛期のパフォーマンスを取り戻してようやくロケッツは優勝を狙えるチームになる。ウェストブルックのトレード要求には応じたのに、自分にはノーを突き付けるのだとしたら、ハーデンは納得しない。
リーグや球団がスター選手を甘やかした結果ではあるが、これはロケッツに限らず多くのチームで起こり得る問題だ。実際、ジミー・バトラーもアンソニー・デイビスも、コート上で結果を出したことで、自分の都合で移籍したことは忘れられた。
NBAは夢の舞台である一方で、冷徹なビジネスの場でもある。ロケッツはハーデンを慰留することがそもそも難しく、強引に残したところで不貞腐れた選手をエースに戴くことのマイナスがいかに大きいかは理解している。慰留してはいるが、結局は彼の要求を受け入れてトレードをまとめることになるだろう。相手はネッツかシクサーズ。相手に足元を見られる中で、どのような条件を引き出せるかが今のロケッツの戦いだ。
そしてハーデンもリスクを背負う。トレード先がネッツでもシクサーズでも、エースとしての重責を今までと変わらず背負わなければならない一方で、今までのような特権が与えられることはない。ネッツやシクサーズが本当にそのリスクを冒してまで移籍すべきチームなのかは疑問だ。馴染みの顔が多く、楽しくプレーできるかもしれないが、それはイバラの道でもある。