NBAサマーリーグ

文=神高尚 写真=Getty Images

渡邊雄太で注目が集まる今年のサマーリーグですが、渡邊のようにNBAチームとの契約のチャンスを狙う選手だけでなく、シーズンでプレータイムが少なかった若手選手、今年ドラフトされた選手もプレーしています。すでにチームとの契約を勝ち取っている選手たちからするとサマーリーグはサバイバルではなく、NBAレベルの中で自分の力を発揮するテストの場であり、チームのシステムを理解する場になります。

新たなスタイルを模索するホークス

そんな中でドラフト上位指名権を持っていたチームになると、近い将来の軸となる選手を中心にチームのシステムそのものをテストしているケースがあります。その代表格がホークス。3年前は60勝でリーグ2位の勝率を誇り、4人のオールスターがいたチームは1年前に完全に解体されました。再建の第一歩としてシーズンで起用された若手たちと、今年のドラフトで1巡目指名した選手を中心にしてサマーリーグを戦っています。

シクサーズのアシスタントコーチだったロイド・ピアースを新ヘッドコーチに迎えたホークスが目指すのは、スキルフルなインサイドプレイヤーとシュートが得意なアウトサイドプレイヤーを融合し、パッシングと3ポイントシュートを中心にしたスタイル。2年目のジョン・コリンズを中心に人もボールも動き、積極的に3ポイントシュートを狙っていく形はこれまでのホークスとは目指す方向性が違います。

その一方でここまでドラフト全体5位のトレイ・ヤングが自慢のシュート力を発揮できていないため、チームとしても機能していません。サイズや運動能力には優れるわけではないのに、1年生ながらNCAAで得点王とアシスト王を獲得したヤングのために用意されたようなシステムであるため、そのシュート力はチームの浮沈を握ります。サマーリーグでNBAレベルに慣れておかないとシーズンでは批判が集中する可能性もあります。

デアンドレ・エイトンを含め新戦術を「試す」サンズ

ドラフト全体1位で指名したデアンドレ・エイトンですが、サンズには2年目のジョシュ・ジャクソンや3年目のドラガン・ベンダーといった、すでにNBAでプレーしている若手有望株も多いため、サマーリーグとはいえ中核に据えられているわけではなく、恵まれた体格と運動能力を駆使して自ら打開するシーンはほとんどありません。しかし、周囲の先輩たちがうまくエイトンを活用していき、ゴール下のフィニッシャーとして存在感を発揮しています。

ジャズのアシスタントコーチとスロベニア代表のヘッドコーチを務めていたイゴール・ココスコフが新ヘッドコーチになり、サンズは個人技よりもチーム戦術の徹底がサマーリーグのテーマになっているようです。1年前は個人が突破することがすべてのようなオフェンスでしたが、オフボールで複数のスクリーンを活用し、ディフェンスのギャップを生み出していきます。

エイトンもまたスクリナーになりながら、フリーになるタイミングを見つけて先輩達のパスを受けフィニッシュし、ディフェンスが寄ってくると無理をせず的確にパスを捌いていきます。連携が上手くいかず苦しいシーンも多いですが、個人のアピールよりも新しいチーム戦術をそれぞれが確認しているオフェンスです。

それ以上に違いを感じるのはディフェンス面。チーム全体がディフェンスを重要視し、攻守の切り替えが早くなり、ヘルプディフェンスの徹底も感じられます。その中で目立ったのはドラフト全体10位指名のミケル・ブリッジス。高い3ポイントシュート能力だけでなく、ディフェンスでも個人のプレッシャーディフェンスと読みの鋭さで貢献し、3&Dとして完成度の高さを感じさせます。

先日5年の契約延長を結んだデビン・ブッカーを中心とした若いサンズは、中核を担う選手が揃ってきており、個人能力よりもチーム戦術を伸ばす方向に主軸が移ってきました。

キングスに加わるスピードとリーダーシップ

キングスは多くのルーキーを揃えて昨シーズンを戦ってきました。そこに今年のドラフト全体2位指名のマービン・バグリー、昨年ドラフトしたもののケガで1年プレーしなかったハリー・ジャイルズという2人のインサイドプレイヤーが加わり、サマーリーグではこの2人をチームに融合させようとしています。

2人が新たにもたらしたものはインサイドのスピードです。特にバグリーは優れたスキルを併せ持ち、速攻で自らドリブルでボールを運び、見事なアシストパスを通すシーンもありました。さらにディフェンスではスイッチからガード相手になっても守り切るだけのフットワークも見せつけています。これまでキングスのインサイドはザック・ランドルフが中心的な役割を果たしていたこともあり、若いチームながらスピード負けすることが多かったのですが、2人の融合が進めば弱点が一気に強みに変わる可能性もあります。

またそのバグリーについて会場のマイクが拾い上げたのは、ディフェンス時に周囲へのコーチングをしっかり行っていることです。自分がマークに行くのか、スイッチするのか、プレッシャーをかけるのか、常に状況が変化する中で適切な指示を送ることはチームディフェンスを強化します。

サンズとの対戦で高校時代のチームメートであるエイトンにマッチアップした際には、自身のフットワークと周囲との連動により、エイトンへボールを入れさせないディフェンスを見せました。スピードとリーダーシップで守り切ったこのシーンは強いインパクトを与えました。若い選手ばかりのサマーリーグだからこそリーダーシップを養成する場にもなるのです。

3チームとも再建中のチームなので若手有望株が多く、シーズンでもそのまま起用するようなので、1.5軍のチームで戦術テストを兼ねたようなチーム作りをしています。一方でネッツは今回紹介した3チームと同じように再建中でありながら、新たな選手のテストを中心にしています。その点では渡邊雄太は良いチームでチャンスを得たのかもしれません。

サマーリーグの目的は各チーム様々なので、シーズンに向けてどんな準備をしているのか確認していくのも一つの楽しみ方です。