文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

少なくとも1勝しなければ1次リーグ敗退の『崖っぷち』

バスケットボール日本代表は今日19時30分から、ワールドカップアジア1次予選のオーストラリア戦を千葉ポートアリーナで戦う。1次予選はオーストラリア、フィリピン、チャイニーズ・タイペイと同組。4チームがホーム&アウェーで6試合を戦い、3位までが2次予選へと進出する。脱落するのは1チームだけ。ここまで1勝3敗で3位のチャイニーズ・タイペイを追う日本は0勝4敗。今日のオーストラリア戦、そして7月2日のチャイニーズ・タイペイ戦の2試合で3位に浮上しなければ1次予選敗退が決まってしまう『崖っぷち』の状態にある。

最終戦のチャイニーズ・タイペイ戦は台北での試合で、完全アウェーの難しさがある。逆に今夜の試合はホームゲームだが、ここまで4戦全勝でアジア最強のオーストラリアが相手。この2試合で少なくとも1勝を、成績が持ち越される2次リーグのことを考えれば2勝が必要となる。ここまで全敗の日本代表にとっては厳しいノルマだが、過去4戦との大きな違いとして、ニック・ファジーカスと八村塁の存在が挙げられる。

ファジーカスは長く川崎ブレイブサンダースでプレーした、Bリーグの『最強外国籍選手』だったが、今春に日本国籍を取得。すぐさま日本代表に加わった。シュートレンジの広さと精度、そして献身的なプレーができるセンターとして、先日の国際強化試合ではセンターの先発に据えられた。FIBAの公式大会では今夜がデビュー戦となる。

同じくこのタイミングで代表に加わったのが八村塁だ。ベナン人の父、日本人の母を持つ八村はU-17世界選手権で得点王となり、明成高校でも圧倒的なパフォーマンスを披露。高校卒業後はアメリカへ渡り、ゴンザガ大の一員としてNCAAを戦っている。また昨夏にはU-19ワールドカップに出場。攻守にダイナミックなプレーを見せ、日本代表のエースとしての存在感を見せた。

「日本の長所である速攻もまずはリバウンドから」

その八村が満を持してA代表に加わった。0勝4敗と崖っぷちの日本の『希望』として大きな期待が寄せられるが、昨日の取材対応では気負いよりも試合への楽しみが上回っていた。「ここまでチームとすごく長い時間やってきて、僕たちがやってきたことをそのまま明日やります。すごく楽しみです」

八村のプレーの醍醐味は日本人離れした身体能力を生かしたアタックだが、今回はオーストラリアが相手とあって、地味ではあってもフィジカルな戦いとリバウンドを優先する。「ディフェンスはもちろんですけど、ディフェンスが終わった後にボックスアウトをしてリバウンドを取るところをすごく準備してきました。日本の長所である速攻もまずはリバウンドを取ってからなので、そういうところの練習をすごくやってきました」と八村は言う。

もっとも、相手は高さと強さではアジアレベルを超えるオーストラリア。ファジーカスと八村がいればゴール下での争いに勝てるというものではない。「ボックスアウトをしっかりすることで相手もジャンプができなかったり、そういうところでしっかりしていかなきゃいけない」と、八村はあらためて基本のプレーの重要性を説いた。

日本代表の実力を目に見える形で示す絶好の機会

フリオ・ラマスヘッドコーチはベンチ登録12名の選択においてポイントガードの宇都直輝を外し、インサイドの人数を増やした。ファジーカスと八村というタレントを加えてもなお、人数をかけて乗り切らなければいけない勝負どころと見極めての判断だろう。

実際のところ、5番と4番のインサイドは、ファジーカス、八村、そして竹内譲次のローテーションが基本となり、太田敦也と永吉佑也がサポートする形になるだろう。攻守両面で間違いなく軸となる八村が強さと高さ、そして機動力でどれだけチームを支えられるかは一つのポイントとなる。それが勝敗を決定づける要素ではなく、ここを互角に持ち込むことが勝利の前提条件であって、他にもいくつかのポイントで上回ることでようやく勝ちが見えてくる、というのが今夜の試合の難しさ。それでも、オーストラリアと良い勝負を演じられれば、日本代表の実力はアジアにおいて上位であることを実証できる。

チームの実力は少しずつ高めていくしかないが、この1、2年間で伸ばしてきた実力を目に見える形で示すという意味では、今日のオーストラリア戦は絶好の機会だ。日本バスケ界の『希望』である八村塁には、そのポテンシャルを存分に発揮してもらいたい。