柔軟なチーム作りならペイサーズ、個が強烈なシクサーズ
マイク・ダントーニは、ロケッツがレイカーズとのカンファレスセミファイナルに敗れた翌日に、契約満了に伴う退団の意思を球団に伝えた。契約延長に合意していなかった時点で、彼の退団は既定路線だった。現職のコーチではスパーズのグレッグ・ポポヴィッチに次いで2番目に高齢で、今年5月に69歳になったが、まだまだ第一線を退くつもりはなさそうだ。
ナゲッツ、サンズ、ニックス、レイカーズ、ロケッツ。20世紀末からNBAの5チームで指揮を執っているベテランだが、そのバスケ観は常に新しい。彼のバスケはイタリア仕込みのラン&ガン、超攻撃的スタイルで、選手には走力と7秒以内にシュートを打つハイテンポなプレーを求める。ロケッツではジェームズ・ハーデンを絶対的なエースへと成長させ、その能力を最大限に引き出すために、3ポイントシュート特化型かつポジションレスのバスケを採用し、さらにスピードを追求した結果としてセンター不在のマイクロボールを生み出した。
過去のスタイル、自身の成功体験にとらわれず、新しい発想でチームを作るのがダントーニのやり方だ。年間最優秀コーチ賞を2度受賞しているが、それは2005年と2017年。バスケットのトレンドが全く異なる2つの年代で受賞しているのも彼らしさである。
まだまだ老け込む気配はないが、年齢的に次のチームが最後のチャレンジという意識はあるだろう。彼はこれまでカンファレンスファイナルで勝てず、NBAファイナルに進出したことはない。数年のうちに優勝を狙えるチームを率いることになりそうだ。
有力視されるのはペイサーズとセブンティシクサーズだ。今シーズンはいずれも『バブル』に参加するも、東カンファレンスのファーストラウンドで敗退。その直後にペイサーズはネイト・マクミランを、シクサーズはブレッド・ブラウンを解任している。両チームともに、ダントーニにならチームを任せたいと考えているはずだ。
ペイサーズに目立ったスターはいないが、ドマンタス・サボニスとは4年、マルコム・ブログドンとマイルズ・ターナーは3年、TJ・ウォーレンとジェレミー・ラムは2年と長期契約を残しており、今のコアメンバーを生かしたチーム作りができる。サラリーの総額も低く抑えられており、チーム編成の柔軟性が極めて高い。ダントーニの目からは、自分の理想のバスケを実現するための良いベースがあるように見えるはずだ。
チームで最も実績のあるビクター・オラディポとの契約は来シーズンまで。ケガの影響がありトレードは難しいが、彼にとっても次に良い契約を勝ち取るために、来シーズンは勝負の年となる。ケガに苦しんだ過去2シーズンとは違う働きぶりが期待できそうだ。
シクサーズはジョエル・エンビードとベン・シモンズという2人のオールスターを擁している。2人のエースよりも高給取りのトビアス・ハリス、アル・ホーフォードを抱えており、チームを再編する際に動きづらいのは難点だが、個の強烈さではペイサーズよりも数段上。シモンズもエンビードも、オフェンスよりもディフェンスで評価されている選手であり、だからこそダントーニの下で攻撃面の新たな持ち味が引き出されるケミストリーに期待したい。
またダントーニにとってシクサーズは古巣でもある。ロケッツのヘッドコーチに就任する前、彼はブレッド・ブラウンの下でアソシエイトコーチを務めていた。GMを務めるエルトン・ブランドは、ダントーニがロケッツへと移った後にシクサーズにやって来たが、他の重役たちとは面識がある。その関係性がダントーニの背中を押すかもしれない。
ブルズはビリー・ドノバンを新たな指揮官に据えたが、まだサンダーやペリカンズではヘッドコーチのポストが空いている。ダントーニが腰を据えて若手を育てることを望むのなら、この2チームにも可能性が出てくる。