長谷川誠、ペップ(ジョゼップ・クラロス・カナルス)の下でアシスタントコーチを務めた前田顕蔵がヘッドコーチに内部昇格したのは昨夏のこと。これまでのスタイルを継承し、新たな進化を求める上では最適な人選との期待に答え、昨シーズンは19勝22敗と勝ち越しが見えるところまでチームを引き上げた。だが、指揮官の目線はもっともっと上を向いている。「ユニークでなければ勝てない」というペップの教えを自分流に落とし込むとともに、選手たちに「本当に日本一を目指しますか?」と問いかけている。
「日本人が点を取らないと勝てないチームにする」
──後編では間もなく開幕を迎える今シーズンに向けた手応え、自信を語っていただきたいと思います。このオフは選手の入れ替わりが少なかったですね。
どのチームもそうですけど、昨シーズンがコロナで途中で終わってしまって消化不良だったじゃないですか。限られた予算の中でベースを維持しながらどう化けるか、さらに成長できるか、という方向性ですね。日本人選手も外国籍選手も入れ替えるとなるとお金がかかってきます。性格も良い選手ばかりなのでなるべく変えずに行こうという考えでした。
昨シーズンは41試合しかやっていません。19試合を残しているのに給料をもらっているわけです。チームとしては消化不良ですよ。残りの3分の1は対戦相手が強豪ばかりで、僕らにとっては大きなチャレンジだったし、やってみたい気持ちは大きかったんです。そこで劇的にチームを変えるのではなく、昨シーズンやり残したチャレンジをここでやろうと考えました。
──継続路線を選択した中で、チームとして『化ける』ために何が大事になってきますか。
ディフェンスは1年目で土台ができたので、その精度を上げていけばいい。ですがオフェンスは激変させます。具体的に言うと昨シーズンはジャスティン・キーナンが平均21.1得点、僕らの平均得点は75.5なので彼が占める割合が非常に大きかったです。(ウィリアムス)ニカは一番フィールドゴールのパーセンテージが良かった(55.9%)選手なんですよ。オフェンスのメインだった選手が2人いなくなったので、今シーズンのオフェンスは変えるしかないんですよね。
それで僕が今回言っているのは、「日本人が点を取らないと勝てないチームにする」です。このコロナで自粛期間が長かったので、オフェンスのシステムをガラッと変えるための勉強をしました。今は改革の真っ最中です。
──具体的にはどんな形になるのか、差し支えない範囲で教えてください。
昨シーズンはセットプレーを上手く使って効率良く攻めたいと考えて、最終的に4番ポジションが起点となるオフェンスが多かったんです。それでも昨シーズンを評価、分析してたどり着いた結論として、僕らはスティールはリーグで一番ですがディフェンスリバウンドは下から2番目と確率が悪くて、リーグで一番激しいディフェンスから良い流れでオフェンスに繋ぎたいと考えました。
実際、セットプレーになればなるほど効率が落ちていたんですよ。なので、速い展開のバスケットにしたい。それでもただ走れとは言いたくなく、ディフェンスから良い流れでオフェンスに入っていける、その中で日本人が起点になるオフェンスを今シーズンはやりたいんです。それは僕らにしかできないとも思っていて、まずはロスターにスコアラーがないこと。次に激しいディフェンスがあること。攻撃的なディフェンスから攻撃的なオフェンスに繋ぎたいんです。
これは「ユニークでなければ勝てない」といつも言っていたペップの考え方の影響が大きくて、オフェンスもディフェンスもすごく攻撃的にやりたいです。クラブが掲げたスローガンが『AKITA BEAT』なんですけど、そこにもリンクしています。そういう意味で今シーズンは、ディフェンスも速くオフェンスも速く、というバスケをやります。
「思いっきりやるだけで、完全にノーリスクですよ(笑)」
──結局のところ外国籍ビッグマンに得点を頼るチームが多い中で、日本人選手に大事な役割を任せる点は「ユニーク」ですね。
そうですね。実際に上手く行くかどうかは若手がカギになってきます。今シーズン一番問われているのは「本当に日本一を目指しますか?」ということなんですよ。そう問われた時に昨シーズンの僕らには波がありました。でも、優勝を狙っているチームのインタビューでは全員が「優勝を目指します」と言いますよね。「僕らはチャンピオンシップ進出が目標です」なんて言ってるようでは、そもそも心意気があかんやん、と思ったわけです。
強豪チームと対戦すれば、勝つこともあれば負けることもあります。心意気のあかんやつは一回勝って喜んで、次に下位チームに負けるとか、そんなもんですよ。僕らはそういうところじゃなく、毎試合どれだけ高いパフォーマンスを出せるかにこだわらないと、永遠に日本一にはなれません。
そうなった時に「若いから」なんて言い訳にならない。ウチは全員が試合に出るチームなので、若手が甘えないマインドセットがないと強いチームになれないんです。これまでベテラン選手がリーダーシップを取って若手にいろんなことを教えてくれて、僕としては助けられてばかりなんですが、彼らを本気で優勝を目指す気持ちにさせられるかどうかは僕の仕事だと思っています。
──選手にお金をかけられるチームの方が優勝に近いじゃないですか。資金力があるわけじゃないので、工夫が必要です。
高いお金を出してNBA経験のある選手を取ってくるとか、そういうことには全く興味がないですね。秋田がやりたいことに合う選手であれば大丈夫です。それに僕たちは工夫しないと勝てないのは事実で、ありきたりのことしかやらなかったらありきたりの結果で終わります。その中でもコロナの影響がある今シーズンは特に、ファンの皆さんがワクワクして楽しめるようなバスケをしなきゃいけません。会場すべてにお客さんを入れられないとか様々な制約がありますが、それでもノーザンハピネッツが良い話題を提供して、また見に行きたいと思ってもらわなきゃいけない。その思いは強いです。
──いつも以上に難しいシーズンになりますよね。リスクだとは思いませんか?
いやいや、思いっきりチャレンジするだけで、完全にノーリスクですよ(笑)。スコアラーを取って来るのは簡単ですけど、それじゃ面白くない。日本人選手が活躍しないと面白くないし。あとはコロナで勉強できる時間、分析できる時間、準備できる時間はたっぷりもらえました。いろいろ新しいことに取り組みますが、リスクは全くなくて、それはディフェンスという土台はもうあるので「ダメだったら守ればいいよな」と思えるからです。
「これが秋田のバスケットだぜ! というものを見せたい」
──自粛期間の勉強は、一人でバスケに向き合う時間だったのか、スタッフ含めて一丸だったのか、どちらですか?
ウチに限らずみんな良いコミュニケーションが取れていたと思いますよ。Bリーグのヘッドコーチ陣で集まってのZoom飲みをやり、その時のチーム状況を共有して話し合ったり、今回はオンラインのクリニックも発達したので、僕も何度か参加しました。実際にありがたかったのは、興味があるチームのコーチに連絡をして、時間を作ってもらっていろいろ教えてもらったことです。これは何よりもプラスになりましたね。
──その中で一番勉強になったのは誰とのやり取りでしたか?
一番勉強させてもらった人は4人います。ニュージーランド代表のヘッドコーチ、ポール・ヘナレさん。女子の日本代表でテクニカルスタッフをやっている今野駿くん。この2人は世界の中でも突出してトランジションの速いバスケットをやっています。あとは尽誠学園の色摩先生にも今回いろいろ話を聞かせてもらいました。もう一人は僕がアシスタントコーチをしていた時の高松にアントワン・ブロキシーというビッグマンがいたんですけど、彼は今ロケッツでコーチをしています。彼にオフェンスのディティールを教えてもらったのはすごく助かりました。この4人からはすごく影響を受けています。
でも、真似事をしても上手く行かないのは分かっているので、秋田の選手に合うように落とし込んで新しいものを作っていく作業を今やっています。最終的には僕が決めるんですけど、実際は周りのみんなにすごく助けられています。
──開幕が楽しみになってきましたが、今シーズンも支えてくれるであろうブースターの皆さんにメッセージをお願いします。
オフェンスもディフェンスも秋田にしかできないバスケをするつもりです。ディフェンスの強みを最大限に生かしたオフェンス、これは秋田にしかできないものなので、そこをまず見てほしいです。あとは秋田の成長の過程を見てください。良い時も悪い時もあった昨シーズンから、今シーズンは本当に強いチームになろうとしています。
秋田の人たちはいつもノーザンハピネッツを見てくれますし、一緒に戦ってくれるので、あらためて言うことがないですね(笑)。今シーズンは秋田以外の人たちにも、「これが秋田のバスケットだぜ!」というものを見せたいです。秋田にしかできないバスケットというのは秋田ブースターありきです。会場の雰囲気や一体感は、他のチームのブースターの皆さんにも是非見てもらいたいです。
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