文=鈴木健一郎 写真=鈴木栄一

新主将の髙田「しっかりプレーできる雰囲気を作りたい」

堅守から走る日本のスタイルを体現する『チームの象徴』と呼ぶべきポイントガードの吉田亜沙美、外国人ビッグマンの高さとフィジカルに劣勢を強いられながらも粘りのプレーでダメージを最小限に抑えて日本のペースを作り出す大﨑佑圭。絶対的なスタメン2人が抜けたことが日本代表にとって大きなダメージであることは間違いない。だが、2016年のリオ五輪でも昨年のアジアカップでも戦力底上げの取り組みを怠らなかったことがここで生きた。代表候補の若手たちは主力2人が抜けたことをチャンスと受け止め、チームは活性化している。

それでも、吉田と大﨑の存在はとてつもなく大きい。プレーの面は若手の台頭でカバーできたとしても、2人のリーダーシップをどう補うかはより大きな課題となる。吉田は背中でチームを引っ張る強烈なリーダーでありながらコート外では細やかな気配りのできるキャプテンだったし、大﨑は天性の明るさでチームの精神的支柱となっていた。

吉田に代わりキャプテンに任命されたのは髙田真希だ。指揮官のトム・ホーバスはその髙田を全面的に信頼している。「去年もリュウ(吉田)がケガをして、髙田が結構ステップアップしたんです。昨シーズンのデンソーでは新人が7人入り、声を出さない髙田が声を出す良いリーダーになりました。良い選手が良いリーダーになって、髙田をキャプテンにするのが当然だと考えました。僕のチームのキャプテンはスタッフと選手の間に立つ本当に難しい役割です。僕に怒られた選手のフォローアップとか、本当に良い仕事をやっていると思います」

その髙田は代表で新たな経験を積む若手に対して「能力は高いんですけど、チームとしてのプレーがまだ徹底できていなかったり、ミスが続いた時にどうするかがまだ足りない」とシビアな目を向けながらも、「やっぱりポテンシャルは高いし、練習や試合を積み重ねることでみんなが戦力になっていくと思います」と期待を寄せる。

あからさまにリーダーシップを発揮するタイプではないが、「若い選手が多いので、試合に出た時に委縮しないように自信を持って、しっかりプレーできる雰囲気を作りたい」と髙田なりのリーダーシップでキャプテンの務めを果たすつもりだ。

『女王』の伝統を持ち込む宮澤「自分たちの代が中心に」

リーダーとして期待したいもう一人の存在が宮澤夕貴だ。これまで代表はJX-ENEOSサンフラワーズの選手が中核を担っていたが、吉田と大﨑が抜けて他チームの若手が多く代表に加わっている。そのこと自体は歓迎すべきだが、10連覇の『女王』でプレーする選手だけが持つ「勝者のメンタリティ」は日本代表にとって失ってはならないもの。どこまでも貪欲に、ストイックに目の前の勝ちにこだわる姿勢を日本代表に植え付けることが、宮澤には求められる。

「私にもその意識はあります」と宮澤はリーダーとしての自覚を語る。「気が付けば代表でも年齢が上のほうになっていて、それはちょっとビックリですけど、いつまでも若手と甘えていられないのは間違いなくて、逆に自分たちの代が中心にならないといけないと感じています」

リオ五輪を前に集中的に強化合宿を行っていた2年前の宮澤は代表生き残りに必死な若手の一人に過ぎなかった。それでもリオを経験して、昨年にはスモールフォワードのレギュラーに定着。JX-ENEOSでもトム・ホーバスの指導を長らく受けており、今のチームで誰よりもトムのバスケを理解しているという自負がある。

「リュウさんやメイさん(大﨑)のリーダーシップを自分がそのままできるとは思いませんが、練習に取り組む姿勢を見せることで良い影響を与えたり、トムに怒られた選手がいたら声を掛けてあげたり。自分も言われていたので、気持ちは分かります。そこでどうしたらトムのバスケに合うのかは自分が伝えられると思います」。宮澤にとっては当たり前の光景でも、それを当たり前にできるのは『女王』の一員だからこそ。若手にとって良き指南役になれるはずだ。

アジアで勝ち続け、世界に挑む。吉田と大﨑が不在となっても日本代表の目標は変わらない。髙田と宮澤には、それぞれのリーダー像を確立してチームを引っ張ることを期待したい。