渡嘉敷来夢

Wリーグの新シーズンは9月18日、ENEOSサンフラワーズvs富士通レッドウェーブで開幕する。連覇を続ける『女王』、JX-ENEOSサンフラワーズはENEOSサンフラワーズと名前を変えての新たな船出となるが、ディフェンスから走る王道のスタイルは変わらない。日本のエースにしてENEOSを引っ張る渡嘉敷来夢は、この新たな挑戦のために長いオフを有効活用してきた。もともと自信はあるが、今回はいままで以上に充実している。「日本でトップでいることは当たり前」と語る渡嘉敷は、どこまでも上を見据えながら挑戦し続けている。

「大きい選手はできない、を覆したい」

──昨シーズンが途中で終わり、代表活動もなくなりました。長い長いオフをどのように過ごしましたか?

自分としっかり向き合う良い時間になりました。リーグが中断した時から自分のパフォーマンスを上げることを考えて、ウエイトトレーニングとシューティングに時間を費やしました。またケガのあった足首の動きを確認して、そこに痛みが出るということは他が上手く使えていないと思ったので、そういうケアやトレーニングもできました。

誰に対しても与えられる時間は同じで、それこそチームメートを見ても時間の使い方は人それぞれだったんですけど、自分はこれまで、代表活動でオールシーズンずっとバスケットをしていたこともあって、しっかりと身体作りができたのは良かったです。

──新型コロナウイルスの感染拡大によるシーズン中断でしたが、ポジティブにとらえることができたみたいですね。

そうですね。私は基本ポジティブなので(笑)。

──では新シーズンはまた今までと違った渡嘉敷選手のプレーが見られそうですか?

毎年、シーズンに入る前には、前のシーズンとは変わった姿を皆さんにお見せしたいと思っています。今シーズンもまた変わった渡嘉敷来夢が見れるんじゃないかって、自分自身も楽しみにしています。

──でも、日本の女子バスケ界でずっとトップを走っていて、なおかつ変化していくのは難しいですよね?

私が見ているのは世界なので(笑)。日本でトップでいることは当たり前で、みんなが自分を倒す、ENEOSを倒すことを目標にしています。それに対して自分が成長することでENEOSもさらに強くなるし、日本代表もレベルアップすると思って日々やっています。今の自分に満足しているわけじゃないんです。日本でトップでいることがすごいとは思っていないので。

センター部門では自分が一番良い選手かもしれないし、ライバルを誰か一人挙げるとなれば髙田(真希)さんですけど、それこそ身近にいるチームメートの岡本(彩也花)が一番刺激的だったりします。身長は低くてもディフェンスは誰よりできるし、誰よりも前を走るじゃないですか。大きい選手はそれができないと思われがちですけど、それを覆したいという気持ちがあります。全部取り入れたいんです(笑)。

昨シーズンでもセンターとガードでスイッチした時にミスマッチになって、ガードが攻めて来る時がありますけど、それはチャンスだと思っています。向こうもチャンスと思っているかもしれないけど、こっちも守れるつもりで「3ポイントで逃げるのか、それとも1対1で来るのか?」と駆け引きしています。って、開幕したら口だけにならないように頑張ります(笑)。

昨シーズンは3ポイントシュートが10本打って1本も決めていないので、打っている本数も少ないけど、もうちょっと決めたかったと思っています。個人的には3ポイントシュートで結果を出したいです。チームとしてはディフェンスから走るバスケをしっかりやること。昨シーズンはできている試合とできていない試合があったので、最初から最後までできるようになりたいです。

渡嘉敷来夢

「試合よりも練習の方がキツい時期が何年もあった」

──何度も聞かれている質問だと思いますが、絶対的な『女王』として負けられないプレッシャーにはどう向き合っていますか?

周りからのプレッシャーは、正直あまり気にしていません。誰が何と言おうと負けたくないのは自分自身で、どんな状況でも「負けたらお前のせいだからな」って自分自身に言い聞かせています。相手が補強して強くなっていようが、こちらのメンバーが変わろうが、自分たちは勝たなきゃいけない。チームが勝てなかったら自分のせいだといつも思っています。自分で自分に掛けるプレッシャーが強すぎるので、誰かに何か言われてもあまりプレッシャーだとは思わないんです(笑)。

こういう考え方になったのは井上(眞一)先生のおかげと言うか、井上先生のせいと言うか(笑)。高校の時、結構点数を取って活躍していたのに「チームが勝たないとお前がいくら点数取っても何の意味もない」と言われてからは、ずっとこんな感じでやっています。

──では、自分の点数が伸びなくてもチームが勝っていれば全然オッケーですか?

そうですね。一番は自分で積極的に点数を取りに行くことですけど、自分は相手チームに結構好かれているので(笑)、ダイブするとみんな寄って来て、1対1になることなんて絶対ありません。そういう時は味方を信じてどんどん使っていきます。ダブルチームどころか3人に寄られるのももう慣れたし、「そうしないと守れないんだな、ありがとう」って感じです(笑)。昔は自分が点数を取れないとフラストレーションを溜めることもあったんですけど、みんなパスを出せば決めてくれるし、そこでまたチャンスが自分に来るので、それを今か今かと待っています(笑)。私だけを40分間守ることはできないので、一瞬の隙を狙っています。

──渡嘉敷選手を1人で守れる選手が出てこない、ENEOSの連覇を止められるチームが出てこないのは、問題と言えば問題ですね。

選手一人ひとりが現状で満足せず、上手くなりたい、強くなりたい、リーグを盛り上げたい、日本代表に入りたいという向上心をもっと持ってほしいとは思います。そうなれば必然的にリーグのレベルはもっと上がります。代表活動で集まった時もウチの選手は一つひとつ細かいところまでやっていると感じるし、それがENEOSの強さなんだと思います。

やっぱり、試合よりも練習の方がキツい時期が、11年間のうち何年もあったんですよ。それは私自身が今もチームに求めていることでもあるし、誰が抜けようが監督が代わろうが、これから下の子たちにもしっかりと受け継いでいってもらいたいです。それができれば勝ち続けられると思います。

トップ選手になると、何か指摘されるのが嫌だとか、できるのに練習しなきゃいけないのかとか、そう思ってしまうことがあると思うんですよ。でもそうじゃなくて、常に学び続けてほしいです。私も練習の時に「できるんだけど」って思うこともあって……これは冗談ですけど(笑)、でも世界にはすごい選手がいっぱいいることを肌で感じてきました。私はヨーロッパの試合もWNBAの試合もすごく見るんです。NBAだとレベルが違いすぎて参考になりませんけど、 WNBA は同じ女性だし、同じリーグでやってきたこともあるんで、「この選手ができるなら自分もできる」と思ってやっています。成長しなくなったり、自分が成長したいと思わなくなったら、それが辞め時ですよね。まあ今のところは伸びしろしかないし、バリバリやりたいので大丈夫です(笑)。

渡嘉敷来夢

オリンピックの延期は「自分自身としっかり向き合えば大丈夫」

──東京オリンピックが1年延期になりました。この決定を最初はどう受け止めましたか?

「あと1年、自分と向き合える」と思いました。年齢も一つ増えるので体力的な心配がないわけじゃないですけど、ケガをしないで自分自身としっかり向き合えば大丈夫です。なのでケガをせず、自分のモチベーションとプレーを仕上げていこうと思います。モチベーションが下がることもなく、ずっとこんな感じでやれてますね(笑)。

──メンタルの強さ、物事をポジティブに受け止める力がすごいと感じます。そのメンタリティは生まれつきですか?

いや、ENEOSに入団して2年目からですね。2年目にケガで手術をしてリハビリになって、それまでは落ち込んだり謝ったりしていたんですけど、そこで「なんかいつも謝ってるの、ダメだな」って思ったんです。ミスをして謝るのは当たり前ですけど、みんなミスするじゃないですか。同じミスを2回も3回もやらなければ良い話だな、って気持ちを切り替えました。今、隣で岡本が黙って聞いてるんですけど、「タク、高校の時めっちゃ謝ってたし、めっちゃ泣いてただろ」って思ってますよ(笑)。

──岡本選手、いかがですか?

(岡本)人って変わりますね(笑)。高校の時は本当にプレッシャーを感じてたと思うんですけど、すごくクヨクヨして、ずっと泣いてたんですよ。でも、何かを機に乗り越えて強くなりましたね。そこからは全く泣いてないと思います。

──新シーズン開幕に向けて、渡嘉敷選手のここを見てほしい、ENEOSのここを見てくれ、という点を教えてください。

やっぱり一番はディフェンスから走るバスケットを見てほしいです。あとは40分間、誰が出てもENEOSのバスケットをやるところを見てほしいですね。個人的には岡本に負けず先頭を走るので、その姿を見てほしいのと、今シーズンは昨シーズン、入らなかった3ポイントシュートをこの自粛期間にたくさん打ち込んだので、自信を持って打っていきたいです。

東京オリンピックについては、まずは開催されることを願いつつ、自分の準備をしっかりしていきます。今は代表活動がなかなかできませんが、それでも自分が代表で一番存在感を出せるのはディフェンスだと思うので、そこをしっかり考えながら、3ポイントシュートやミドルレンジのシュートでも力になれるように。自分が今できることが何か考えながら良い準備をしたいです。

──開幕を待つファンの皆さんへのメッセージをお願いします。

いつもご声援ありがとうございます。こういった状況が続いていますが、私たちのバスケットを見て、少しでも勇気や感動を与えれたらなと思っています。もちろん私たちもファンの方々や応援してくださる皆さんからパワーをいただいているので、お互いこの状況を乗り切って、バスケットボールで日本を元気にしていきましょう!