リーグ2位の30.5得点を記録しながらオールスターに選ばれず
ウィザーズはプレーオフ進出のわずかな可能性を手繰り寄せるべく『バブル』に参戦したが、シーズン再開から7連敗。最終戦でセルティックスに勝利したものの、相手はプレーオフに向けて主力をプレーさせない休養モードだった。西の8位争いがファンを熱狂させたのとは対照的に、最後は『バブル』不参加のホーネッツを勝率で下回り、ひっそりと東カンファレンス10位でシーズンを終えた。
もともとジョン・ウォールが長期離脱の時点で、今シーズンは先に向けた土台作りが目的。その中でルーキーの八村塁やトーマス・ブライアントの成長は、チームにとっては収穫と言える。だが、それで2020-21シーズンのウィザーズは躍進できるのかと問われれば、答えは難しい。ウォールは2018年の年末から丸2年、公式戦から遠ざかる計算になる。フリーエージェントのダービス・ベルターンズを引き留められず、ウォールがかつての爆発的なスピードを取り戻せなかったとしたら、25勝47敗に終わった今シーズンとさして変わらない成績しか残せない可能性は否定できない。
それを誰よりも真剣に考えているのは、ブラッドリー・ビールではないだろうか。彼は昨夏、ウィザーズと2年間の契約延長に合意している。この時に彼は、契約に踏み切った理由をこう説明している。「隣の芝生の方が青く見えるとは限らない。移籍したらもっと勝てるようになるかもしれないけど、優勝できる保証はない。今のリーグは選手に力があって、確固たる地位を手にした選手なら、好きな球団と契約できる。自分はここで努力して、成し遂げたいんだ」
しかし、彼は今のウィザーズで本当に納得できるのだろうか。今年のオールスターに彼は選ばれなかった。キャリアハイの平均30.5得点を記録したにもかかわらず、過去2シーズンは選出されていたオールスターから漏れたのである。勝てるチームでプレーしないと、これ以上のキャリアは望めないことを端的に示す出来事だ。そして彼はシーズン再開を前に、肩の故障を理由に『バブル』に行かない決断を下した。
オールスターから外れても、ジェームズ・ハーデンに次ぐリーグ2位の得点を記録したことで彼は『確固たる地位を手にした選手』になったのではないか。ビールが出て行きたいと願うのであれば、ウィザーズが契約で縛り付けるのはナンセンスだ。彼が言ったとおり、「確固たる地位を手にした選手なら、好きな球団と契約できる」のが今のNBAであり、仮に彼がそう望むのであれば、ウィザーズとしてはできる限りの見返りを得るべく動くだろう。
ビールが新しい挑戦を望んだ場合、行き先として考えられるのがティンバーウルブズとウォリアーズだ。
ウルブズはロッタリーで今年のドラフトの全体1位指名権を得ており、トレードの駒になる魅力的な若手も多い。再建中のチームではあるが、カール・アンソニー・タウンズとディアンジェロ・ラッセルを擁し、ビールを迎え入れることができれば『ビッグ3』が形成できる。サンズのデビン・ブッカーを狙うとの噂もあるが、勝ちに行くチームを作るのであればビールを選ぶべきだ。
そしてウォリアーズはケガ人続出でNBA30チームで最下位に終わった今シーズンからの『V字回復』が至上命題となっている。ステフィン・カリーとクレイ・トンプソン、ドレイモンド・グリーンにビールが加われば、すぐさま優勝を狙えるチームに返り咲くことができる。ウォリアーズは今年のドラフトでウルブズに続く全体2位指名権を持っている。
また、ビールを加えることですぐさま優勝を狙える立場になるチームがネッツだ。カイリー・アービングとケビン・デュラントが復帰する来シーズンからの数年が勝負の年。スペンサー・ディンウィディー、キャリス・ルバートといった主力を手放しても、ビールを獲得して『勝てるチーム』を作りたいはずだ。
ウィザーズは昨夏にビールとの契約延長に成功したことで、再建への舵の切り方が中途半端なものになった。ビールがこれだけのタレントに成長した以上、彼をエースに据え続けるならカンファレンス8位争いで苦戦するようなチームであってはならない。それならばビールを放出し、ウォールをメンターとして、八村やブライアントを中核に据えつつ、トレードで得た若手や新たに契約する有能なルーキーを成長させて『数年後の強豪』を目指すべきだ。
すべてはビールが今のチームと自分の状況をどう考えているか。そしてウィザーズにとっては、フロント主導でチームの未来を決めるのではなく、ビールの決断次第となっている主体性のなさは問題だ。