ウェストブルックとは好対照なスタイル
NBAプレーオフのファーストラウンド、ロケッツvsサンダーは『GAME7』までもつれることになった。レギュラーシーズンの成績は44勝28敗とイーブン、実力伯仲の両チームではあるが、チームの顔だったラッセル・ウェストブルックが退団して若手を多く使うサンダーと、優勝のためにそのウェストブルックを迎え入れたロケッツでは置かれた状況が全く異なる。戦力はロケッツがかなり上。それだけサンダーの健闘が目立つのだが、それを可能にしているのはクリス・ポールの司令塔ぶりだ。
クリス・ポールはクリッパーズを離れた2017年から2シーズンをロケッツで過ごしたが、期待されたほどの結果は出せなかった。パフォーマンス自体が悪かったのか、正当な評価を受けられなかったのかは判断が分かれるところ。しかし、サンダーに来たのを機に彼が選手としての評価を大きく取り戻したのは間違いない。それはこのプレーオフになって顕著になっている。
ウェストブルックほどのスタッツは残さないが、勝敗に与える影響は大きい。試合をコントロールできるのは、高いバスケットIQで流れを読み、様々なアプローチで攻守に影響を与えられるオールラウンドな能力を持っているから。コート全体の状況からチームに最善なプレーを選択し、アシストは記録されなくても良いシュートチャンスを作り出すパスワークでチームメートの持ち味を引き出し、チームを波に乗せる。誰よりも集中してハードワークする姿を見せることで、若い選手を統率していく。
これらはすべてウェストブルックにはない特長だ。さらにはターンオーバーの少なさ、悪いシュートを強引に打たない判断力の良さとメンタルの安定感がある。
爆発力とクラッチタイムの勝負強さではウェストブルックだが、それもこのシリーズではクリス・ポールが目立っている。ウェストブルックは悪いプレー選択でも身体能力とアグレッシブさで強引に成功に持ち込む異能ぶりをしばしば見せるが、クリス・ポールは常に最も確率の高いプレーを選択して決めていく。ウェストブルックの爆発力は魅力だが、一度悪い流れにハマると立ち直るのが難しい面もある。第6戦のクラッチタイムはクリス・ポールのものだった。完璧なプレーを選択して遂行し、どちらに転ぶか分からない局面をきっちりとサンダーのものにした。
このプレーを見ていたレブロン・ジェームズは「CP3! 彼の名前をもっとリスペクトすべきだ」とTwitterに投稿している。
サンダーの指揮官ビリー・ドノバンは、こんな言葉でプレーメーカーを称賛している。「バスケットIQと知性、センスと、あらゆることに精通しているから信頼される。私が彼について一番驚くのは精神力やパスじゃなく、信じられないほどオフェンシブな選手だということ。正しいスペーシングをして、フロアにおける良いスポットに行き、良いシュートを打つことだ」
「プレーオフは常に楽しいしエキサイティングだけど、『GAME7』は何が起こるか全く予期できない試合だ。このチャンスが欲しかった」とクリス・ポールは言った。もっとも、何が起こるか予想できないとは思っていないはずだ。コート上で何が起きているのか、彼はすべて把握しているのだから。