「プレーを続けながら、意見を確実に届けようとしていく」
『バブル』でのシーズン再開は、NBAの選手たちにとってバスケをプレーするだけでなく、『Black Lives Matter』のメッセージを発信する意味も持っていた。人種的不平等にNoを突き付け、社会正義の実現を訴える。世界的に注目を集めるプロスポーツのコートをメッセージを発信するプラットフォームにすることに意義があると感じたからこそ、彼らは『バブル』に集結した。
しかし、ウィスコンシン州ケノーシャで黒人男性のジェイコブ・ブレイク氏が警察官に背後から撃たれて重傷を負った事件は、このメッセージが必要な人々に届いておらず、社会正義の実現に具体的な実効性を持っていないことを示した。選手たちの戸惑いと動揺は大きかった。
それでも、NBAは明日(現地時間29日)から再開することで意見がまとまった。NBA選手会の会長を務めるクリス・ポールは「ここ何日かは本当に大変だった」と会見で語っている。
「ここ数日は僕だけじゃなく誰もが感情的になっていた。僕はみんなに信用してもらわなければならなかったけど、たくさんのコミュニケーションの中でみんながそれを示してくれた。みんな感情をリセットし、試合に再び集中する必要があったんだ」
議論の中には、他チームへの相談なしにボイコットを決行したバックスへの非難があり、その後の協議の場では必ずしも建設的な意見ばかりでなく、感情をぶつけ合うようなシーンもあったようだ。レブロン・ジェームズを中心に、レイカーズとクリッパーズがボイコットの継続を支持したとも言われている。しかし、分断はなかったとポールは強調する。
「一人の人間の問題じゃなく、一つのチームの問題じゃない。僕たち全員のことだ。ボイコットが起きた時、僕らはバックスの兄弟たちと連帯していた。僕たちのやることすべては兄弟愛によるもので、みんな一緒なんだ。だから誰か一人が、どこか一チームが、ということはあり得ない」
「銃撃事件が続けば不安になる。ここはアフリカ系アメリカ人が多いリーグで、黒人の兄弟たちが日々撃たれたり殺されたりしているのを見れば、自分たちのやっていることに意味はないと感じるものだ。みんな僕らにプレーすることを期待しているのは分かっているけど、僕らの誰もが時間を必要としていた」
「最終的には、自分たちの声がどれほど強いものかを理解し、プレーすることをやめてしまったら同じプラットフォームは持てないと判断した。僕らはこれからもプレーを続けながら、自分たちの意見を確実に届けようとしていく。それと同時に、メッセージを届けるだけでなく、具体的な行動も必要になる。それが今回の協議の目的だ。『僕らはいろんなメッセージを発信してきたけど、でも具体的には何をするんだ?』というのがみんなの意見だった。だから全選手を集めてミーティングを行い、その後に各チームから2人の選手を招いての小さなミーティングをした。そこでみんなの望む具体的な行動を話し合うことができた」
サンダーのポイントガードとしてプレーするクリス・ポールは、試合が再開すれば大混戦となっているロケッツとのプレーオフファーストラウンドをどう勝ち抜くかに集中しなければならない。選手会の会長として議論を導くのも大仕事だろう。それと同時に彼は『バブル』にいながら良き父親であろうともしている。
「本当に大変なのは、今起きていることを子供に説明することだ。もうしばらく会えずにいるけど、僕には11歳の息子がいる。毎日毎日こんな動画を見ている黒人の息子に、なぜこの動画がネットで流行っているのかを僕は説明できなかった。僕らはやらなきゃいけない。もう一度言うけど、選手たちはよくやってくれている。このままメッセージを発信し続けて、行動とともに変化を起こしていくんだ」
プレーオフを続行するために、選手の間にある様々な意見をすり合わせるのは大変な作業だったに違いない。それでもリーグ側、オーナー側の理解もあり、明日にはシーズン再開となる。選手会の会長としてクリス・ポールが果たした役割は大きい。会見の最後に彼はこう漏らした。「大変だったよ。このリーグに15年いるけど、経験したことのない出来事だ。でも、聞こえてきた声は忘れない。絶対に忘れないよ」
現地時間29日にプレーオフは再開。バックスvsマジック、ロケッツvsサンダー、レイカーズvsトレイルブレイザーズの3試合が、翌30日にはラプターズvsセルティックス、マーベリックスvsクリッパーズ、ジャズvsナゲッツの3試合が行われる。