文=鈴木健一郎 写真=B.LEAGUE

『比江島タイム』に託した三河、決着の一発

第4クォーター残り31秒、76-75と1点リードの場面。長らくリードを保ってはいたが、最大21点リードという余裕の展開からどうしてこうなってしまったのか。いずれにしても熱狂の坩堝と化したウイングアリーナ刈谷で、比江島慎はボールをついていた。4人のチームメートはベースラインに張り付き、比江島をただ眺めている。比江島とマッチアップする喜多川修平、コート中央にいる2人に会場のすべての視線が集まっていた。

比江島の頭に浮かんでいたのは昨シーズンのファイナルでのミスだ。「去年の悔しい思いがデカいと言いますか、あのパスだけはしないようにと言いますか。気楽に、ではないですけど、自分が打ち切ることだけ考えていました」

昨シーズン、勝負のかかった場面で比江島が痛恨の判断ミス。それで三河のシーズンは終了した。比江島はその雪辱をずっと誓っており、心の準備はいわば『1年がかり』だった。「成長した姿をファンの皆さんに見せたかった。絶対勝たせるという強い気持ちを持ったので、昨シーズンとはその気持ちの部分が違いました。去年のあの経験があったからこそ最後のシュートは打てました」

その前にも比江島はオフェンスを託されており、十八番のスピンムーブでディフェンスを振り切ってシュートを放っているが、これはリングの内側で跳ねて惜しくも外れた。それでもこぼれ球にアイザック・バッツとコートニー・シムズががむしゃらに飛び込み、リバウンドを押さえている。シュートタッチは良かったし、外してもリバウンドを取ってくれる仲間への信頼もあった。3ポイントラインから一歩踏み込んだ位置で、まだ距離はかなりあったが、比江島が迷いなく放ったシュートは確実にリングをとらえた。

アリーナのボルテージが最高潮に達する中、比江島は静かに天を仰ぎ見た。「母が見てるのかなと思ったので」と語る、4月21日に急逝した母へと捧げる得点だった。

「絶対に皆さんをファイナルに連れて行く!」

前日の第1戦は77-63と快勝。チームルールを40分間徹底し、身体を張った激しいディフェンスと8アシストのチャンスメークで勝利に貢献した比江島だが、得点については8得点と自分の中で納得のいかない出来で、「オフェンスでチームに迷惑をかけてしまったので、明日は自分が試合を決めるようなプレーでチームを助けたい」と語っていた。まさに『有言実行』、値千金の一発だ。この時にはすでにファウルアウトして試合を見守っていた橋本竜馬は「プレッシャーの懸かる場面を背負って、決めてくれた。感謝しかないし、心から『ありがとう』を言いました」と語る。

1年間抱えていたトラウマを見事な形で払拭した比江島だが、ここも彼らしく、「とりあえずは払拭できたのかなと思うんですけど、まだこの先も続くので。またこういったシチュエーションは必ずあると思っています」と気を引き締める。セミファイナル、そしてファイナル。三河がここ一番の状況を迎えた時、エースとしての責任を引き受ける覚悟が比江島にはある。

「去年の悔しい思いは払拭できたし、勢いに乗って次のステージに進めます。次もこのホームコートでやりますし、このシリーズと変わらずタフなゲームになると思います。どっちが勝ってもおかしくないとは思うんですけど、気を抜かずに僕らのバスケをやっていければと思います」

メディアの取材に対しては落ち着いて言葉を選んだ比江島だが、試合終了直後のヒーローインタビューではさすがに気持ちが高ぶったのか、「絶対に皆さんをファイナルに連れて行く」というマイクパフォーマンスで、勝利を決定付ける得点を決めた時以上の大歓声を呼び起こした。決して簡単ではなかったこの1年間で、エースの自覚は増し、精神的に一回りも二回りも強くなった。比江島はBリーグ制覇だけに集中し、一歩ずつ歩みを進めている。

5/13 QF 栃木戦 GAME2

このゲーム、取り上げたいシーンが多過ぎるのですが…まずはこのアイソレーションは外せないですね?#Bリーグ #シーホース三河#6比江島 #比江島慎 @Hiejima_m6

3種のカメラでご堪能ください?? pic.twitter.com/v87QgRJmfw

— シーホース三河 (@go_seahorses) 2018年5月14日