ニック・ナース

次の相手はセルティックス、ラウリー故障のピンチ

ケガ人続出に加えてジョー・ハリスが個人的な事情で『バブル』を離れて欠場。ラプターズに抗う力はネッツに残っていなかった。昨シーズン王者のラプターズは150-122で第4戦を制し、スウィープ(4勝0敗)でファーストラウンド突破を決めている。

4戦先勝方式のプレーオフをどう戦えばいいのか熟知するラプターズだが、そこまでの競った展開になることもなかった。第4戦ではカイル・ラウリーが9分で足を痛めてプレーを続けられなくなるアクシデントに見舞われたが、マット・トーマスとテレンス・デイビスが代役を務めてともに2桁得点をマーク。ラウリーがベンチに退いた後にむしろ勢いを増した。

パスカル・シアカムのみプレータイムが30分を超えたが、他の選手も早々にベンチに下がり、ベンチから出て行く選手の活躍をサポートする側に回った。フィールドゴール成功率55.4%、3ポイントシュート36.8%とチーム全体のシュートタッチが好調で150得点を記録。そのうち100点はベンチスタートの選手によるものだ。

当然、ベンチメンバーの活躍を指揮官のニック・ナースは大歓迎している。「最初の3試合でプレータイムのなかった選手は疲労もなく、戦う準備ができていました。私は少ない人数でローテーションを回しているが、ベンチにいる選手たちがちゃんとプレーできることは分かっている。クリス・ブーシェイ、ロンデイ・ホリス・ジェファーソン、マット・トーマス、テレンス・デイビス。もちろん(ノーマン)パウエルと(サージ)イバカもいる。ローテーションの7人ももっと長いプレータイムを欲しがるので、マネジメントは大変なんだ。このシリーズでは何人かの選手をテストしたが、みんな良い仕事をしてくれたよ」

もう一つの朗報は、スウィープでシリーズをあっさり終わらせたこと。長丁場のプレーオフで、疲労は少ない方がいいし、ケガのリスクも軽減できる。「ファーストラウンドは接戦になりがちで、一番時間がかかるシリーズだ。今回は早く終えることができて、次の対戦まで少し休めるのはありがたい。先週から試合が続いていたので数日休んで英気を養いたい」と指揮官は言う。

『バブル』でのプレーオフは、移動がない代わりに1日置きに試合が組まれる。疲労はもちろんだが精神的な消耗、ケガを抱えた選手へのケアがいつも以上に大事になる。

そういう意味でラプターズにとっての懸念はラウリーのケガだ。「足首の捻挫と報道されているが、実際は足の裏だ。土踏まずの部分に痛みがあり、MRI検査をした。瞬間的に痛みが出て、そのまま消える場合もあるが、彼はそうではなかった。最初は大丈夫だと言っていたが、プレーに戻ったら大丈夫ではなかったようだ」

今シーズン、レギュラーシーズンではラウリーが欠場した14試合を12勝2敗と大きく勝ち越しているが、「彼はチームのエンジンだ。彼がいなくては安心できない」とナースは語る。

「皆さんも分かっているように、ラウリーはチームで最も経験があり、一番タフなリーダーだ。彼がプレーできるかどうかは数日すれば分かることで、憶測で話したくはない。相当ひどいケガでない限りはプレーするだろう。昨シーズンのプレーオフでは左手の親指が使えない状態で16試合プレーした男だからね」

「選択肢は多くないが、我々に限らずどのチームもエースがいない状況は起こり得る。エース不在の状況で戦うことに慣れ、勝つ方法を見つけ出さなくてはならない。それはライリーがいてもいなくても変わらない。うちは多くの選手が参加するスタイルを採用しているし、ラウリーの素晴らしいプレーが見れないとしたら残念だが、その時は他の選手がディフェンスを頑張り、シュートを決めてその穴を埋めるしかない」

カンファレンスセミファイナルでは、セブンティシクサーズをスウィープしたセルティックスと対戦する。こちらは選手層が厚く、ジェイソン・テイタムとジェイレン・ブラウンが絶好調。ネッツよりずっと難しいシリーズになりそうだ。

「セルティックスは才能に溢れていて戦力も厚く、戦術にも長けている。1試合だけ接戦になったが後は圧勝、シクサーズを簡単に退けたチームと対戦するのだから、素晴らしいシリーズになるだろう。ウチも素晴らしいプレーをしないとね」と語る。

ちなみにナースは今シーズンのNBA最優秀コーチ賞を受賞している。昨シーズンの優勝チームからカワイ・レナードが抜けて苦戦が予想されたにもかかわらず、チームの質を落とさなかったことが評価された。第4戦のティップオフを前にしたコートで球団社長のマサイ・ウジリからトロフィーを手渡されたナースだが、感想を求められると「受賞が昨日決まって、今日もうトロフィーがもらえるとは思わなかったよ(笑)」と記者たちを煙に巻いた。

前日の受賞会見で十分にしゃべった、もう『プレーオフ・モード』ということだろう。「受賞はうれしいが、賞については20年後に話すことにしよう」とナースは言う。

53歳になったばかり、NBAのチームでヘッドコーチを務めてまだ2シーズン目。すでにNBAでも屈指の戦術家としての評価を確立した感はあるが、コーチとして彼が成熟するのはまだまだ先。それこそ自分の業績を振り返るのは2040年でいい。