ジェームズ・ハーデン

3年連続得点王とドラフト外ルーキーのマッチアップ

昨夏のトレードでポイントガードを入れ替えた両チーム。遅いペースでチームをコントロールするクリス・ポールと、早いペースでチームを引っ張るラッセル・ウェストブルックの対照的なスタイルは、両チームのカラーを大きく塗り替えました。ただしチーム改革の第一歩としてのトレードだったサンダーに対して、ロケッツは優勝を目指すためのトレードだっただけに、4位と5位でシーズンを終えたのはサンダーからすると望外の結果になりました。

ウェストブルックとしては自分の価値を示すためにも勝ち切りたい対戦ですが、右太ももの筋挫傷で数試合の欠場が予想されています。強烈な身体能力で勝負する選手であるだけに、出場したとしても筋肉系のトラブルではフルパワーで動き回るのは難しく、エースのジェームス・ハーデンの出来が勝負のカギを握るシリーズになりそうです。

今シーズンも平均34.3点で得点王に輝くハーデンですが、徹底した個人技で得点を奪いに行くプレーは効率性に欠ける面もあり、フィールドゴール成功率は44%に留まっています。プレーオフの勝負どころで単純な個人技で止められてきた過去もあり、ハーデンに頼りすぎるのがロケッツの課題でした。

しかし、チームがマイクロボールに切り替えると、ハーデンを起点にしながらも周囲がオフボールでチャンスを作るパターンが増え、単純な個人技に依存するオフェンスではなくなってきました。『バブル』でのシーディングゲームではフィールドゴール成功率が54%まで上がっており、良い状況でプレーオフを迎えます。

ハーデンにマッチアップするのは、新生サンダーの象徴的存在とも言えるルグエンツ・ドルトが予想されます。昨年のドラフトにアーリーエントリーしたものの、どのチームからも指名されず、ドラフト外でサンダーに加わったルーキーは、Gリーグで結果を残しNBAに引き上げられ、ウェストブルックを彷彿とさせるエネルギッシュなプレーで信頼を掴み、シーズン終盤にはスターターに抜擢されました。涙をのんだドラフトから1年後にはプレーオフチームのスターターまで上り詰め、4年契約も勝ち取っています。

身長は小さいながらも分厚い肉体を誇るドートのディフェンスは、クイックネスにもパワーにも対抗できる上に、スクリーナーをかわしながら動いてもマークマンを離さないフットワークを持っています。ハーデンと直接マッチアップしたのは1月の1試合だけですが、このフットワークでドライブを許さず、13本のフィールドゴールのうち11本が3ポイントシュートとなり、成功1本のみと完璧に抑えました。

3シーズン連続得点王とドラフト外ルーキーの対決は名前だけならハーデンの圧勝ですが、各チームのエースを苦しめるドルトのハードなディフェンスを攻略するのは簡単ではありません。ただし、直接対決はマイクロボールになる前だっただけに、ロケッツが個人技に頼らず、チームオフェンスをどれだけ遂行できるかが勝敗を分けるキーポイントになりそうです。

サンダーのオフェンスは4人が17点以上とバランスの良い形。しかも点の取り方は個人での仕掛けが多いため、ディフェンスからすると焦点を絞りにくいオフェンスになっており、ロケッツ側は明確な対策を講じるのが難しくなります。しかもスイッチを多用する守り方はクリス・ポールも熟知しているため、サンダーが望むマッチアップに変更して攻めることができそうです。

個々のディフェンダーが優れているロケッツも簡単にはやられないでしょうが、完全に止めきるのは難しいはず。一方でサンダーも得点力はそもそもリーグ中位程度で、点の取り合いを制するのは簡単ではありません。試合終盤まで接戦に持ち込めば、今シーズン何度も勝利をもたらしてきたクリス・ポールの勝負強さが計算できるだけに、ディフェンスに力点を置いた戦い方を選ぶでしょう。

ウェストブルックが移籍してもハードワークを維持し、そこに新戦力が台頭してきたサンダーがロケッツに挑む形になったファーストラウンド。短期決戦とはいえ同じ相手との連戦ではプレーの読み合いが勝敗に大きくかかわってきます。偉大なスコアリングマシーンのハーデンと言えども、個人技ですべてを解決することはできません。

優勝を目指すロケッツは少しでも楽に勝ちたいところですが、むしろサンダーの方が良いチーム状況で臨めます。クリス・ポールのゆっくりとしたペースに持ち込まれないように、試合中盤にトランジションから勝負を決めきるラッシュを繰り出せるかどうか、両チームの主導権争いに注目です。