デイミアン・リラード

「疲労はあるけど、いつもに比べれば比較にならないよ」

トレイルブレイザーズのレギュラーシーズン最後のゲームは、完全にプレーオフの雰囲気をまとった激闘となった。相手のネッツはすでに東カンファレンスの7位が確定しており、プレーオフのファーストラウンドではラプターズと対戦する。この状況では多くのチームが調整に徹するが、ネッツはベストパフォーマンスを発揮することだけを考えていた。

負ければシーズン終了のブレイザーズが試合を優位に進めるが、第3クォーター途中からネッツがギアを上げる。キャリス・ルバートとギャレット・テンプルを中心に反撃し、一気に逆転。第3クォーター残り2分を切ったところで10点のリードを奪った。

『バブル』でのシーズン再開を9位で迎えたブレイザーズは常に『崖っぷち』で、CJ・マッカラムは腰の骨折に耐えながらプレーを続けている。エースのリラードは『バブル』での平均プレータイムが40分を超えている。14日間で8試合の過密日程ではあるが、それでも彼らは屈しなかった。

「10点差を付けられた時に、何かを起こさなければいけないと思った」とリラードは振り返る。「相手のオフェンスを何度か止めれば、相手のセットディフェンスやダブルチームを避けて速攻を仕掛けられる。リムへアタックしてファウルをもらったり、より成功率の高いシュートを打てると考えた」

そのリラードは、最終クォーター開始1分半、7点差を追う場面で『流れを呼び込むビッグプレー』を起こした。リラードはハーフコートラインを超えたすぐ先、コート中央のNBAロゴの位置から超ディープスリーをねじ込む。「僕がハーフコートにたどり着く前から相手はダブルチームに来ていて、執拗にマークしていた。自信はあったけどなかなかシュートが入らず、消極的にならないようにチャンスがあれば打とうと考えていた。ディフェンスが来る前に良いポジションに入ったので迷わずに打った」

その1分後にはステップバックでの3ポイントシュートを沈めて1点差に。ここからネッツはリラードにボールさえ触らせない密着マークを敢行するのだが、今度はCJ・マッカラムがユフス・ヌルキッチのミスマッチを生かすアシスト、フリースローを誘うドライブでオフェンスを動かしていく。

だがネッツも引かず、絶好調のルバートがしぶとくシュートを沈め、さらにはジャレット・アレンを中心にオフェンスリバウンドを拾い、セカンドチャンスを得点に繋げていく。ブレイザーズは動きにキレはあっても、フィジカルに戦う力強さを欠いており、どうしてもネッツを突き放すことができない。

132-130でブレイザーズがリードしていた残り1分、リラードは今度はディフェンスで『何か』を起こす。自分が打ったジャンプシュートが外れ、リバウンドを拾ったルバートがリズムを確かめるようにボールを運んでいたところを、リラードが狙った。ルバートの隙を見逃さず横からのコンタクトでボールを突っつき、ルーズボールに身体を投げ出して味方へと繋ぐ。「彼は背後からのスティールを警戒してボールを持ち替えた。だから身体をぶつけてボール目掛けて腕を伸ばしたんだ」

リラードがそう冷静に説明するディフェンスでのビッグプレーからボールを託された『盟友』マッカラムは、ジョー・ハリスを横に揺さぶってのジャンプシュートを沈めて2ポゼッション差へと広げた。

残り0.3秒、ルバートが決まれば逆転のジャンプシュートを放つも、これがリングに嫌われる。こうしてブレイザーズが134-133で勝利し、西の8位でグリズリーズとのプレーインへと駒を進めた。それでも、ブレイザーズの選手たちに笑顔はなく、リラードはひざに手を置いて疲労困憊といった様子。それほどの激闘だった。

会見場のリラードは「後半は休まずプレーしたから疲れた」と、マスクを着けていても疲れは隠せない様子。「通常のプレーオフと比べることはできないけど、何か大きなものを懸けて戦っている緊張感があった。今後の試合もそうなるだろう」

休養日は1日だけで、すぐにグリズリーズとのプレーインが始まる。8位に浮上したブレイザーズは1勝すればプレーオフ進出が決まるが、心配なのはコンディションだ。特にリラードとマッカラムは心身ともに限界に近いのではないか、という不安がある。

「メンタル面は問題ない。これまで一度も心配したことがないよ。フィジカル面で多少の疲労は残るだろうけど、プレーオフでは毎度のことさ。いつもは82試合を戦ってプレーオフだけど、今シーズンは4カ月半も休んで、少しトレーニングをして8試合をこなしただけだ。疲労はあるけど、いつもに比べれば比較にならないよ」

『バブル』で最も強いインパクトを残したと多くの人が認めるであろうリラードは、ほんの少しだけ休んでまたコートに立つ。彼とブレイザーズの先には、まだまだこなさなければいけない試合がたくさん待っているのだ。