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緩みが見られたディフェンスを立て直す『渋い』働き

プレーオフ開幕前の時点では、王者ウォリアーズに懐疑的な視線が向けられていた。それもそのはずで、ひざを痛めたステフィン・カリーが1回戦を欠場することが濃厚になり、レギュラーシーズン終盤の気の抜けたプレーを見れば、誰だって敗退の可能性を危惧する。しかも相手は経験豊富なスパーズだ。シリーズ初戦に敗れるようなことがあれば、一気に流れを持っていかれる可能性もあった。

だが、それも杞憂に過ぎなかった。ウォリアーズは序盤からスパーズを圧倒し、危なげない形で勝利。クレイ・トンプソン、ケビン・デュラント、ドレイモンド・グリーンのオールスター・トリオの活躍が際立ったが、ヘッドコーチのスティーブ・カーが用意した『秘策』は、先発ポイントガードにベテランのアンドレ・イグダーラを起用したことだ。レギュラーシーズン終盤には、新人のクイン・クックを先発に抜擢し、クックは結果を残して2ウェイ契約から複数年契約とプレーオフ・ロスターでの居場所を勝ち取った。スパーズとの初戦もクックが先発すると思われたが、カーは絶大な信頼を寄せるイグダーラに大事な一戦を託した。

イグダーラは3得点7リバウンド4アシストに終わったものの、守備で勝利に貢献したと言っていい。すべてのポジションの選手を守れるイグダーラも指揮官の意図を理解していた。同じく先発出場したジャベール・マギーとともに、一時は100ポゼッションあたりの平均失点がリーグ下位にまで落ち込んだディフェンスを立て直すことに徹し、スパーズを封じ込んだ。

思えば3年前の2015年にも同様の起用法が取られた。キャバリアーズが2勝1敗でリードして迎えた2015年のNBAファイナル第4戦、カーはアンドリュー・ボーガットを先発から外し、レギュラーシーズン、プレーオフを通じて一度も先発出場の機会を与えていなかったイグダーラを抜擢。イグダーラは、それまで好調だったレブロン・ジェームズを封じる役割をこなしながら22得点の活躍を見せて勝利に貢献した。この勝利でシリーズをイーブンに持ち込んだウォリアーズは、第5、6戦にも続けて勝利し、40年ぶりの優勝を果たした。

スパーズとの第1戦でイグダーラに与えられた役割も当時と一緒で、守備を引き締めること。トンプソンは試合後、イグダーラについてこう語っている。「アンドレは攻守両面、特にディフェンスでチームに貢献してくれた。彼はすべてのポジションを守れる。今まで見た中でベストのディフェンスをこなす選手だよ。今日は守備時のスイッチで相手を混乱させられた」

カーはクックの若さと勢いを買ってはいる。しかし、ここぞという場面ではイグダーラの守備が必要になる。リーグトップクラスの守備と言われながらも緩みが見られていた時期だからこそ、カーは1回戦での修正を優先した。

まだ第1戦が終わっただけとはいえ、ウォリアーズはすべての疑念を払拭してみせた。カリーが復帰するであろうカンファレンス準決勝、そして順当に行けばロケッツと激突する可能性が高いカンファレンス決勝を見据えた場合、プレーオフ初戦でイグダーラ先発起用という『秘策』がチームに与えた影響は大きい。