『強固な自分たちの形』があるからこそ、柔軟性を欠く弱点
マイク・ブーデンホルザー体制2シーズン目を迎えたバックスは、開幕から勝利を重ねて53勝12敗とリーグトップの成績を収め、シーズン82試合が行われていれば70勝の可能性もある中で新型コロナウイルスによる長い中断期間に入りました。記録的には残念でしたが、替えの効かないヤニス・アデトクンボにケガの危険性があったことを考えれば、プレーオフに向けてはプラスに働いたかもしれません。
NBA全体で『ゴール下か3ポイントシュート』という得点効率の良いシュート選択が常識となった中で、バックスは『アデトクンボか3ポイントシュート』と表現すべき戦術を構築し、インサイドではアデトクンボが暴れ回り、チームメートはコート全体にバランス良く広がって3ポイントラインから離れていても積極的にシュートを打ちます。その一方でオフェンスリバウンドはリーグ25位と少なく、シュート後には自陣に戻ってディフェンスを固めることを徹底しています。このように自分たちの強みを最大限に生かすために、細部にまで工夫が練りこまれた『強固な自分たちの形』と『徹底したリスクマネジメント』がリーグ最高勝率の理由です。
1年前のプレーオフでもカンファレンスファイナル第2戦までは順調に勝ち進んでいきましたが、そこからラプターズにまさかの4連敗を喫しました。相手によって柔軟に戦い方を変えていくラプターズに『バックスの形』を破壊されたのが敗因でした。
バックスにとっては『強固な自分たちの形』を持つからこそ柔軟性を欠く弱点を突かれたのでした。迎えた今シーズンの開幕戦ではアデトクンボがファウルアウトするも、そこからブルック・ロペスのポストアップを活用するなど、ラプターズに突き付けられた課題に取り組む姿勢をシーズン当初から示しており、それは特に2人のエースに明確に表れています。
弱点の克服に挑んだアデトクンボ、異分子になったミドルトン
誰にも止められないモンスターっぷりを発揮するアデトクンボは、ついに3ポイントシュートの改善に本格的に取り組み、成功率は30.6%に留まっていますが、『離されたら打つ』スタンスは変えることなくアテンプト数を4.6本まで増やしてきました。昨年夏のワールドカップではアウトサイドでフリーにされるとプレーに迷いが生まれていましたが、シーズンに入ると迷いを断ち切り、23試合連続で3ポイントシュートを決めるなど、今では決まるかどうかは関係なく自信を持って打つようになっており、プレーオフの勝負所で決めるための準備が整いつつあります。
もう1人のエース格であるクリス・ミドルトンは、得点効率が悪いとされるミドルシュートの本数が劇的に増え、バックスの戦術に合わないシュートチョイスをしています。チームのミドルシュートのほぼ半分をミドルトンが打っていますが、戦術を無視して自分勝手にプレーしているわけではなく、インサイドとアウトサイドに明確に分けられ、『強固だが一本調子』だったチームオフェンスに変化をつける役割を担っています。
ディフェンスからするとプレッシャーを弱めておきたいミドルレンジでもチェイスしなければならなくなったことで、バックスのオフェンスはより止めにくくなってきました。しかもミドルトンは得点効率が悪いとされるミドルシュートでも50%以上の確率で決めており、シュート選択の常識を打ち破っています。
アデトクンボに弱点の克服を促し、ミドルトンには得意のプレーでチームの異分子になることを求める。つまりプレーオフに向けたテストを織り込んだ上で53勝を挙げています。「柔軟性に欠けるためプレーオフに弱い」と言われるブーデンホルザーですが、今のバックスを見る限り、プレーオフで勝つための準備はしっかりとしてきたと言えます。
あとはその成果を証明しなければいけません。長い中断期間は十分なトレーニングは積めなくても、コーチ陣は各チームの分析と対抗策を練り上げてきているはず。最も分析されているであろうバックスですが、両エースを中心にすべての対抗策を打ち破ってシーズン通りの強さを発揮できるかが注目されます。
Full squad in the bubble. pic.twitter.com/UsWPi5SOha
— Milwaukee Bucks (@Bucks) July 28, 2020